沖縄県は2023年度、たくさんの「お宝=魅力」をもつ離島各所の事業者さんたちが、SNSなどの『デジタルツール』を利用してさらに魅力的な発信をしていけるように「沖縄県主催🌺価値を伝えて売りまくるためのデジバズ講座」という取り組みを行っています。この記事は、参加された事業者さんを対象に、「ローカリティ!」のレポーターがその輝く魅力を取材し執筆したものです。沖縄離島の魅力をご堪能ください。
石垣島の文化と風土が生んだ島のソウルフード、それが「かみやーき小(ぐゎー)かまぼこ店」の八重山かまぼこです。島の多様な恵みを最大限に活かし、長い歳月をかけて磨き上げた伝統の味は、沖縄料理の必需品であり、地域行事や冠婚葬祭に欠かせない食材として、今日も多くの人々に愛されています。
目次
冷蔵庫がなかった時代の知恵。加工と保存の工夫で近隣の島に暮らす人達に魚をシェア
八重山諸島がまだ経済的に貧しかった約90年前、漁で余った魚を宮古島や台湾といった近隣の島の住民と分け合っていた文化がありました。
この「分け与える精神」を実践していたのが、後に「かみやーき小かまぼこ店」の創業者となる、カマド婆さんです。冷蔵庫がなかった時代、魚を保存するのは至難の業でした。カマド婆さんは、お爺さんが漁をしてきた魚を日持ちさせて近隣の島民と分け合うために、皮を三枚におろしたり、魚をこねたり、芋のでんぷんを混ぜたり、火であぶったり、揚げたり、様々な工夫をしたそうです。
時が経ち、この製法は「八重山かまぼこ」として地域に伝わっていきました。今も、近隣の島から「あの時(90年前)、お婆ちゃんがお世話になりました」と言って、かまぼこ店を訪ねてくることがあるそうです。
地元の食材を駆使した多様なかまぼこ。努力と創意工夫でカマド婆さんの伝統の味を守り続ける
八重山かまぼこは、たっぷりの魚のすり身を油で揚げるのが特徴です。すけとうだらのすり身に、島のあおさやもずく、島胡椒( ピィパーズ)、島のゴーヤーなど、地元の食材を駆使して、風味豊かなかまぼこが作り上げられていきます。多種多様なかまぼこは、石垣島の人からはもちろん、島外の人からも「しっかりした魚の味がしておいしい」と好評をいただいているそうです。
この味を形にし続けるのは、一朝一夕にはいきません。「カマド婆さんの味を再現するために、何度も何度も素材の配合を工夫しました。カマド婆さんは職人気質だったから、どうやって作るかは教えてくれませんでした。見て覚えろの世界でしたね」と語るのは、かみやーき小かまぼこ店の店長を務める大城文博さん(58)。
伝統の味を守り続ける秘訣を尋ねると「材料の状態や、気温、湿度などに合わせて、寝かし方、こね方、揚げ方を変えているんです。お客様の笑顔を思い浮かべながら、雨の日も、暑くても、寒くても、台風の日も、朝早くから仕込みを行っています」と続けてくれました。
カマド婆さんの思いを原点に、店長やスタッフ一人一人の絶え間ない工夫の末に出来上がるのが、かみやーき小かまぼこ店の八重山かまぼこなのです。全国かまぼこ品評会において日本一を受賞するなど、このかまぼこは八重山の食文化に深く関わっています。
一番人気は定番メニュー「たらし揚げ」。地元から愛されるソウルフード「すごもり」「おにかま」など、気軽に食べられるメニューも人気。
八重山かまぼこは冠婚葬祭など、ハレの日に使われることも多いですが、気軽に食べられるメニューも人気です。
かみやーき小かまぼこ店の顔として知られている商品が、名物「たらし揚げ」です。名称は魚のすり身をこねて、フライヤーに「垂らして」「揚げる」ことに由来しています。魚のすり身に人参やゴボウを加えて揚げることで、独特の食感と豊かな風味を実現しています。
続いて、地元の人にソウルフードとして親しまれているのが「すごもり」(260円)です。ゆで卵を魚のすり身で巻いたこのレシピは、卵が巣に籠っている姿に似ていることから、すごもりと名付けられました。すごもりは、島から離れて県外にいった人が帰省する際に食べる定番レシピとなっています。
店長の大城さんが、「ぜひ、色んな人に食べて欲しい」とおススメするのが、おにぎりとかまぼこを掛け合わせた「おにかま」(340円)です。おにかまは、元々かみやーき小かまぼこ店のまかないでした。仕込みで2時間くらいしか睡眠時間を取れなかった時に、ご飯だけ炊いて、魚のすり身をご飯にまいて、おにぎりにして食べたのが始まりだそうです。石垣島で採れた黒紫米(こくしまい)に魚の脂が染み込んで、極上な味わいの一品は、食べ歩きに持ってこいということで、観光客にも人気だそうです。
原点と伝統を未来に繋げながら世界へ羽ばたく企業へ。そのために大切な「島で愛され続けること」
こうして、創業以来の不断の努力と創意工夫で、かみやーき小かまぼこ店の八重山かまぼこは、島内のみならず島外でも愛されるようになりました。
大城さんは、「カマド婆さんが、かまぼこ作りを始めてから100年近くになります。うちのかまぼこ店は、カマド婆さんの、言葉で言い表せないくらいの苦労の上に成り立っています。その伝統を未来に繋げていくのが自分たちの使命だと思っています」とこれまでの歴史を振り返ります。続いて、仕事のやりがいについて尋ねると、「島の子どもたちは小学校3年生になると、島の地場産業を現地に行って学ぶんですが、その中の見学・体験先の一つがうちの工場になっています。工場見学の後に、子どもたちがかまぼこを『おいしい!』って喜んで食べてくれるのは本当に嬉しいです。うちのかまぼこが、島に愛着を持つきっかけになれば言うことはありません」と大城さん。
今後の展望について「うちは、何より島の皆さんに支えられてきたので、島で愛され続けることがいちばん大事だと思っていますが、今後は島だけじゃなくて、全国、もしくは世界の皆さんに愛されるようなブランド、商品づくりに励んでいきたいと思っています。お客さんの笑顔を作るために、世界に羽ばたいていける企業になっていきたいと思います。色んな食材とのコラボレーション、マリアージュにも挑戦していきたいです」と楽しそうに語る大城さんを見ていると、かみやーき小かまぼこ店が愛される理由が分かるような気がします。
1 件のコメント