

福井県鯖江市の古民家にある小さな雑貨店「トキノイロ」。
玄関を開けると、田舎のおばあちゃんの家に帰ったような安堵感に包まれます。
中に入ると、穏やかな笑顔を浮かべた店主が出迎えてくれました。

店主の大越佑華(おおごし・ゆか)さんは、音楽家・シンガーソングライターとして活動する傍ら、2026年7月にこの雑貨店をオープンしました。
音楽家としての活動と雑貨店の経営。異なるように見える2つの活動には、共通する軸があります。
それは「自分の心に正直であること」。
「ここで過ごす時間や生まれる感情が、みなさんにとって大切な瞬間になってもらえたら」
まさに「トキノイロ」の店名は、大越さんの思いそのもの。
大越さんは、歌を聴く人や雑貨店を訪れる人に、自分の心の余白を大切にしてほしいと、多方面で活動を続けています。
◾️音楽家として|自分の歌が、誰かの心を動かしている

大越さんは現在、音楽家・シンガーソングライターとして活動しています。
「幼い頃から、音楽は生活に染み込んでいましたね。母が作った合唱団に交じって歌ったり、伴奏したりしていました」
高校時代にはNHKのど自慢に出場し、チャンピオンになった経験がある大越さん。大学生になると、ピアノで自作曲を弾き語るようになりました。
しかし、音楽活動は、決して順風満帆だったわけではありません。
喉のポリープによる声の不調やコロナ禍、将来への焦り。大越さんが音楽家への道を志すなかで、音楽との向き合い方に悩む時期がありました。
「私は何になりたいのか、何かにならなければいけないのか」
そう思うほど、自分の心とはぐれてしまうと感じた大越さん。葛藤の末、一度すべての活動を止めて、旅をしながら自分と向き合う時間を過ごすことを選びます。
活動を休止した大越さんの「心の余白」に自然と生まれた思い。それは「アルバムを作りたい!」という熱意でした。
再び自分の音と向き合って生まれたアルバム『光』には、「自分は自分を選んで生きていくんだ」という凛とした思いが込められています。
▶︎大越佑華「光」(YouTube)
大越さんの演奏と歌声には、透明感と力強さがあります。
筆者も楽曲の世界観に深く引き込まれました。

「自分を選んで生きる」
大越さんは、言葉にも音にも「自分に嘘がないか」を確かめながら曲作りをします。
真っ直ぐな思いを乗せているからこそ、大越さんの歌は聴く人の感情に触れるのでしょう。
ライブ中に大越さんの歌を聴いて涙を流す方や、中国から会いに来たファンの方もいるそうです。
「自分の中にあったものが、誰かの心を動かせるんだなって。不思議ですけれど、すごくうれしいです」
大越さんにとって音楽活動とは、自分の心に正直に嘘なく向き合うことであり、思いを形にして誰かに伝えることなのです。
◾️雑貨店「トキノイロ」|心とはぐれないように


「音楽以外にも、自分が良いと思えるものを誰かに直接届ける場所を作りたい」
そんな思いから、大越さんは音楽活動の傍ら、雑貨店「トキノイロ」を福井県鯖江市の古民家にオープンしました。
店内の商品棚には、大越さん自身が「これ、面白いな」「こんなものがあったらうれしいな」と感じて選んだ品々が、一つ一つ丁寧に並んでいます。
並べられた品物がどれも居心地が良さそうに見えるのは、大越さんの細やかなこだわりが行き届いているからでしょう。筆者は、芸術作品のように並ぶ商品を眺めるうちに、何度も心を引き寄せられました。実際に手に取って新しい発見があると、うれしさが込み上げます。
「自分がわくわくするものを、来てくださった方も同じように楽しんでくださると、すごくうれしいです」


雑貨店を始める前、大越さんは仕事を転々としながら、自分を見失う苦しさを感じていたと言います。大越さんにとって「トキノイロ」は、自分を見失わないように、自分自身を選び取りながら生きていくための場所。
「心と違うことをすると、不具合がいろいろ出てくるんですよね。だから、自分自身と心がはぐれないように、このお店と音楽活動をしています」

店づくりには家族も関わっています。「商品や店の雰囲気について、母によく相談します。白い商品棚は父と一緒に作りました。家族と一緒に作り上げたお店です」

「祖母はよく、もういつお迎えが来てもいい、と言うんです。でも生きている間はできるだけ楽しいと思ってほしくて、祖母には手作りタワシを作ってもらい商品として置いています」
お店の存在が、大越さんのご家族の生きる意欲につながっている様子でした。
「お客さんにも、今生きている時間や空間をいいなと思ってほしい。そのお手伝いを、音楽とこのお店を通してしていきたいです」
祖母手作りのタワシを商品棚に並べながら話す大越さんの目が、キラキラとしていて印象的でした。
音楽活動だけでなく、雑貨店「トキノイロ」もまた、大越さんの「心」から生まれた場所なのです。
◾️心を表現するきっかけを作りたい

お客さんがくつろげるスペース作りを模索中
大越さんは今後、「トキノイロ」で展示や少人数のワークショップ、一対一のライブなどを開催できないかと考えています。例えば、簡単な歌詞や曲を作る体験などを通して、お客さんの「言葉にならない思い」を表現するお手伝いがしたいと言います。
「表現したい思いはあるものの、どう形にすればよいか分からない。そんな方の背中を押す場所にしたいですね」
大越さん自身、これまで何度も迷ったり立ち止まったりしながら、自分の感覚を形にしてきました。自分の感覚と向き合い続けてきた大越さんだからこそ、誰かが「言葉にならない思い」を外へ出す瞬間に寄り添えるのではないでしょうか。
◾️「トキノイロ」で、自分の心の余白を感じてほしい

「お客さんにとって、このお店が心の余白を大切にできる時間・空間になってほしいです」
忙しい日々のなかでは、自分の心を後回しにしてしまいがちです。それでも、心が「少し休みたい」「何かを表現したい」と伝えてくることがあります。
そんなときは、「トキノイロ」で自分の心の余白を感じてみてください。自分の心に正直に、自分を選んで生きていい、と気づかされます。大越さんの歌と「トキノイロ」は、自分自身の声に気づくための場所なのかもしれません。
「自分を選んで生きていくことが、私の人生のテーマだなって思っています」
大越さんはこう話します。
「トキノイロ」には、優しく穏やかな時間が流れていました。
ぜひお店で大越さんの世界観に触れながら、自分自身の心にも耳を澄ましてみてください。
【情報】
トキノイロ
住所:福井県鯖江市杉本町30-54
営業時間:11:00〜18:00(不定休)
駐車場:3台
オンラインショップ:https://porolowa.base.shop
大越佑華リンクツリー:linktr.ee/yukaogoshi
※ご本人提供以外の写真は、すべて2026年9月1日に筆者撮影





