福島市役所が「日本DX大賞2026」庁内DX部門で大賞に輝いた理由は 、「改善」を歓迎する組織文化にあった(後編)【福島県福島市】

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福島市と富士フイルムシステムサービス株式会社が2024年に始めた共同研究は、単なる「システム開発」ではなかった。
前編(https://thelocality.net/fukushima-city-dx-part1/)では、2019年の災害対応をきっかけに、福島市が罹災証明書の申請や被災者支援の仕組みを見直し、民間企業との共同研究に至るまでを追った。

では、その共同研究では、実際にどのように新しい仕組みがつくられていったのか。話を聞いていくと見えてきたのは、行政が要望を出し、企業がシステムを納品するという一般的な関係とは少し違う進め方だった。

営業担当だけでなく、実際にシステムを設計・実装するSE(システムエンジニア)も市役所の現場に入り、複数部署の職員とともに業務そのものを見直していった。その過程で変わっていったのは、システムだけではない。

「台帳に記録する仕事」から「台帳が仕事を動かす仕組み」へ。そして、職員の業務を楽にすることが、そのまま市民への支援を早くすることへつながっていった。

なぜ福島市では、ここまで仕事のやり方そのものを変えることができたのか。後編では、共同研究の現場と、その背景にある「改善を歓迎する組織文化」に迫る。

営業担当だけでなく、システムをつくるSEが市役所に入った

共同研究で信太さんが高く評価していたことの一つが、チームのつくり方だった。福島市側からは、危機管理室、資産税課、情報企画課など複数の部署が参加した。

富士フイルムシステムサービス株式会社側も営業担当だけではなく、チームリーダーや、実際に設計・実装を担当するSE(システムエンジニア)が直接参加した。このSEの参加が、今回の件では大きかったという。

一般的なシステム開発では、市役所側が営業担当に要望を伝え、営業担当が社内のSEへ持ち帰る形が多い。しかし、伝言が増えれば、市役所側の意図と完成品がずれてしまうことがある。

今回の共同研究では、実際にSEが行政の現場の話を直接聞いた。

「私たちが『こうなるといいな』と言うと、『ではこんな画面ならどうですか』と、次の集まりには実際の画面を見せてくれました」

9月、10月、11月と検討を重ねる中で、画面は次々と変化していった。行政側が業務の流れを説明し、SEが形にする。現場の職員が使う立場から意見を出す。すると、次回の打ち合わせの時には、すでに修正版があった。

「システムを発注する側」と「つくる側」に分かれるのではなく、一緒にシステムそのものを考えていったのである。

部署をまたいだから見えた「再調査」の問題

写真:photoACより akizou

その成果の一つが、罹災証明書の「再調査」への対応だった。

実地調査は資産税課が行っているが、たとえば「半壊」と判定された住民が、「もっと被害が大きいのではないか」と再調査を申し出る場合がある。しかし、その間にも支援金などの手続きが進んでしまう。

再調査によって被害認定が変われば、支援金の追加支給や変更、場合によっては返還手続きまで必要になる可能性がある。実は、これまでは家屋を調査する部署と、その後の支援を担当する部署がシステム上で十分につながっていなかった。

そこで新しい仕組みでは、再調査に入った時点で関連する支援処理をいったん止め、判定が確定してから再開できるようにした。

この発想は、資産税課だけでは生まれにくいものだった。

複数部署と富士フイルムシステムサービス株式会社のSEが同じテーブルを囲み、最初から最後まで業務を見ることではじめて見えてきた問題だった。

「台帳に入力する」から「台帳が仕事を動かす」へ

両者の共同研究で、当初より重要な存在になっていったものがある。それが「被災者台帳」だ。

従来の台帳は、各部署が支援を行った後に、その結果を入力するものだった。しかし、現場の職員からすれば、一日の支援業務を終えたあとに「今日やったことを台帳へ入力する」という仕事が残る。

しかも、できあがった台帳を見ても、ある制度について記載がない人が「制度の対象外」なのか、それとも「申請していないだけ」なのか、すぐには分からないという懸念点もあった。

手間をかけて記録しているのに、その情報が次の支援に十分生かされていなかったのだ。そこで、新しい仕組みでは、この情報の流れを逆転させた。

まず前提として、罹災証明書の申請時に住民情報と連携し、世帯情報を取得する。その後、家屋調査によって「半壊」「全壊」などの被害程度が確定する。すると、台帳を見てその世帯が利用できる可能性のある支援を精査できるようになる。

つまり、従来は「各担当課 → 被災者台帳」だった情報の流れが、「被災者台帳 → 各担当課」へ変わったのだ。「この世帯は、この支援の対象ではないか」と、台帳の側から市民のニーズを拾えるようになった。

