苫小牧市の音羽町にある法華宗妙見寺では、読書会「お寺de名著」を隔月で開催している。この読書会は5年以上続いており、参加者同士で文学作品の感想を話し合う場となっている。お寺の読書会で、文学作品を参加者同士で語り合うことの魅力について考えたい。
この読書会は2017年10月に村上春樹の短編小説「かえるくん、東京を救う」から始まった。それ以降は、夏目漱石「こころ」、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」、サン=テグジュペリ「星の王子さま」、村上春樹「ノルウェイの森」などが取り上げられた。これらの課題本では、親しい者との死別や残された者はどう生きるかが共通して描かれている。この読書会では、お寺ならではの切り口として「死と生」が主題となっている。
例えば、村上春樹『ノルウェイの森』を扱った回では、「深い悲しみを抱えながらも、生き続けていくことの大事さを考えることができた」、「(死んで終わりなのではなく)死者との関係を考える契機になった」と参加者から感想が寄せられた。
読書会には重苦しい雰囲気はない。お寺の住職からは、課題本から着想を得た手作りスイーツとコーヒーがふるまわれる。参加者からは「毎回、スイーツが楽しみだ」と好評である。
妙見寺の末澤隆信(すえざわ・りゅうしん)住職は、「昔から、お寺は人々が集まる場であり地域に開かれていた。今は、人々が集まってゆっくり語り合う場が少なくなってきている。そこで新しい試みとして読書会を始めた。本を通して、人生を語れることが読書会の楽しみ」であると言う。「読書会は、楽しくやることが大事であり、本を読んでなくても気楽に参加してほしい」と語る。
私は、お寺は葬儀のときしか関係ないものであり、高齢者向けのものだと思っていた。しかし、お寺の読書会を通して残された者がどう生きるかを考えるようになった。また文学が好きな人々との交流も生まれた。
お寺の読書会では、静かな雰囲気の中で参加者の言葉に耳を澄まし、文学作品に自分の体験を重ねることで、自分の考えが少しずつ深まっていった。文学を通して、「死と生」を考える場としてお寺は最適であると感じた。お寺は、死者と生者が出会い直す場となっていると思えた。
ここでは、死者と生者という縦のつながりと、参加者の横のつながりが生み出されていた。このお寺の読書会は、苫小牧において大切なつながりの場となっている。
(濱田治寿さん)
所在地:北海道苫小牧市音羽町1丁目12ー14 妙見寺