福島第一原発、廃炉作業は今~視察で見た現状と課題、そして地域復興とは~【大熊町・富岡町】

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 原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が今年6月、東京電力ホールディングスの協力のもと実施した福島第一原子力発電所の廃炉作業の現場視察会に参加した。参加者は筆者を含めNDFが実施している「廃炉の対話」*に参加経験のある17名。目的は福島第一原子力発電所の廃炉の進展を直接自分たちの目で確認することだ。福島第一原子力発電所は、2011年の東日本大震災における原発事故の象徴的な存在であり、その廃炉作業は、震災から13年が経過した今も進行中である。当時の様子をはっきりと記憶している世代、はたまた、これから社会の中核を担う若者世代にとっても、この視察は、福島という地域で進める廃炉事業の現状を知る機会であった。

私たちはまず富岡町にある東京電力の廃炉資料館の視察から始まった。ここでは展示物や映像を通じて事故直後の様子や今後の展望についての情報を共有し、廃炉作業の全容を確認した。その後、専用バスで10キロほど北にある福島第一原子力発電所へ移動。現地では本人確認や放射線防護のための個人被ばく線量計の装着が行われた。 筆者が前回福島第一原子力発電所を視察したのが約1年半前。今回も事前に服装の注意はあったものの、視察に特別な衣服を必要としなかったことから、状況が少しずつ変化しているという印象を受けた。

さて、構内視察で最初に降り立った場所は「ブルーデッキ」と呼ばれる1~4号機が一望できる高台だ。ここでは構内の各号機の現況や、地下水流入を防ぐための凍土壁の説明が行われた。特に1号機は、水素爆発で損傷した建屋の上部が依然として露出しており、使用済み燃料プールに貯蔵されている燃料を取り出すための大型カバーの設置作業が続いている様子を、また、2号機では建屋の隣で建設が進んでいる大型の構台を確認し、廃炉作業の一端を垣間見ることができた。

次に訪れたのは、昨年新設された全長130メートルの「グリーンデッキ」である。ここからは5・6号機やALPS*処理水の希釈放出設備、津波の影響で座屈したタンクなどを見渡すことができた。ALPS処理水とは、事故後に発生した汚染水をALPS等で浄化した後に保管されている水で、2023年から環境基準を満たした上で海洋放出が始まっている。この視察では、実際のALPS処理水のサンプルが展示され、放出後の放射能モニタリングの実施状況の説明もあった。私たち参加者は、廃炉作業が進む中で、放射線管理が厳密に行われていることを確認し、現場作業の大変さを再認識する機会となった一方、事故の影響が依然として残る景色を目の当たりにし、改めて震災の恐ろしさを感じたという声もあった。

視察後、参加者からは様々な感想が寄せられた。一部の参加者は、特に若い世代に対して放射線や廃炉に関する正しい知識を広める必要性を強調し、福島の地域復興に向けた研究や技術開発への貢献を願う声があった。また、実際に現地を訪れたことで、廃炉作業に対する誤解が解けたと感じる意見もあった。加えて、視察前は、福島第一原子力発電所に対して漠然とした不安感を抱いていたが、現地スタッフの誠実な対応に触れ、廃炉作業が透明性を持って進められていることを理解したとの意見も寄せられた。

さらに、この視察を通じて、「廃炉」という長期的な課題を実感した参加者も多かった。特に、未来を担う若い世代に対して、福島で進行中の廃炉作業や震災復興の現状を理解してもらうことが重要だと感じたという声も聞かれた。震災から13年が経過した今も、福島第一原子力発電所では一日約4000人もの作業者が安全管理を徹底しつつ、膨大な廃炉作業に取り組んでいる。その現実を知ることは、震災の記憶を風化させず、今後のエネルギー政策や災害対策について考えるための大切な一歩となるだろう。

今回の視察は、福島第一原子力発電所の廃炉作業や地域復興の現状を知る貴重な機会となった。視察を通じて得られた知見が、今後の福島と日本全体の未来に役立つことを願うばかりである。

(写真提供はすべて東京電力ホールディングス株式会社)

*廃炉の対話:原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が、福島県内在住者を対象に、福島第一原子力発電所の廃炉に関する疑問や質問を共有し、地域住民の意見を聞くプログラム。

*ALPS:Advanced Liquid Processing Systemの頭字語で、多核種除去設備のこと。汚染水に含まれる放射性物質が人や環境に与えるリスクを低減するために化学的・物理的性質を利用した処理方法で、トリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで取り除くことができるように設計した設備。

昆愛

昆愛

福島県郡山市

第4期ハツレポーター

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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