先日、秋田県北秋田市にある「森吉山ダム」に行ってきました。春と夏に見学していたので、今回が3回目の訪問となりました。ダムそのものの構造もさることながら、周囲の自然やダムに沈んだ流域の歴史にも味わいがあります。
森吉山ダムは、2012年3月に39年の歳月をかけて完成した「ロックフィルダム」という石を積み上げる型式の多目的ダムです。1972年7月に米代川一帯を襲った大洪水をきっかけに建設されることになりました。ダムの堤頂長とよばれる長さは最長で786メートルもあり、東北で最も長いロックフィルダム型式のダムとされています。
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森吉山ダムは内部を無料で見学することも可能で、案内は広報担当の職員でもある現役マタギの織山英行(おりやま・ひでゆき)さんが担当してくれます(※現在はコロナの流行で監査廊の見学は中止されています)。筆者は2回ほど織山さんに内部を案内してもらっているのですが、大きな建造物の地下の探検はとても心の弾む体験でした。このダムは子供から大人まで楽しめる、秋田の隠れ観光スポットだと思っています。
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
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以前は小又川に沿って14の集落がありましたが、かつての集落跡はダムの底に沈んでいます。ダムに沈んだ小又川流域には、四季折々の行事と暮らしの営みがありました。その思い出の一つ一つをまとめた書籍「森吉山ダムのふるさと」(2002年)には、ダムが建設される前の人々の営みが生き生きと描かれています。昔のこの地域の人々は、神に祈り、敬い、感謝し、農作業を中心に互いに助け合って暮らしてきました。
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小正月の行事や干し餅作り、春彼岸に松明を灯して先祖の霊を弔う万灯火(まとび)、つぶ貝拾いや味噌作り、信仰のために森吉山へ登る岳詣り(だけまいり)と、その際山頂に近づくにつれ漂うモロビ(アオモリトドマツ)の香り、豆腐作りや餅つき。読んでいると音や香りが伝わってくるようです。
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活気に満ちたかつての村々の生活に想いを馳せながら、雪が溶けた頃にまたダムの周辺を散策してみようと思います。