蓄音機コンサート開催。南相馬市博物館で100年前の音がよみがえる 【福島県南相馬市】

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福島県南相馬市の南相馬市博物館で5月5日、所蔵する蓄音機とSPレコードを使った蓄音機コンサートが開かれた。少しざらついた音に耳を澄ますと、時を重ねた資料が単なる展示物ではなく、当時の暮らしや娯楽、地域の記憶を伝える存在として立ち上がってくる。博物館の小さなホーンから響いたのは、音楽だけではなく、保存されてきた時間そのものだった。

収蔵資料が音を取り戻す蓄音機コンサート

南相馬市原町区の南相馬市博物館で開かれた蓄音機コンサート。会場には子どもから大人まで約40人が来場し、博物館が所蔵する蓄音機に耳を傾けた。

この日ガイド役を務めたのは、南相馬市博物館の元学芸員で、民俗学や郷土史の調査・展示に携わってきた二本松文雄さんと南相馬市在住の蓄音機愛好家・佐藤晴美さん、そして担当学芸員の佐藤義典さん。二本松さんは、エジソンが発明した蝋管型蓄音機から円盤型レコードへの変遷、日本に蓄音機が入ってきた明治末期以降の歴史などを紹介した。その音は決して鮮明ではない。雑音が混じるが、それでも、どこか柔らかく近い。音楽を「再生している」というより、保存されてきた時間が会場の空気の中にほどけていくように感じた。

年2回続く博物館の恒例企画

この蓄音機コンサートが始まったのは10年ほど前で、現在は年に2回開催されている。同館では複数の蓄音機とSPレコードを収蔵しており、当日使用された蓄音機も博物館の所蔵品だ。最も古いものは1910年製だという。

 一般的には博物館の資料は収蔵庫で保管され、その一部が館内で展示されているイメージがある。しかし、このコンサートでは、収蔵資料が実際に音を出し、来場者の前で役割を取り戻す。地域の博物館が、保存してきた資料を「見るもの」から「体験するもの」へと開いている点に、この催しの大きな意味がある。

民謡から映画音楽まで、時代を映す選曲

この日のプログラムでは、相馬盆唄や相馬甚句といった地域にゆかりのある民謡をはじめ、映画音楽や流行歌が紹介された。

「パリの屋根の下」「瞼の母」「かんかん虫は唄う」、浪江町出身の作曲家・佐々木俊一が手がけた「涙の渡り鳥」や「青春グラウンド」、戦後の映画「そよ風」で使われた大ヒット曲「リンゴの唄」、浅草六区のにぎわいを背景にした「浅草の唄」などが流された。

それぞれの曲には、当時の社会や娯楽文化が重なっていた。「かんかん虫は唄う」では、横浜の港で船のさびを落とす作業音に由来する言葉が紹介され、「浅草の唄」では、明治から昭和にかけて大衆芸能の中心地だった浅草六区の変遷が語られた。音楽を聴くだけでなく、その曲が生まれた時代の空気もたどる内容だった。

SPレコードと蓄音機の仕組みをわかりやすく

二本松さんは「SPレコードの『SP』は、再生時間が短いことからショートプレイと思われることがありますが、実際にはスタンダードプレイのことです」と説明した。

SPレコードは1枚で3分から5分ほどしか再生できず、クラシックなど長い曲は複数枚のレコードに分けて聴かれていたという。また会場では、再生の途中でゼンマイを巻き直しながらSPレコードに針を落とす場面があり、音がどのように生まれるのかを間近で見ることができた。

蓄音機には現代の音響機器のような音量調整機能がないため、ホーンの一部を板でふさいだり、針の太さを調整したりして音量を変える。しばらくすると、ラッパ状のホーンから少しざらついた歌声が広がった。現代のスピーカーから流れる電気で増幅された音ではなく、針がレコードの溝をなぞることで生まれる振動が、そのまま空気を震わせている。

浜通りゆかりの音楽家にも光を当てる

講座では、福島市出身の古関裕而(こせき・ゆうじ)に加え、佐々木俊一や鈴木正夫など、浜通り地域にゆかりのある音楽家も紹介された。こうした人物の掘り起こしには、講師の二本松さんらが力を注いできたという。蓄音機やSPレコードを入り口に、地域に残る音楽文化や人物の足跡を見直す機会にもなっている。

資料を鳴らすことと、守ること

この日の講師のひとり、蓄音機愛好家の佐藤晴美さんは、叔父が収集していた蓄音機とSPレコードをきっかけに、4、5年前から趣味で聴き始めたという。「蓄音機には蓄音機の良さがあります」と話す佐藤さんの言葉通り、会場で聴いた音には、デジタル音源とは別の魅力があった。

佐藤さんはまた、鉄の針がレコードの溝を削りながら音を出していることにも触れ、「何度も聴かれたレコードは溝がすり減り、雑音が出たり、やがて音が出なくなったりします」と説明した。

古い資料を実際に鳴らすことには、保存と活用の両面で慎重さが求められる。それでも音を鳴らすことで初めて伝わるものがある。蓄音機は現在、新たに製造されていないが、部品や針を入手し、修理しながら使うこともできるという。竹製のレコード針もあり、針箱がインターネット上で手に入ることもあるそうだ。資料は古いものだが、それを維持し、鳴らし、伝えようとする人の手によって、今も活用されている。

音が呼び起こす記憶と地域の時間

会場では、流れてきた曲に合わせて小さく口ずさむ参加者の姿もあった。SPレコードに刻まれた歌は、単なる古い音源ではなく、人の記憶や感情を呼び起こす力を持っているのだろう。博物館に残された資料が、来場者の反応によって再び生きた時間を持つ。その場面が印象的だった。

南相馬市博物館の蓄音機コンサートは、地域の博物館が収蔵資料を単に保管するだけでなく、来館者が体験できる形で開く取り組みである。100年前の音を聴くことは、音楽史を知るだけでなく、録音技術、地域の文化、当時の人々の暮らしや娯楽に触れることでもある。

古い資料は、静かに残すだけでは伝わりにくいことがある。実際に鳴らし、聴き、解説を通して背景を知ることで、過去は今の体験につながる。南相馬市博物館の小さなホーンから響いた音が、これからも地域の記憶を次の世代へ伝える入口になっていくことを期待したい。

※写真はすべて2026年5月に南相馬市博物館にて筆者撮影

情報

南相馬市博物館
住所:福島県南相馬市原町区牛来字出口194
公式サイト:https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/61/6150/61503/index.html
※開館時間、休館日、催しの開催情報は公式サイトで確認を。

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。2025年には写真を通じた地域情報発信の一環として、郡山市(福島県)の市民カメラマンも務めた。

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