
福岡市博多区美野島にある弁当屋「やっこい」には、ラジオリスナーが集まる。
客の多くは、福岡各局に投稿するハガキ職人と言われる人たち。 人気パーソナリティも訪れることから、ラジオ好きの間では聖地としてひそかに知られている。
SNS全盛の今、なぜ一軒の弁当屋が人と人をつなぐ場所になったのか。
そのやっこいさんの不思議な魅力に迫る。
目次
福岡で開店したきっかけ
もともと関東で飲食関係の仕事を長年続けていたやっこいさん。
“そろそろ自分のお店を持ちたいな”と考えていた時に、たまたま旅行で福岡を訪れた。
福岡は、食べものはおいしい、物価は安い、アクセスがいい。
そのため、福岡で店を開くことに決めた。
福岡市内で博多駅までもそう遠くないが、美野島あたりだと家賃が安かったため美野島に住むことにした。
店を出す場所を博多駅あたりで考えていたところ、ちょうど住んでいる場所の近くに空き店舗ができたため、美野島で営業することに決めた。

音楽やアートが身近な美野島
美野島は博多駅から歩いて20分、西鉄天神駅からだと40分ほどの距離。
昔ながらの商店街や町並みが残り、近隣には、マーチングコンテストの強豪として有名な精華女子高等学校がある。筆者が良く行く少しマニアックなギャラリーやライブハウスが点在し、15分ほど歩けばFM福岡もあるなど、音楽やアートに関係する場所も多い。
はじめは知人もいなかったが、お客さん同志のつながりなどでどんどん増えていき、それに加え、ラジオ好きが高じてお気に入りのラジオ番組にメッセージを送り、読まれたところから、リスナーたちがどんどん集まるようになった。
もともとは食堂をやりたかったが、スペース的にも難しく、買ったお弁当をイートインでも食べられるスタイルにしている。
イートインでは使い捨てのパックではなく、お皿に盛り付けて提供される。
秋冬限定で「けんちんそば」などのメニューもある。「けんちんそば」は、茨城ではポピュラーな料理とのことだが、福岡では筆者は飲食店などで見かけた記憶がない。
このように、茨城出身のやっこいさんならではの郷土料理が出ることもある。

弁当の1番人気はタコライス。ボリューム満点で、最初、小食の筆者には一見胸やけしそうな感じがしたのだが、長年培った料理の腕は確かで、優しい味付けでじんわりおいしい。
なんだか、ほっとするような味付け。
このやっこいさんの料理を店内で食べながらリスナー同士の交流が行われる。
リスナーは、番組にメッセージを送る際に使用する「ラジオネーム」でお互いを呼び合う。
店内には、訪れたパーソナリティのサイン、欲しくても、なかなかもらえないラジオ番組の記念品、音楽関係のポスター、イラストが得意なリスナーが描いたイラスト、地域の子どもたちがお題に合わせて描いた絵などが、ところ狭しと貼られている。


