秋田県は、スポーツを県の活力と発展のシンボルとする「スポーツ立県」を掲げています。県内では、プロ・アマチュア問わず様々なスポーツ団体が活動しており、秋田県アームレスリング連盟『ガッチリ隊』もその一つです。
全国大会入賞常連の強豪として知られる同チームですが、近年は初心者や女性の参加も増えており、スポーツを通じた地域振興や、関係人口を活用したコミュニティづくりにも取り組んでいます。競技やチームの魅力、活動内容について、アームレスリング経験者の筆者が練習会を訪問、取材しました。 (取材・文:合同会社イーストタイムズ畠山智行)
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分かりやすさと奥深さが魅力。SNSを通じて爆発的に競技人口が増えている「世界最小の格闘技」
誰もがやったことがある腕相撲を、明確なルールの下で競技化したものがアームレスリングです。アームレスリングと言えば、力自慢のスポーツと思われがちですが、実際はパワー、テクニック、メンタル、全てが求められる全身スポーツで、軽量級の選手や女性にも広く親しまれています。また、一般の選手と障がいを持った選手が一緒に楽しめ、選手としての寿命も長いことから、生涯スポーツやバリアフリースポーツとしての側面もあり、2017年からは国体のデモンストレーション競技としても採択されています。近年ではYouTubeやTikTokなどのSNSを見て競技を始める人も増え、競技の裾野も広がっています。身体一つでできる気軽さとスポーツとしての奥深さを兼ね備えていることも人気の秘訣でしょう。
とは言え、「レスリング」の名を冠し「世界最小の格闘技」「最速の格闘技」の異名を持つアームレスリングは純然たる格闘技です。トップ選手は国内のみならず、アジア大会や世界大会で入賞するなどの活躍をしており、大迫力の試合は見応え抜群です。
初心者から全日本入賞常連まで。名門、秋田県アームレスリング連盟『ガッチリ隊』の活動
さて、秋田県は、アームレスリングの強豪として全国に知られていることをご存知でしょうか。今回、取材でお話を伺ったのは、秋田県アームレスリング連盟『ガッチリ隊』の髙橋真(まこと)会長(49)です。
チームの設立は2005年で、現在は本部(秋田市)、大館(おおだて)、能代(のしろ)、県南の4つの支部で40人ほどのメンバーが活動しています。2023年に開催された第40回JAWA全日本アームレスリング選手権大会では、県南の千葉英明選手が2位(一般男子57kg以下ライトハンド)、髙橋潤(めぐみ)選手が3位(一般女子57kg以下レフトハンド)、40歳以上のマスターズの大会では、能代支部の落合寿長(としなが)選手が70kg以下レフトハンドの部で優勝という輝かしい戦績を残しています。
その一方で、未経験者の方が各支部の道場を訪れることも増えています。髙橋会長は「力自慢の人だけじゃなくて、スポーツ経験のない人や女性も、地域や仲間との繋がりの中で生きがいを見つけられるのがアームレスリングの良さです。強くなるため、健康のため、身体の見栄えをよくするため、仲間づくりのため、色んな目的の人がいるのがガッチリ隊の面白いところですね」と、多様性をチームの魅力の一つに挙げました。
「アームレスリングは人との繋がりが命」競技の裾野を広げ、地域の健康増進と生きがい創出のために
多様な背景や目的を持つメンバーが長く、楽しく競技を続けるには様々な工夫が必要です。「和やかな練習会の雰囲気作りや、その人の強さや身体に合わせた教え方をする(やり方を強制をしない)ということを心掛けています。加えて、モチベーションが上がる仕組み作りも欠かせません」と髙橋会長。
ガッチリ隊では、強さに応じて5部〜1部、Sの6つのクラス分けをし、メンバーが上のクラスへの昇格を目指す『ガッチリリーグ』を年に2回、県内各支部が集まって開催しています。髙橋会長は「リーグが終わった後は、居酒屋で懇親会を開催し、親睦を深めています。エリアを跨いだ繋がりが大切なんです。アームレスリングは一人ではできませんから」と、アームレスリングが人と人、地域との繋がりが命であることを強調します。
