醜いオコゼのキラメク魅力:山と田と海の神々の関係


秋田県北秋田市の阿仁地域は、マタギの里として有名である。「ゴールデンカムイ」という漫画に登場する、谷垣源次郎という元マタギのキャラクターの生まれ故郷としても知られている。「マタギ」とは、山の神を信仰する狩猟集団のことで、山の神へのお供物は「オコゼ」という海の魚が定番になっている。その理由は、何とオコゼの醜い容貌にあるそうな。

(写真① オコゼの干物)


マタギたちの間では、山は山の神が支配するところであり、獲物は神様の授かりものだと信じられている。そして、山の神はとても醜い女性の神様で、男性が大好きで嫉妬深い性格だとされている。マタギの性別が基本的に男性に限定されているのは、山の神が嫉妬深い「女性」とされているためである。

(写真② マタギ神社)
(写真② マタギ神社)


山の神とオコゼに関する伝承は全国的に分布しており、オコゼを好む理由には諸説あるが、マタギの信仰では山の神の醜い容貌が理由とされている。オコゼを見ると山の神が「この世に自分よりも醜いものがある!」といって喜び、機嫌が良くなると考えられているのだ。

この話だけ聞くと、ルッキズムと女性蔑視意識が色濃く表れているような設定で、女性の皆さんは腹立たしさを感じてしまうかもしれない。しかし、調べてみると山の神とオコゼの関係は、「田の神」と「海の神」とも関係する複雑なものであった。

日本には八百万神(やおよろずのかみ)が住うとされているが、この神々は天照大神(あまてらすおおみかみ)のような由緒正しい神々と自然や動物を対象とした俗信系の神々の2つに分けられる。そして、俗信系の神々の中で最も代表的なのが「山の神」、「田の神」、「海の神」である。

「山の神」は春になると「田の神」になる交代制の不思議な神とされている。これは、日本人のほとんどが定住地で農業を行いながら、その一方で狩猟・採集生活を送っていたことと深く関係している。春から秋にかけては田畑での豊かな収穫を「田の神」に祈り、冬には狩猟の成功を願って「山の神」に祈るという訳だ。

その他に「海の神」も存在している。海の神と山の神が手下の数を競い合い、引き分けになりそうなところでオコゼが現れて海の神が勝った。それが理由で、山の神はオコゼを恨むようになった。

三重県尾鷲(おわせ)市の山の神の祭りでは、オコゼを懐からチラリと出して氏子一同が大笑いをする。この大笑いには、オコゼがあまりに醜いので、「あれは魚の仲間に入りませんよ」と山の神を慰める意味があるそうだ。こうすると山の神の機嫌が良くなり、春になると里へ下りてきて「田の神」となり、田畑を守ってくれるそうだ。

(写真③:尾鷲市の山の神の祭り/尾鷲観光物産協会の提供)


北秋田市の今の猟師のほとんどは兼業猟師で、農業や林業、建設業や民宿の仕事と組み合わせながら狩猟活動をしている。伝統的なマタギの多くも春から秋にかけては農業に従事していたので、農業と狩猟はとても近い関係にあると言えるだろう。山の神と田の神が交代制の同一の神という話は、とても自然なことのように思われる。

時として荒れ狂い、時として大いなる恵みを与えてくれる「自然」を擬人化すると、感情的な女性になったのかもしれない。ブサイクで感情的な女性の機嫌を取ろうと、男性たちが一生懸命になっている様も面白い。この不美人な山の神さまとは、良い女友達になれそうな気がしてきている。

(写真④:AKITAVISIONの広告)


参考文献:宇井邦夫「山の神とオコゼのはなし」現代フィルム、1996年。

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貝田真紀

秋田県北秋田市 / 第1期ハツレポーター

現在、阿仁マタギで有名な北秋田市に引越し、「地域おこし協力隊」として地域振興に取り組んでいます。狩猟免許を取得して北秋田市の森吉猟友会にも所属したので、今後は狩猟活動も展開していく予定です。モスクワには3年半ほど住んでいたので、モスクワにも思い入れがあります。「秋田×ロシア」でも何か仕掛けたいです。