ロック好きのやっこいさん
店内に流れる曲は90年代から、今も不動の人気バンド、スピッツの楽曲のみ(JASRAC申請済み)。ラジオは、店を開ける前後によく聞いているのだという。
このスピッツと90年代に世界的に人気を博し、2024年に奇跡の再結成を遂げ、2025年にワールドツアーを敢行したイギリスの伝説的なロックバンド、オアシスが大好きなやっこいさん。
やっこいさんと同じく、ロック大好きな筆者も、2025年10月25日から26日の2日間にわたり、東京ドームで行われたオアシスのライブを見に行った。筆者は初日のみだったが、さすが、やっこいさんは2日間続けて見たとのこと。
その時のライブレポートをやっこいさんがラジオ番組に送った際の録音を聴きながら一緒に振り返り、大いに盛り上がった。
その最中、店の奥から、オアシスのノエルギャラガーファンにはお馴染みの赤系とベージュ系の色彩を基調としたウインドブレーカーとノエルギャラガーが使用しているモデルとよく似たユニオンジャック柄のギター(シグネチャーモデル)をやっこいさんが持ってきた。筆者はついそれに着替えてポーズを決めたところ、やっこいさんにそのコスプレ写真を撮られてしまった。筆者がカメラを携え、取材をしていた方だったのに関わらず、モデルになってしまった。
いつもなら恥ずかしくて断るところなのだが、ついつい乗せられてしまった。その後やっこいさんにも同じくコスプレをしてもらい、筆者も撮らせてもらった(写真は割愛m(__)m)そんな気楽な雰囲気なのだ。
かつて筆者が関東に住んでいた際、しばしば茨城出身と勘違いされたのだが、どことなく筆者の住む地域の八女弁とイントネーションが似ている茨城なまりの語り口調に親近感を感じる。
6月9日「ロックの日」はのり弁で
オープン記念日は、2019年6月9日、「ロックの日」。2026年の今年は7周年。この日は毎年周年祭を行い、メニューはのり弁当のみと決めている。
大好きなスピッツのラジオ番組に「どんなお弁当が好きか」を尋ねるメッセージを送ったところ採用され、「のり弁当が好き」とのコメントをもらったところから。こちらも番組の録音を聞かせてもらいながら話を聴いた。
ちなみにボーカルの草野マサムネは福岡出身である。
のり弁といえば、チープなイメージもあるが、メインの白身魚のフライは冷凍を使わず、今年はタイを使用。素材にこだわり、毎年作っている。
また、店では、福岡の人気パーソナリティとのコラボメニューも販売。さらには人気パーソナリティが開催する対面式のイベントにお弁当を提供するなど、まさに、ラジオ好きの夢が詰まった場所なのである。
ラジオリスナーならではの深いつながり
取材の最中にも、聴き覚えのあるラジオネームの持ち主などが次々と現れた。他にも、弁当を買いにくる人がやってきた。
さらには、この後、店内の展示スペースに作品を置く作家さんが準備にやってくるとのことで、だんだん人の出入りが多くなり、自然と取材は終了してしまった。
しかし、これこそが「やっこい」という場所と本人の人柄を表しているように感じた。
リスナーは、普段はそれぞれの思い思いの場所で別々に聴き、メッセージを送るのだが、パーソナリティは一人ひとりのリスナーに寄り添って、コメントを返してくれる。
また、他のリスナーのメッセージを自分が信頼しているパーソナリティの声を通じて聴くことにより、顔も知らない誰かが送ったメッセージなのにもかかわらず、笑ったり、時には深く共感したり、涙することができるのもラジオの醍醐味。
それゆえに、リスナーどうしのつながりは深くなる。
やっこいさんにお会いするのは、昨年12月に訪れて以来、まだ2回目。
前回はZ世代のハガキ職人に連れられてきたのだが、その際もリスナーたちがたくさん集まっていた。
その時の雰囲気がとても良く、なぜここに人が集まるのか、また改めて話をお聞きしたいな、とずっと思っていた。
実は筆者も学生時代、音楽好きの学生に誘われラジオ局に出入りし、インディーズバンドのカレッジチャートを作成し紹介する番組や、数年前には、地元のコミュニティFMでラジオ番組を1年ほど担当したこともあり、今もお気に入りの番組をいくつか聴いている。
時にはメッセージを送ることもある。
筆者の「推しパーソナリティ」はやっこいさんの推しとは少し違うので、ラジオ番組の詳細な内容に関して、そこまでコアについていくことはできない。
それでも、やっこいさんのさりげない優しさとラジオや音楽を愛する心、トドメに弁当の味付けに心を許してしまう。
今回、ボリューム満点のタコライス弁当は、自宅がある八女まで持ち帰って夕食にした。
スマートフォンで誰でもつながれる時代だが、ここ「やっこい」にはラジオを通じて生まれた縁がある。同じ番組を聴き、同じ声に励まされてきたリスナーたちは、この小さな弁当屋で顔を合わせる。
自宅でお弁当を食べながら、また次回はここを待ち合わせ場所にして、Z世代のハガキ職人と再会する約束をした。
※写真はすべて2026年6月6日筆者撮影
情報
弁当屋 やっこい
住所:福岡市博多区美野島2-19-22
営業時間:平日11時〜15時、17時〜21時、土曜、祝日は11時〜19時、日曜は定休日
電話番号:092-431-7920
※ワンオペのため事前に電話予約を頂けると助かります
※ご飯なくなり次第早期終了する場合がありますので、事前に電話確認していただけると確実です