また、県を跨いだ交流も盛んです。年に1回秋田市内で開催されるオープン大会では、力自慢の芸能人をゲストとして呼び、宮城や山形など近県のアームレスラーも集まります。JAWA宮城県アームレスリング連盟の『仙台闘腕クラブ』で代表を務める中谷徹さん(46)は「レフリーや選手として秋田の大会に関わってきました。秋田と宮城は人材交流が盛んで、行き来しているうちに地域への愛着も湧くようになりました」と語ります。
また、告知にはSNSを活用し、試合の様子はYouTubeでライブ配信します。そうすることで、他県の選手との交流が生まれ、地域コミュニティや地域経済への貢献ができるのです。筆者もそのような、アームレスリングを通じた秋田との「繋がり」に魅せられ、秋田の関係人口となり、移住まで経験しました。
この「繋がり」の力は、年齢関係なく人を惹きつけます。「脅威のオールドルーキー」の異名を持つ武石和彦さん(68)もその一人です。
「成長期は今!若い人とのコミュニケーションも楽しい」68歳のアームレスラー武石さんの挑戦
上小阿仁村(かみこあにむら)出身の武石さんは高校卒業してからの42年間、警察官として勤める中で柔道や自転車競技などウェイトトレーニングなど、様々なスポーツに親しんできました。トレーニングを通じてアームレスリングに出会い、67歳の時にガッチリ隊に加入します。スタミナが自慢の武石さん、メンバーは「20:00以降(練習終盤)は武石さんが一番強い!」と口を揃えます。どれ程の強さなのでしょうか。
武石さん(左) vs 筆者(右)練習・スタミナ不足の筆者は、練習後半、武石さんに圧倒されました
筆者も過去に秋田県オープン大会(Bクラス)で準優勝の経験があるのですが、組んでみてびっくり、とても68歳とは思えない強さでした。得意なゾーンに入らせてはいけません。最初はなんとか抑えられたものの、練習後半は武石さんに押され気味でした。
「65歳を超えても強くなれるのが楽しいです。若い人たちとコミュニケーションが取れるのも楽しいし、そのことがボケ防止にもなっていると思います。上のリーグ(現在は3部に所属)に行けるように精進します」とイキイキと語る武石さんの姿が印象的でした。人と人との繋がり通じて心身の健康を保てるアームレスリングが武石さんの生きがいになっているようです。
「門戸は誰にでも」やってみよう、アームレスリング。作ろう、人と人、地域と地域の繋がり
このように、世代を超えて、時には障がいのあるなしを超えて、皆で台を囲みながら楽しめるのがアームレスリングの魅力です。ガッチリ隊は、これまで地域に根ざした活動を展開してきましたが、図らずもスポーツを通じた秋田県の関係人口拡大にも一役買っていたと言えます。
髙橋会長は「競技のポテンシャルに対して、認知度はまだまだ。コロナ禍が落ち着いてから新たに競技を始める人が増えていますが、アームレスリングの面白さをもっと多くの人に伝えていきたいですね。地域の皆さんの健康増進や、秋田を盛り上げる活動にも関わっていきたいです」と、今後の競技の拡大や地域とのより深い関わりに意欲を見せます。
練習会の見学・体験、試合観戦、大会スポンサーとしての関わり、大会の告知の支援など、ガッチリ隊には多様な関わりしろがあります。アームレスリングは、誰にでも門戸が開かれています。アームレスリングを通じて、新しい自分を発見し、スポーツを通じた地域づくりに関わってみてはいかがでしょうか。全国のアームレスラーの皆様のご支援、交流も引き続きお待ちしております。
関わりしろ
・練習会の見学・体験
・試合観戦
・大会スポンサー
・大会の告知の支援
・練習会への参加(アームレスラー向け)
連絡先
秋田県アームレスリング連盟 会長 髙橋 真
TEL 090-3123-4234 E-mail arm_akita@yahoo.co.jp