AIによって地方企業は幸せになれるのか?業務効率化の先にある「余白」の使い道とは【福島県福島市】

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生成AIを導入すれば、仕事は速くなる。だが、そこで生まれた時間を、これまでと同じように目の前の作業で埋めるだけなら、働き方そのものは変わらない。

福島県福島市を拠点に、生成AIを活用した企業の業務改善に取り組むXenkai(ゼンカイ)株式会社。地元企業への支援では、これまで約2日かかっていた作業が約10分まで短縮された事例もある。

しかし、注目したいのは「どれだけ仕事が速くなったか」だけではない。その企業が、生まれた時間をお客様と向き合うための時間、データを分析するための時間、これまで手をつけられなかったことを考えるための時間といった「余白」として使えるようになったことだ。

AIによる業務効率化の先で、地方企業の働き方はどう変わるのか。そして、生まれた「余白」を何に使えば、企業やそこで働く人はより幸せになれるのか。Xenkai株式会社代表取締役の渡邉隆氏に話を聞いた。

約2日かかっていた作業が10分程度まで短縮。地元ドラッグストアで生まれた大きな成果

福島市のドラッグストア(写真は渡邉氏提供)

Xenkaiは法人向けに生成AI研修を提供している。企業ごとに内容をカスタマイズし、成果創出まで徹底的に「伴走」するのが特徴だ。

例えば、Xenkaiと同じ福島市にあるドラッグストアでは、販促用の4コマ漫画を手描きで制作していた。しかし、完成まで丸2日かかることもあり、担当者にとって大きな負担になっていた。

そこで、まず『ChatGPT』で構成案を生成し、『Gemini・Nano Banana』を使って画像化した。その結果、約10分で4コマ漫画が完成した。

渡邉氏は「もちろん最後に微調整はしますが、生成AIを使えば、ほぼ7~8割の完成度のものができます」と話す。

Xenkaiによる業務改善以前は、ドラッグストアのクリエイティブ担当者たちも疲弊していたという。生成AIの実用的な使い方を習得し、「本当に助かりました」と感謝されたと渡邉氏は振り返る。

効率化によってできた時間をデータ分析に活用

上のドラッグストアの事例では、約2日かかっていた作業が10分程度に短縮された。かなりの効率化であるが、ここで一つ疑問が浮かぶ。

その短縮によって生まれた時間を、何に使ったのか。

渡邉氏は次のように話す。

「もともとこのドラッグストア様は、経営層を含め地元が好きで、常に『お客様と向き合う時間が欲しかった』と話されていました。(お客様が)どういう商品を欲しがっているのか、どのような接客が望ましいのか、どういった商品ラインナップにするかといったことを考えることに時間を割けるようになったと話していました」

業務効率化によって、こうした分析業務に加え、クリエイティブの改善や意思決定の迅速化にも時間を使えるようになったという。

「同社は現在、AI活用をクリエイティブ制作にとどめず、店舗レイアウトの分析、売り場のヒートマップ化、商品配置の最適化などにも広げているようです」

業務効率化によって生まれた「余白」を、分析や改善のために使う。その結果、お客様にとってより良い売り場やサービスを考える時間が生まれているのだ。

人手不足の地方だからこそ、AIが活躍する理由

福島県のテレビ局の改善にも取り組む(写真は渡邉氏提供)

「地方企業、特に中小企業では人手が足りない」という話を、ニュースなどで耳にすることは多い。渡邉氏に聞くと、実際に地方企業では人手不足が大きな課題になっているという。

しかし、AIの登場によって、「人が足りないなら採用する」という従来の発想にも変化が出てきている。

「これまでは単純に『人がいないから採用する』と考える企業が多かったです。しかし、AIが進んでくると、『本当に人間がやる必要があるのか』という点から考えられるようになってきました。AIに任せられる業務を洗い出すことで、『1人採用しようと思っていたが、採用しなくても対応できた』というケースもあります」

人材育成についても、AIによって大きな変化が生まれていると渡邉氏は言う。

「例えば製造業だと、ベテラン社員の頭の中にあるノウハウを、若手に技能継承していかなければなりません。これまで技能の教え方はベテラン社員に依存していましたが、AIの登場で、だいぶ標準化できるようになっています」

具体的には、ベテラン社員の作業の様子を動画で撮影して文字起こしし、その内容をAIに整理してもらう。それによって、これまで口頭で伝えていたノウハウをマニュアル化できるようになった。

