〜この記事は、株式会社JTBふるさと開発事業部と合同会社イーストタイムズが共同で取り組んでいる「ローカル魅力発掘発信プロジェクト」から生まれたハツレポです〜
「泉屋」といえば、紺と白の缶に「浮き輪」のマークを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。ふたを開けると、昔ながらの素朴なクッキーの数々。真ん中にあるのは四色の小さなドライフルーツの飾りのついたドーナツ型の「リングターツ」です。
このクッキーの生みの親こそ、創業者の泉伊助、園子夫妻。
信仰心の厚いクリスチャンだった園子さんはアメリカ人の宣教師夫妻と出会い、日曜学校の教室でクッキー作りを学んで、それを日本人好みの味に改良、現在も愛される「スペシャルクッキーズ」と呼ばれるクッキーが出来上がりました。
その後、泉夫妻の作るクッキーは評判となり、日本で初めて「クッキー」を販売した「泉屋」が誕生したのです。
シンボルマークの浮き輪は、母が子を守る思いそのもの。どんな荒波にも沈まない、心強いシンボルであり、また困難を乗り越える「人の輪(和)」を大切に、という思いも込められているそうです。
クリスチャンだった園子さんは、浮き輪が人命を救うように、クッキーを通して社会の役に立ちたいと考えていたそうで、その思いは現在の「泉屋東京店」に脈々と受け継がれています。
“昔ながらの味”を守る工場で見た、手作業へのこだわり
工場でまず驚いたのは、父の日用の「お父さんクッキー」を一つ一つ手で型抜きしていたことです。伸ばした生地に「お父さん」のイラストをかたどった型紙を置いて、そこにチョコレートを塗って型で抜く、という繊細な作業を素晴らしい速さでこなす職人さんたちに、ただただびっくりしました。
「もちろん機械も使っていますが、手作りの良さを守るために多くの部分を手作業で行っています。リングターツに載せるドライフルーツは、細かく切るのもクッキー生地に載せるのも熟練の職人さんたちが手でやっているんです」
と生産部長の野口さんが教えてくださいました。
100年を目指して、その先も続くような企業に
工場見学の後、4代目社長の泉由紀子(いずみ・ゆきこ)さんにお話を伺いました。
「創業者がボランティアの気持ちが強い方だったので、先代の頃までは価格改定をしなかったり、昔ながらの泉屋らしい “浮き輪と紺白” にこだわっていました。ただやはり、企業として続けていくためには時代に合わせていくことも必要なのではないか。一時サブレのような柔らかいクッキーが流行って、正直すごく苦戦した時期もありました。
でも、うちはスコットランドのお母さんたちが焼いていたシンプルな堅いクッキーから始まっていて、それを誇りに思っています。改めてブランドの価値を見直して、お客様にうちの良さをどう伝えていくかを考えることにしたんです。
新しいパッケージデザインや商品サイズを考えたり、価格もご納得いただけるようないいものを作った上で見直したり、個包装を強化したり。
創業者の思いを伝えながら、改めて100年を目指して、その先も続くような企業にしていこうと進んでいます」
また、「人とつながれるような社会奉仕をしたい」という泉さん。
現在、「盲導犬アート缶」という、パッケージに盲導犬のイラストを入れた商品を販売しています。
「昔は障がい者施設にお菓子を寄付したり、本社のあった東京麹町の地元のお役に立つようなこともさせていただいていましたが、やはりうちはお菓子屋なので、クッキーを通して何か貢献したいと思い、盲導犬アート缶を作りました。売り上げの一部を、盲導犬総合支援センターを通じて、補助犬育成や障がい者の社会参加の支援活動に役立てて頂いています。この活動を通じて、みなさんに少しでも盲導犬のことを知っていただけたらいいなあと思っています」
現在、本社と工場を置く川崎の活性化を願って、ふるさと納税の返礼品にも出品しているそうです。
「川崎というと工業地帯というイメージがありますが、お菓子の工場もたくさんあるし、違った魅力もたくさんあるので、少しでもイメージアップにつながるといいと思っています」と由紀子さんは話してくれました。
手作りにこだわり、創業者の「社会奉仕」の精神を大事にすること。長く人々から愛され続ける理由は、そんな社員のみなさんの「志」にあるのかもしれません。