地方から世界へ!ジェノグラムが描く、家族の未来と地域福祉の可能性とは?【秋田県横手市】(後編)

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 「ジェノグラム」という家族関係を図式化する手法を活用し、児童福祉の現場で支援を行ってきた秋田県横手市職員の大沼 吹雪(おおぬま・ふぶき)さん。2017年にこの手法に出会って以後、ジェノグラムの活用の必要性を感じて数少ない海外文献を和訳し出版しました。地方での翻訳活動に挑戦した背景や、福祉現場での活用方法、地方特有の課題、また、ジェノグラムの可能性と、その普及に懸ける思いを語っていただきました。前編・後編の二部構成にてご紹介します。

ー実際に本ができあがった時の印象はいかがでしたか?

 本が実際に形になった時は、非常に感慨深かったです。自分が手がけた訳書が世に出るというのは、やはり大きな達成感があります。ジェノグラムというツールが多くの人に知られるきっかけになれば、と。

ー秋田県横手市在住とのことですが、地方での販売促進活動に難しさを感じることはありますか?

まず、私には翻訳料などのお金は一切入ってきませんので、販売促進というよりも、多くの方にジェノグラムの有用性を知っていただくための活動の一つでしょうか。実際に「ジェノグラム」という言葉自体、知名度が低いのでこちらから説明して伝える必要がありました。民間でいうところの”営業活動”でしょうが、それでも伝わらないことも多いです。横手市に限らず県内で最も人口の多い秋田市でも書店数は少なく、実際に出版物を手に取る機会が限られています。地元の新聞社などにもこの本を取り上げてもらえそうですが、それが必ずしも販売に直結するわけではありません。地方でも出版物を広めるために、地域とのつながりや地道な努力が必要です。また、翻訳者である柴田健先生のご理解とご協力も頂き、70冊を県内の全市町村や児童福祉関係の施設などに寄贈することもできました。

ーご自身の経験から文学専攻や翻訳学校での履修経験がなくても、チャレンジすれば、読者の方も同じように出版できる可能性があるとお考えですか?

  そう思います。まずは、チャレンジすることが大切だと思います。私自身は翻訳のノウハウを専門家から学んだわけではないので、いっそのことTOEICで高得点をマークした姪に頼むことも頭をよぎったのですが、そうすると自分が一生懸命頑張った意味がなくなってしまうので(笑)。私は英語が得意ではないので自動翻訳ツールも使いましたが、間違った専門用語がアウトプットされてしまうこともあるので、まだまだすべてを機械任せにはできませんね。翻訳に関しては英語力よりも、むしろ文意を正確に理解する力の前提となる専門分野の知識や読み手に伝わる言葉にできる日本語力のほうが必要とされていると思います。また、職場でAIやICTが話題になっていた当時、福祉にタブレットの活用ができないかと、ある民間企業から私に相談がありました。私が検討していた時期に、ちょうど同じようなことを考えて取り組んでいる研究者のニュースを目にし、存在さえ知らなかった日本最大級の公的研究機関である国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(通称:産総研)に電話をしました。研究者の方とタブレットの話に始まり、ICTの児童福祉の現場での活用などについて、いろいろと電話でお話をさせてもらいました。その後、しばらくしてから折り返しの電話があり、「急なお話ですが、来週、東京に来てくれませんか?」とお台場で行われる厚労省の研究事業の検討委員の会議に招待され、以後、3年間、検討委員を務めることになりました。私が考えていたICTの活用や、児童福祉への関わりを評価されてのことのようでした。電話するという、何気なく、ささやかなチャレンジが貴重な経験につながりました。

ー初めて会議に出席されたとき、どのような雰囲気でしたか?

専門家として国会に参考人招致された方や児童福祉分野での著名な研究者も数多く列席している会議のため、極めてハイレベルな話がされていたので、最初は、少しめまいがするような感覚でした(笑)。最初は大変でしたが、地方の実態を伝えつつ、様々な検討ができたのは貴重でしたし、そうした方々と一緒に議論できる自分の力を確認できたことは、自分にとって大きな自信につながりました。そこで、意外にも、自分たちの職場での取り組みが全国的に高いレベルにあることに気がついて、いろいろと自信を持つことができるようになりました。

ー大沼さんは、子供や家族に対する支援のあり方の今後について何かお考えはありますか?

まず、大人のことを考えるのではなく、立場の弱い子供を大切にする意識を持って活動することだと思います。そのためには、地域との連携が不可欠です。また、親御さんに対する教育も含めたサポートも必要で、保護者が自身の問題に気づくことが重要です。支援が行き届くような仕組みが求められています。

ー地域に目を向け、連携を重視する姿勢が必要ですね。

支援が行き届くような仕組みづくりには、地域住民の役割も大切ではないかと感じました。そして、それと同時に、子育てに困っている親をサポートすることも必要だと思います。今回出版した本には、家族を理解していき、そこにある困難を解消する糸口が書かれています。この本が、苦しみや困難な状況に置かれた子供、そして、その家族の支援の一助になればと思っています。

ーありがとうございます。今後の活動も楽しみにしています。

昆愛

昆愛

福島県郡山市

第4期ハツレポーター

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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