“便利な橋”が大規模水害の原因に?災害リスクvs.住民の暮らしの狭間で問う地域防災とは?【福島県いわき市】

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令和5年台風第13号内郷地区の被害の様子 写真提供:いわき市


 2023年9月、福島県いわき市を襲った台風13号。9月の平年の月降水量に匹敵する大雨が2日間で降ったため市内を流れる川が氾濫し、死傷者6名1,700棟以上の住宅が浸水する大きな被害をもたらした。なかでも、市中心部に近い内郷地区で被害が拡大した原因のひとつとして指摘されたのが管理者不明の橋の存在だった。通称「勝手橋」と呼ばれるこの橋が流木や災害ごみを引っ掛けて川の流れを妨げ、氾濫を拡大した可能性があるという。今後の災害対策として、この橋の撤去を巡る問題が、新たな防災対策の足かせとして浮上してきている。

内郷地区宮町付近を流れる宮川 撮影:昆 愛

同地区を流れる宮川には、川に架かる25橋のうち10橋(うち1橋は橋脚のみ)が持ち主不明の勝手橋だと確認されている。これらはかつてこの地域が炭鉱の町として栄えた時代に住民や商店街が利便性を考慮して自ら架けたものと言われる。それだけに勝手橋は今も住民の足として日常生活に欠かせない存在であり、見慣れた光景でもある。 しかし、時を経て経年劣化が進み、防災の面からはこれが障害になってしまっている。管理者不明のこうした橋は法定点検の対象外となっているため、崩落や浸水被害を助長するリスクも指摘されている。

県知事名で掲示された撤去予告公告 撮影:昆 愛

2024年12月、県は法律に基づき簡易代執行で撤去する旨を公告し、2025年1月から4カ所(うち1カ所は橋脚)の撤去作業に着手する予定だ。しかし、すべての勝手橋を一気に撤去するわけではない。そこに浮かび上がるのは、地域住民の利便性を守ること、加えて、防災上のリスク軽減の両立という課題だ。

宮川にかけられた橋を臨む 撮影:昆 愛

このジレンマは単なる公共インフラ管理の課題ではなく、防災と地域生活との調和をどう図るかという社会問題でもある。内郷地区で行われた説明会では、「行政の調査が実態を反映していない」との住民の声が相次いだ。地域住民にとって、自らの命や生活基盤が尊重されることは切実な願いであり、行政にとっても単なるインフラ整備にとどまらず、住民の声をどう反映させるかが問われているといえよう。

宮川と一般住宅の奥にはかつて稼働していた炭鉱施設が見える 撮影:昆 愛

災害をきっかけとした「勝手橋」を巡る取り組みは、地域の歴史や住民の生活に深く根ざした課題を浮き彫りにした。橋を撤去することで得られる防災上の効果と、住民の生活利便性をどう両立させるのか。このジレンマに対する解決策を見つけることは、いわき市だけでなく全国の自治体に共通する課題と言えるだろう。

※管理者不明の橋=地域住民や企業などが利便性を求めて設置する場合が多く、「勝手橋」とも呼ばれる。明確な定義はない。河川に架かる橋は河川法上の「工作物」に該当し、設置する際は管理者の国や自治体の許可を得なければならない。

参考資料

・台風13号による県内被害状況等について(第27回福島県河川審議会)
・「新川・宮川浸水対策について」第4回検討会資料_ 浸水対策(福島県いわき建設事務所)
・浸水対策はどこまで進んでいるのか  第3回内講 浸水対策住民説明会(内郷まちづくり市民会議)

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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