愛媛県今治市からしまなみ海道で一番最初の島、大島には「亀老山展望公園」という「超絶景」を楽しめるスポットがあります。
ちなみに「亀老山」の読み方は「きろうさん」。
世界的建築家、隈研吾氏の設計で、2017年には大手旅行サイト「トリップ・アドバイザー」の展望スポットランキングで全国2位に選ばれた、それはもうステキなステキな展望公園なのです。
しまなみ海道は多くのサイクリストが訪れます。
サイクリングの途中に、この亀老山展望公園にも「行ってみたい!」と思う方も多いのではないでしょうか?
しかしですね。
実は、ここはサイクリストが「ちょっと寄っていこうぜ!」と気軽に行けるところではないのですよ。
残念ながら。
「亀老山」という名からも分かるように山にある公園で、眺望景観が良い、ということは山の頂上にあるのです。
頂上へ行くには車ならもちろんすぐですが、サイクリストが行くには、標高307.8m、平均斜度8度の激坂を延々と上り続けなければならないのです。
ということで、この記事は、大島在住の初心者サイクリスト(私)が、亀老山展望公園にロードバイクで上ってみた体験記です。
「しまなみ海道に行ったら、亀老山展望公園にロードバイクで上ってみたいけど、すっごい坂だろうから上れるか心配!!」
という方と
「50歳にしてヒルクライムに挑戦する中年男性の悲哀をちょっとのぞき見してみよう」
という奇特な方向けに書きたいと思います。
いざ出発!
私は、この亀老山展望公園がある今治市の大島に一年半前から住んでおります。
亀老山の麓までは、ロードバイクで15分弱。
「そんなに近かったらもっと早く行けよ」
という声が聞こえてきそうですが、近いとかえって行かないものですよね。
あ、もちろん車では何度か行ってますよ。
今年で50歳となった初老の身としては、恐怖でしかないのですが、「ダイエット」という目的もあり、遂に挑戦することにしたのです。
何という男らしさでしょうか。
「挑戦するぜ!」
と格好良く言ったのは良いのですが、実際はなかなか行く気になれずに(間違いなくしんどいですから)何日もうだうだと過ごしていました。
が、とある日曜日、一日中一歩も外に出ないでゴロゴロと過ごしていて、ふと
「これではイカン!」
と思い立ち、遂に私は亀老山へロードバイクを走らせることにしたのです。
ゲームをしながらお菓子を貪り喰い、一日の90%をベッドで過ごした罪悪感。
「亀老山? やってやろうじゃないか!」
体内に摂取した過剰なエネルギーと午睡でのリカバリーが、私の気を大きくしていたのでしょう。
ということで、いざ出発!
ずーーーーーっと続く坂道
しばらく行くと斜めになりながらも、ギリ職務を全うする看板を発見。
山の名前から老けた亀をイメージしていたのですが、キャップをかぶったやけに陽気な亀がニコやかに私を迎えてくれました。
この時点で、既に息が切れかけているのですが、いよいよ亀老山ヒルクライムスタート!
もうね、いきなり坂です。
っていうか、ここからはずーーーーーっと激坂が続きます。
昼寝からの寝起き30分の体にこの坂はあまりにキツい。
あっという間に後悔しましたが、ここで帰ると二度と亀老山にロードバイクで上ろうなんて思わないでしょう。
半泣きになりながらギアを軽ーくして、地道にキコキコとペダルを踏んで、坂を上っていきます。
それにしても幸いだったのが、この日は他のサイクリストや散歩の方がいなかったことです。
「ゼー! ゼー!」
と自分でも驚くほどの呼吸音を発しながら自転車に乗っていても、誰にも指をさされて嗤われたりしないのです。
ヒャッホーッ♪
兄貴、喘鳴し放題ですぜ!
噴き出す汗を撒き散らせながら、人目をはばからず殊更大きくゼーゼーと呼吸音を発し、喘鳴を満喫します。
それにしても、このようなストレス解消法があったとは。
本でも書こうかなぁ。
「あなたも必要以上に呼吸音を発し、ストレスを解消しよう!」
「誰でもできる! むしろ体力がない方が好都合!」
「ヨガなんてもう古い! これこそ新しい呼吸法!」
「ストレス解消効果がハンパない! 気をつけるのは周りに人がいないかを確認するだけ!」
「敢えて人前でやることで、また違ったストレス解消法となる!」
・・・。
いや。
あかん。
こんな本100%売れない。
ちなみに何故こんなことを考えているかというとですね。
あまりの辛さにどうでも良いことを考えて、上っても上っても途切れない坂から現実逃避をしているだけなのです。
果たして、私は標高307.8mの亀老山展望公園まで上りきることができるのか。
静かな森の中をひたすら上る
文字通り森閑とした中に私の呼吸音だけが響きます。
が、時折、上から車が下りてきます。
こっちは汗だくになりながら鬼の形相で自転車を漕いでいるのですが、周りが静かなので、車が来るとすぐに気づくので安心です。
車が近づいて来たその瞬間だけ、酸素を求めて前に突き出ている顎をキュッと引き、俯き気味にして、普通の表情を作り平静を装います。
これで車の中で、
「パパ! あの人、死にそうな顔して自転車に乗ってたね!」
「そうだねぇ。マー君はあんな大人になっちゃダメだよ」
「はーい! あんなに必死なのに自転車チョー遅かったね!」
「そうだねぇ。マー君はあんな大人になっちゃダメだよ」
「はーい!」
といった会話になることはないでしょう。
ひと安心(まだ現実逃避中)。
かなり上って、「もう勘弁してくれ!」と心の中で叫んだ時に、このような看板がありました。
更にここから1kmも坂が続くという地獄の宣告。
応援してくれているつもりが、絶望を与えていることに気づいてほしい。
ちなみに「藻塩アイス」は展望台の売店で売っている名物アイスです。
しかし、ここまで来たらもう引き返せません。
残り1kmの激坂を上りきってやろうじゃないですか。
視界が開け、絶景と対面!
