「家賃非公開?入居者募集しないアパート?」事業性より家族のような関係性を優先する共同住宅(後編)【沖縄県糸満市】

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沖縄本島最南端の糸満市に「コミュニティ・アパート」という聞きなれない、一見シェアハウスにも似た共同住宅がある。その名は「あまはじや」。

シェアハウスとの大きな違いは、アパート事業を通して、住民同士が家族のような関係性を築き、地域の住民とも積極的に関わりながら、地域の課題解決に携わろうとする姿勢があること。アパートオーナーが、血縁関係の無いコミュニティの大切さを体感したのは、自身の幼少期のご近所付き合い。

極上の空間を提供する元ホテルマンのオーナーが、こだわりにこだわったアパートで、家族のような関係の多様な住民たちとともに、コミュニティが持つ力を通して、少子高齢化と過疎化によって限界集落となっている地域と関わっている。

前編はこちら:https://thelocality.net/amahajiya1/

アパートのハード面も持続可能に

もーりーさんがコミュニティ・アパートの建築地に選んだ場所は、糸満の山城(やまぐすく)という場所。少子高齢化と過疎化によって限界集落化が進んでおり、現在では約50世帯100人にまで減少している。

長い時間を過ごす住宅は、理想的な暮らしのために、間取りやデザインも大切だが、災害などに対する強さや、環境にやさしい省エネルギー性など、住宅性能についても考えることが大切である。

特に沖縄では毎年のように台風被害が発生するため、安心して暮らすのに、持ち家ではなく賃貸であっても、災害の備えがある住宅であることが望ましい。

「あまはじや」には、もーりーさんのこだわりポイントが詰まっている。

まず、屋根には太陽光パネルを搭載し、太陽光発電でアパートで必要な電力をほぼ自給できているそうだ。

また、蓄電池を一緒に組み合わせることで、台風などの停電時にも対応できる。電気の自給は災害対策に留まらず、CO2削減という環境への貢献にもなっている。

「あまはじや」はオール電化のため、各世帯にあるキッチンはIHクッキングヒーターだが、あえて共用キッチンのコンロはプロパンガス仕様にしていたり、共用スペースにはガス衣類乾燥機を設置して、入居者みんなが使えるようにしてあったりと、台風による停電や悪天候が続いた時にも、なるべくストレスの少ない生活が送れるように考えられた、もーりーさんの心配りが感じられる。

さらに外張り断熱にすることで、夏の暑さや冬の寒さといった外気の影響を受けにくくなるため、冷暖房を使用する回数が減ったり、広い空間もエアコンが1台で快適に過ごせるようにしている。また、気密性が高まることで、湿気による結露やカビを防ぎ、結果的に家を長持ちさせるということにもつながっている。

他には、4世帯あると誰かしら在宅している時間が多く、宅配物などの留守による再配達はほぼ皆無にできるなども実現できているそう。

ハード面は自然災害に強く、環境にも住人にも優しいアパートだ。購入した住宅であってもここまでのクオリティを実現することはハードルが高いが、そんなアパートには一体どんな入居者が住むのか。

屋根には太陽光パネルを搭載し、年間の1次消費エネルギー量が実質ゼロ以下になる
2階にある賃貸居室、窓には断熱性能の高いサッシや複層ガラスを使用している

入居条件は家族のようになれるかどうか!?入居募集もしない

賃貸アパートに入居する場合、多くの場合は入居審査というものがあり、主に継続的な家賃の支払いが可能であるか、支払いが遅滞しないか、経済的な側面の審査をする。だが「あまはじや」が大切にするのはそこではない。

「あまはじや」と一般的なアパートとの最たる違いは、アパートの入居者同士が家族のように密な交流を望んでいることと、もーりーさんは話す。

そのため、入居前に2時間以上掛けてみっちりと話し合いの時間を取るが、その時間は、家族のような関係を目指していることだったり、ちょっと昔の当たり前だったご近所付き合いのように、積極的にコミュニティに関わってほしいと延々と話すそうだ。もーりーさんの考えるコミュニティのあり方と、お互いに近い価値観であることを確認する作業とのこと。

そんな「あまはじや」は、入居者が決まらないと家賃収入が入ってこないのに、家賃は非公開で、入居者募集もしないという。

なぜなら「家族は募集するものではなく、同じ時間や経験を共有する中で、自然にそうなるもの」だからと言う。一般的なアパートとは大きく異なる、見たことも聞いたこともないオーナーである。

そんな価値観に共感して、1つ屋根の下で暮らすことになった家族のような入居者たちは、大きな被害が出た台風の時も、4世帯がアパートに引きこもり、やり過ごす中では何の不安も恐怖も無かったという。料理が得意だったり、ミュージシャンだったり、子どもがいたりと、入居者も多様だが、停電で電気が使えなかった時にも、入居者それぞれが持っている物を持ち寄って、みんなで食事をしたりゲームをしたり、得意分野を発揮することで、笑いながら乗り越えられたという。

台風の夜は、おかずや照明を持ち寄って食卓を囲んだ
台風が来ているある夜、ギター片手にキャットウオークで突然始まったライブは、暗く重かったあまはじやを明るく楽しい空間に