信太さんによれば、この「矢印が逆になった」点は、日本DX大賞2026でも評価された部分だったという。単に紙を電子化する類いのものではなく、仕事の順番そのものを組み替えた、という点である。

ここまで話を聞いて、私はようやく「なぜこれがDXなのか」が分かってきた。それは、今回のシステム開発が単なるデジタル化ではなく、「トランスフォーメーション=変革」であり、まさにDX(Digital Transformation)だからだ。

職員を楽にすると、市民への支援も速くなる

鈴木さんは2021年から2023年ごろまで危機管理室に在籍し、2021年と2022年の福島県沖地震への対応を経験している。当時の職員は、家屋調査では紙の調査票を現地へ持っていき、写真を撮影し、戻ってから整理する。

さらにExcelへ入力し、資産税課から危機管理室へデータを送り、発行件数などを集計して災害対策本部へ報告していた。しかも、写真と家屋情報も自動的にひも付いているわけではない。番号を見ながら、「これはこの家の写真だ」と職員が確認していた。

「みんな、毎日深夜0時近くまで働いていましたね」

再調査になれば、さらに家屋内部を確認し、大量の写真やデータを整理しなければならない。災害時には一つの部署だけでは対応できず、全庁から応援職員を集めることになる。だからこそ鈴木さんには、新しい仕組みによって何が変わるのかが実感として分かった。

「絶対これで良くなるだろうな、というのは分かっていました」

このシステム導入により、試算では過去に対象1000件を処理するのに約400時間かかっていた支援業務について、業務量がおよそ半分になるとのことだった。

しかし、福島市が目指しているのは、単なる「職員の省力化」ではなかった。職員の処理が早くなれば、罹災証明書を早く発行できる。支援金も早く届けられ、問い合わせにも早く答えられる。さらに、申請されていない支援にも気づきやすくなる。

これまでは、被災した住民自身が30を超える支援制度を調べ、「自分は何の対象になるのか」を判断しなければならない場面もあった。

新しい仕組みなら、窓口で別の制度の未申請にも気づき、職員側から「この支援も対象になる可能性がありますよ」と案内できる。

職員を楽にすることと、市民サービスを良くすることは、別々の話ではない。職員が同じ情報を何度も検索する時間を減らせば、その時間を市民への支援に使える。DXによって市役所内部の仕事が変わることは、そのまま市民への支援の速さにもつながっていく。

福島市が頑張っていたのは「DX」ではなく「X」

では、なぜ福島市では、こうした仕事の見直しができたのだろう。

その背景を尋ねると、信太さんは「かえるチャレンジ」という取り組みの存在を挙げた。福島市では2019年ごろから、総務部門を中心に仕事の改善を促す取り組みを進めてきた。大切なのは、単にデジタルツールを導入することではない。

「今までの仕事のやり方を変えていい」という、改革を歓迎する空気をつくることだった。

若い職員ほど、「こうした方がいい」と感じていても、自分が本当に今までのやり方を変えていいのか迷うことがある。そこで上司や事務局が、「やっていいんだ」「どんどん変えていい」と背中を押す。

その積み重ねによって、仕事を変えることへの心理的なハードルが少しずつ下がっていったという。今回のプロジェクトでも同じだった。誰か一人の頭の中で完成形を決め、それを周囲に使わせるのではない。現場の職員と技術者が一緒になって、「そもそも、この仕事はどうあるべきなのか」から考え直した。組織の仕事として、みんなで仕事の進め方を変えていく。

信太さんは、こんな言葉で表現していた。

「よく『福島市はDXを他の自治体より頑張っていますね』と言っていただくんです。でも、DXを頑張っているんじゃなくて、デジタルの前にXをやろう、というのが先なんです」

DXの「X」はTransformation(変革)。

新しいシステムを導入しただけでは、仕事は変わらない。変えるには変革が必要だ。福島市が日本DX大賞2026を受賞した理由には、その土壌があったことが一つの理由なのではないかと思われる。

日本DX大賞2026のトロフィーがこちら。今も市役所本庁舎1階に飾られている。

※写真は筆者が2026年8月17日に撮影したものです。(日本DX大賞2026のトロフィー画像は、信太さんよりご提供いただきました)

安齋慎平

安齋慎平

福島県在住のライター。企業や自治体、政府広報など幅広い領域でインタビュー記事を担当。主な執筆記事に「東急ハンズの中の人に聞く『つぶやきの作法10ヶ条』」や「全職員を巻き込み、自ら改革する市役所を作る!–福島市役所のDXを進めるキーパーソンたちに聞く」など。「デイリーポータルZ」月間新人賞受賞経験あり。

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