ベテラン社員が毎回後輩に説明していた内容を、誰でも理解できる形で残せる。技能継承の効率化・標準化という面でも、AIは力を発揮している。

変わらない現場には「まず10%改善」から

とはいえ、AIを実際の現場に導入するのは簡単ではない。経営者が「AIを使おう」と考えても、現場から「今の仕事だけでも忙しいのに、AI活用まで手が回りません」と反発を受けることもある。

「そこで、いきなりAIを使って全業務を改善するのではなく、目の前の業務を『10%』楽にするところから始めます。ひとたび『仕事が楽になりそうだ』という成功体験が生まれると、現場でもAIを使う動きが出てきます」

重要なのは、この「10%の改善」だという。目に見える形で効果を実感できれば、現場からも自主的にAIを活用しようという動きが生まれてくる。

中小企業のAI導入にはなぜ「トップダウン」が重要なのか

業務イメージ写真:photoACより FineGraphics

渡邉氏は、特に中小企業において、経営層の意思決定が非常に重要だと話す。

「現場だけでボトムアップ的に会社全体を変えるのが難しいのは事実です。ですから、経営層が『会社としてAIを使う』という方針を明確に示す必要があると思います」

理想は、経営者自身がAIを使うことだ。しかし、経営者が必ずしもITに詳しいとは限らない。その場合は、社内のナンバー2や担当者を「AI活用の旗振り役」に任命し、業務に組み込んでいくとよいという。

現場で小さな成功体験を積み重ねるためにも、経営層の後ろ盾が欠かせない。

つまり、「経営層の意思決定」と「現場で動ける推進役」。この二つをそろえることが、地方企業のAI活用を進めるうえで重要なのだ。

2030年までに「地方企業100社のAI変革」を目指す

業務イメージ写真:photoACより taka ac

Xenkaiは、2030年までに「地方企業100社のAI変革」を実現することを目指している。

「弊社は現在、すでに数十社程度の支援実績があります。今後さらに全国へ展開する計画です。対象となるのは主に地方の中小・中堅企業、特に小売業や製造業です」

100社への支援が実現すれば、前述した人手不足や技能継承といった地方企業の課題を解決する一つのきっかけにもなるだろう。

同時に、Xenkaiには地方企業におけるAI活用のノウハウが蓄積されていく。ある企業で得られた知見が、別の企業の課題解決に生かされる。そんな循環が生まれる可能性もある。

AIによって地方企業は幸せになれるのか

渡邉氏が描く未来は、「AIによって人間がさらに忙しくなる社会」ではない。

「音声AIも技術力が上がってきました。今ではAIエージェントのように、自律的に仕事をこなすAIもありますから、AIが担ってくれる作業は今後どんどん増えていくと思います」

実際、冒頭で紹介したドラッグストアでは、AIによって業務時間が短縮されただけではない。そこで生まれた時間を、お客様と向き合ったり、データを分析したり、より良い売り場を考えたりする時間へと変えている。

ここに、「AIによって地方企業は幸せになれるのか」という問いを考えるヒントがあるのかもしれない。

地方企業が抱える人手不足を、すぐに解消することは難しい。人口を急に増やすことも、働く人を簡単に増やすこともできない。しかし、一人ひとりが目の前の作業に追われる時間を減らし、「本当はやりたかった仕事」に時間を使えるようにすることはできる。

AIが人を幸せにするのではない。AIによって生まれた「余白」を、人間がどう使うか。その選択の中にこそ、幸せはあるのだろう。

お客様と話す。新しい商品を考える。若い世代に技術を伝える。あるいは、少し早く仕事を終えて家族との時間を過ごす。それまで「忙しいから」と諦めていたことに、取り組めるようになる。

業務効率化とは、単に同じ仕事をより速くこなすことではない。その先に生まれた時間を、何のために使うのかまで考えて初めて意味を持つ。

AIによって地方企業は幸せになれるのか。

その答えは、AIの性能ではなく、生まれた「余白」を私たちが何に使うかに懸かっている。

※注釈が無い写真は全て2026年9月16日に筆者撮影

情報

会社名:Xenkai株式会社
設立:2023年10月17日
住所:〒960-8053 福島県福島市三河南町1番20号 コラッセふくしま2階CBS内
代表取締役:渡邉 隆
HP:https://xenkai.jp/

安齋慎平

安齋慎平

福島県在住のライター。企業や自治体、政府広報など幅広い領域でインタビュー記事を担当。主な執筆記事に「東急ハンズの中の人に聞く『つぶやきの作法10ヶ条』」や「全職員を巻き込み、自ら改革する市役所を作る!–福島市役所のDXを進めるキーパーソンたちに聞く」など。「デイリーポータルZ」月間新人賞受賞経験あり。

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