そして、なんどもなんども挫けそうになりましたが、遂に亀老山展望公園のちょっと手前にあるビューポイントに到着。
ずっと木々に景色を遮られていた道を上ってきたので、視界がパァッと開けて海が見えたときはちょっと感動です。
まずは一緒に上ってきたロードバイクを撮影。
ここからの景色。
そして「こんな高くまで上ってきたのか」と達成感に浸れます。
少しゆっくりしようかと思ったのですが、なんと前方からうら若いカップルが手をつないでやってきたではありませんか。
これはいかん。
この先の山頂の展望台と違い、ここのビューポイントはあまり人がいないので、このカップルは人気を避けて、わざわざやってきたのでしょう。
どうか貴兄らもこの純朴な青年の気持ちになっていただきたい。
今日は初デート。
初めてできた愛しい彼女と美しい夕陽を眺め、ロマンティックな気分に浸ろうと思って、遠くからやって来ました。
雲ひとつない天気で、もう最高です。
ところがなんということでしょう。
こともあろうに呼吸の荒い小太りの汗みどろのおじさんが、ニヤつきながら自分の自転車の写真を撮影しているではありませんか。
「最悪や…」
青年の絶望の声が私にも聴こえてくるようです。
私はまったく悪くはないのですが、何故かとても申し訳ない気持ちでいっぱいになり、心の中で「ごめんね! ごめんね!」と何度も謝りながら、カップルから逃げるようにロードバイクに跨り、山頂へ向かいました。
いよいよ展望公園へ!
亀老山展望公園到着。
いろいろありましたが、最後のひと坂を必死で上って、遂に到着。
しかし永遠に続くかと思われた亀老山の坂でしたが、上ってみれば恐らく20分くらいでしょうか。
たった20分の運動では到底痩せることなどできるはずもなく、「徒労」という文字が頭にチラつきます。
やれやれ。
入口辺りに亀の石像がありました。
なぜか頭に大量の小銭が。
何かご利益でもあるのでしょうか。
入口。
この展望台は建築家の隅研吾氏の設計で、建築物なのに「建築を消そう」という凄まじく格好良い試みで作られたそうです。
山頂部分に建築物を埋め込むような形で作られたので、パッと見は外からだと展望台があると気づきにくいのです。
その結果、自然の景観を損なうことなく素晴らしい展望台ができました。
作るの大変だったでしょうね。
山の中にコンクリートの格好いいデザインの展望台があります。
まずは夕陽と反対側の展望台へ。
今治市内や四国方面の景色。
そして、いよいよサンセットビューポイントの方へ向かいます。
が、さっきから若者の集団がなんだか騒いでいるのが気になります。
左側の人の影がうるさい若者たち。
ただ、逆光でなんだか格好良く撮れてしまいました。
ちょっと癪ですね。
その後、徐々に人も増えてきたので、若者たちも時折大声で騒ぎますが、少し大人しくなりました。
まぁ、これなら許容範囲です。
しばらくすると、ようやく夕陽らしくなってきて、眩しさに目を細めなくても夕陽を見ることができます。
「ザ・しまなみ海道」といった景色。
実際ここからの写真はよく見かけます。
そして更に夕陽は沈み、いよいよ消えていきます。
さて。
他の観光客の皆さんはまだ夕暮れの景色を眺めて余韻に浸っていますが、ロードバイクで来ている私は、微かに明るいうちにとっとと帰らなければなりません。
街灯のない漆黒の闇の山道をロードバイクで下りる恐怖は考えただけでゾッとします。
タヌキとかが飛び出してくるかもしれないし、蛇が道を這っていることもあります(実際、車で来たときは、道路に車に轢かれたと思しきタヌキが道の片隅にひっくり返っていました)。
あんなに苦労したのに下りはあっという間。
山を下りたらのんびりと家まで帰ります。
太陽は沈みましたが、逢魔が時でとても綺麗です。
展望台の遠くからの景色も良いですが、海の近くの景色もステキです。
ということで、無事に帰宅できました。
それにしてもロードバイクで展望台に行っただけの話が、とんでもなく長くなってしまいました・・・。
どなたか私に文章をまとめる力をくれないものか。
今度、亀老山展望公園に行ったら亀の石像に小銭を置いてお祈りしてみることにしましょう。
【結論】
写真を撮ったり、水分補給などで途中で足をつきましたが、50歳の小太りの男性でも、途中でロードバイクから降りることなく最後まで漕いで上ることができました。
しかし、想像以上にしんどいです。
普段からガチでロードバイクに乗っている方以外は、車での登坂をオススメしますが、がんばった後の絶景は更に格別で、達成感も味わえるので、ぜひチャレンジしてみてください。