アパート事業でもうけるよりも、300年後の未来に残したいもの

コンクリート造の住宅を良しとする傾向のある沖縄で、木造の家を建てると言うと、「白アリに食われるよ」とか「台風で壊れる」と注意されるが、もーりーさんは木造住宅にこだわった。沖縄には約400年前に建てられた仏教寺院や、約280年前に建てられたとされる中村家住宅があるが、沖縄の強い紫外線や高い湿度、台風や地震、白アリに耐えている。

木造にこだわる理由のひとつは、日本の高い木造建築技術がどれだけ優れているのか、日本人に伝えたいこと。先人たちの知恵や技術を信頼して継承したいこと。

そして、琉球石灰岩の石畳や、琉球畳、赤瓦の屋根など、伝えていきたい沖縄の文化はいくつもあるが、この「あまはじや」を通して一番残したいものは、アパートの名前にもなっている「雨端(あまはじ)」だという。

前編にも記載したが、雨端とは、雨の侵入だけでなく、沖縄の夏の強烈な日差しも防いでくれる、突き出した屋根の下にできる大きな軒下空間のこと。

この空間は、家の内部と外部空間との中間地帯として、時には子どもたちの遊び場となり、時には大人たちの交流の場となり、玄関を持たない沖縄特有の民家において、来訪者との交流の場だった。

縁側にさんぴん茶と黒砂糖を置いておく家もあったそうで、それを通りすがりの人が腰かけて休憩しながら、いただくこともできたという心温まるいこいの場所。

そんなエピソードに感激した、もーりーさんが名付けた「あまはじや」の由来は、“雨端のように、様々な困難から人や地域を守りたい”、“雨端のように人と人、人と地域を繋ぐ場所にしたい”である。

良くなかった点は、建築費を掛けすぎたところだというが、その点もしっかりと入居者と話し合いを行っている。「家賃を単なる部屋代として考えないでほしい。大切にすべき沖縄の伝統文化や技術を、未来に残していくため、自分と一緒に投資していると考えてほしい」と伝え、最低金額を設け、各世帯の懐具合によって投資金額を上積みして支払ってもらっている。そこまで理解と共感をした上で、入居を決めている方たちだから、住人同士の絆は強い。

ただし、入居者の協力があったとしても、「あまはじや」をアパート事業として捉えるのは難しい実情があるが、それにもかかわらず、収益性ではなく自分が死んだ後の未来に、沖縄の文化を残すことを優先している姿勢には、心が震えた。

最後に「300年後あまはじやが、中村家住宅のように、当時を知る代表的な木造建築物として語り継がれていたら嬉しい、その時は単なる住宅としてだけではなく、暮らし方や生活が分かるものとして、更には糸満の誇るべき名所になってくれていたら本望」と、嬉しそうに語ってくれた。

あまはじやの庭につながる雨端部分、夏には深い軒が心地よい影を作り、涼風を招く
雨端部分で、入居者たちと流しそうめんをして、交流を深める

情報

お問い合わせ・取材申込み
コミュニティ・アパート 山城のあまはじや

所在地: 〒901-0352 沖縄県糸満市山城122番地
HP:https://home.tsuku2.jp/storeDetail.php?scd=0000166964
電話番号: 080-5535-5278

※現在入居者募集はしていません

市来聡

市来聡

沖縄県糸満市

第7期ハツレポーター

2023年3月に、次の仕事を決めないまま勤務先を退職。さらに、常識やこうであるべきといった、自分を押さえ付けるしがらみを、全て取っ払った時に顕在化した、「沖縄に住んでみたい」を叶えるため、家族と共に移住。

子どもの時は親が決めた場所、大人になってからは、家賃の手頃感や自身の勤務先に近い場所といった基準で、住む家を決めてきたが、今の住まいは、人生で初めてと言っても過言ではないくらい、自分の「好き」を軸に決めた。

そのおかげで、満足度の高い状態が続き、地域への思い入れが強まり、他所から来た自分たちを、温かく受け入れてもらってる感覚を持っている。そしてその感謝の気持ちを少しでも、地域や地域の人たちに循環したいという思いが芽生えている。

ご縁があって、移住して間もなく、夫婦でラジオパーソナリティをする機会をもらい、現在も放送を続けている。地縁も血縁もなく沖縄に来た自分たちは、少しでも知り合いを増やしたい思いもあり、地域に住まう方々に、ゲストとしてラジオに出演してもらい、出演後はそのゲストに次のゲストを紹介してもらう、笑っていいともの「友だちの輪」を真似したやり方で、放送を続けている。

パーソナリティをやっていて感じることは、もっとみんなに知ってもらいたい、個性的で魅力的な市民がたくさんいること。反面、ゲストが取り組まれている活動を、ラジオの放送時間内に語り尽くせなかったり、心に響く内容も、音声の放送では形として残らず流れていってしまうため、もどかしさを感じることも経験。
そこで、文字情報として残していくことが、いつでもどこでも何度でも、その魅力を味わってもらえる機会になるのではないかと考え、ハツレポーターにチャレンジすることを決断。

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