家庭行脚のイタリア修行で得たマンマの味、「みんなの心が癒される場に」思い受け継ぐ【埼玉県行田市】

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夏にはカエルの合唱が心地よく響く埼玉県行田市の田園地帯に、こだわりのイタリア家庭料理を振る舞うレストランがある。店の名は、イタリア語で「カエルちゃん」という意味の『ラノッキオ』。シェフが2年間、イタリアの一般家庭を渡り歩き、現地のマンマ(お母さん)から直々に教わった「毎日食べても飽きない味」を再現する。9月、店は創業者から息子へとオーナーが変わる転換期を迎えた。愛犬家の息子は、ドッグランの整備やペット用のメニュー開発にも力を入れる。「みんなの心が癒される場でありたい」。創業者の思いを受け継ぎ、店は、人もペットも楽しめる空間へと進化を続けている。

青々とした田んぼの稲が照らされる夏の夕暮れ時、カエルの合唱が鳴り響く。それを合図に、イタリア料理の店『イタリアン トラットリア ラノッキオ』のディナーの営業が始まる--。

こんな情景がよく似合う店だ。

開業したのは、8年前。創業者の潮崎知恵子さん(70)が「一度来店したお客さまが、『また帰ってきたい』と思うようなアットホームな店にしたい」と考え、住宅地から近く、辺りを田んぼに囲まれた場所に店を構えた。

本場イタリアの家庭料理が売りだ。店のホームページには「イタリアのマンマに教えてもらった」味とある。

腕を振るうシェフは、潮崎さんの次男、弘靖さん(41)。もとは別の仕事をしていたが、技術を極めるにつれ、他に新しいことを始めたいと思うようになった。そんな時、母から「店をオープンしたい」と持ちかけられた。「力になれるかもしれない」。これをきっかけに、弘靖さんは料理人の道を歩むことを決めた。

2年間のイタリア修行では、南部の町・カストロヴィッラリで、いくつもの一般家庭を訪ね歩いた。1つの家庭に2、3か月ほど滞在し、スマートフォンの翻訳機能を頼りに、マンマから直々に料理の作り方を教えてもらったという。作り置きできる「サンマルツァーノ」というトマトを使ったパスタソースや「ブロード」(フランス語圏では「ブイヨン」)と呼ばれる出汁、それに様々な種類のパスタ。これらを一から作るなどして、マンマの味を習得していった。

(写真)修行の訪問先の家庭で、マンマの孫娘がパスタ作りを手伝っていたのが記憶に残る。イタリアではこうして家庭料理の伝統が受け継がれていく。=弘靖さん提供

弘靖さんは、「イタリアと日本は似ている」と話す。例えば、イタリアの「ピチ」というパスタは、もちもちした日本の讃岐うどん、「ニョッキ」はすいとんに、それぞれ食感がよく似ているという。また、「タリアテッレ」は、きしめんにそっくりな平たい麺だ。イタリアではトマトソースに絡めて食べるピチやタリアテッレだが、トマトソースとブロードを醤油と出汁を混ぜたつゆに変えれば、うどんを食べているのと変わらないという。日本でパスタが人気な理由が、ここにあるかもしれない。

讃岐うどん似の「ピチ」
きしめん似の「タリアテッレ」

マンマの味を再現しようと、ラノッキオでは、麺、ピザ生地、ソースなどを全て手作りする。何百回と作ったレシピでも、気温や湿度によって分量を変える。作った料理は全てメモに残し、どんな条件でもマンマの味を再現できるよう、イタリア修行を終えた今も研究は続く。地元農家の新鮮な野菜や各地のブランド肉を使うなど、食材選びにもこだわり、高級レストランとはまた違った、「毎日食べても飽きない素朴な家庭料理」を提供する。弘靖さんは「料理には終わりがない。どこまでも追及できるから、何をやっていても面白い」と話す。

イタリアでは週末になると、家族や友人を自宅に招いて食事を楽しむ文化がある。ペットもまた、その輪の中に入る。「食べている人の笑顔や『おいしかったよ』という言葉が何よりうれしい。ラノッキオを、ペットのワンちゃんも一緒に、みんなでわいわいと楽しめる場所にして、マンマの味を振る舞い続けたい」(弘靖さん)

この思いを実現するため、弘靖さんは愛犬と一緒に楽しめる店づくりにも力を入れている。弘靖さん自身も愛犬家。店を手伝う妻の真紀恵さん(36)も、かつて、犬の美容師であるトリマーの仕事をしていた。夫婦そろっての犬好きということもあり、屋根付き冷暖房完備のドッグテラスやドッグランを整備したり、犬用のメニューを開発したりしてきた。

ウッドチップが敷き詰められ、ふっかふかのドッグランにご満悦の犬。

中でも、真紀恵さんが丹精込めて作る「犬のお顔ケーキ」は、世界にひとつだけのオーダーメイドケーキで、愛犬家たちからも好評だ。ドッグランも自分たちで手作り。定休日に作業し、2か月かけて完成させた。犬の足腰の負担を軽減するため、ウッドチップを全面に敷き詰めた。小型犬が隙間から逃げ出さず、大型犬が飛び越えないような柵を作るのに苦労したという。ゆくゆくは、今のドッグランも屋根付きにしたいと考えている。

犬のお顔ケーキ。飼い主の思いを込めたメッセージ付きだ。

9月、店は転換期を迎えた。創業者の潮崎さんがオーナーから退き、弘靖さんに経営のバトンが渡された。潮崎さんの「みんなの心が癒される場所でありたい」という思いを受け継ぎ、「イタリアの家族のように、人もペットも食事を楽しめる」空間を目指して、今日も弘靖さんはマンマの味を振る舞っている。

(写真左から)オーナー兼シェフの潮崎弘靖さん、妻の真紀恵さん、創業者の知恵子さん。

店舗情報

「イタリアン トラットリア ラノッキオ」

  住所:埼玉県行田市佐間3-2999

  電話:048-501-8903

 定休日:月曜日(祝日の場合火曜日)

営業時間:ランチタイム  11:00~15:00

     ディナータイム 18:00~21:00

ホームページ:https://ranocchio.simdif.com/

カストロヴィッラリの街並み。=弘靖さん提供
小池穂波

小池穂波

埼玉県行田市

第1期ハツレポーター

ふるさと:新潟(出生地)、栃木・埼玉(育ったところ)
初めて取材をした時、長く住んでいる地元にもまだまだ知らない魅力やストーリーがたくさん眠っていることに気付かされ、日常の風景を見る目がガラッと変わりました。

全国各地に眠るたくさんの魅力を発掘し、みなさんと共有したいです!
本業はフルート奏者なので、全国津々浦々のまだ誰も演奏したことのない場所でコンサートをすることが夢です。
音楽で地方創生に貢献できるよう頑張ります!