本当に旨いのは「適サシ」肉。創業140年の老舗が語る「旨肉の掟」5箇条 〜浅草ちんや〜【東京都台東区】

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「“サシ”が多ければ美味しいわけではない。本当に美味しいのは『適サシ』肉です」

このように語るのは、1880年(明治13年)創業、浅草の老舗すき焼き屋、6代目の住吉 史彦さん。

日本では「霜降り肉」が美味しい和牛の代名詞のように使用され、その “サシ”の量で、等級がつけられることが一般化しています。 市場では“サシ”が多いほど等級が高い、つまり高値でやりとりされるため、牛肉の生産者や飲食店の多くは、そのトレンドを追って「霜降り肉」「“サシ”の多さ」をウリに取引をするようになりました。

そんななかも、社会のトレンドに流されず、本当に美味しい肉の状態と調理法を明治時代から守り続けるのが、浅草の老舗すき焼き屋「ちんや」です。その「ちんや」で、実際にすき焼きを食しながら、6代目住吉さんから本当に美味しい牛肉の条件についてお伺いしました。

▲室内に飾られている「ちんや」の看板

“サシ”の多さ主義に方向転換したお店が多い

「“サシ”の多さ」が美味しい牛肉であるというトレンドに流されてしまうお店も少なくないそう。トレンドより味を守ることを大切にした住吉さんは、「ちんや」として「適サシ」を示すようになったそうです。

住吉:
近年はどうしても「“サシ”の多さ=等級の高さ=価格」という考え方が一般的になってしまいました。しかし、肉の旨さというのは脂の量で決まるわけではありません。適度でないと肉の旨みは薄らぐばかりでなく、脂っこく感じられてしまいます。

どのレベルの“サシ”や熟成度合いが美味しいかは、歴史あるお店や本当に美味しい牛肉を提供してきたこだわりあるお店なら分かっているはずです。しかし、社会のトレンドに流されて、“サシ”の多い牛肉に変えているお店も少なくありません。勿体ないですね。

私たちは、本当に美味しいお肉は適度な“サシ”であるべきだと考えていますので、「適サシ」という言葉を出すようになりました。

美味しい牛肉5条件:月齢(30か月)まで肥育した雌牛を熟成させる

「適サシ」を伝え始めたのはここ数年ですが、実はこれは明治当初より守られてきた「旨い」条件を言語化しただけです。ずっと守り続けられてきた美味しい牛肉の条件を改めてお伺いしました。

住吉:
「適サシ」「美味しい牛肉の条件」を打ち出し始めたのは2017年です。“サシ”が多い方がありがたいと思う人が増えた一方で、「ちんや」としては“サシ”の量ではなく一番美味しい味を守っていることをお伝えしたかったんです。

「適サシ肉」とは言うまでもなく「適度な霜降肉」のことで、サシの入り方が過剰でないこと意味する造語です。掲げている5つの条件はこちらです。

1. 「小ザシ」=サシの入り方が細かい。
加熱すると、サシと赤身の境界線から「和牛香」が発生しますので、「小ザシ」が良い香りの出る肉です。
2. 脂肪の量が4等級(5等級は不使用)
3. 脂肪の融け方が良い、つまり脂肪の融点が低い
4. 黒毛和牛の雌牛
5. 枝肉重量480kg以内

※充分な月齢(30か月)まで肥育した、和牛のメス牛の脂が美味しいそう

▲ちんやHPより

充分な月齢(30か月)まで肥育した和牛の雌牛の脂は、加熱すると、サシと赤身の境界線から「和牛香」が発生します。熟成させる事により胃もたれせず、そして香りも良いすき焼きを実現できます。旨味と脂の甘味がバランスよく、すき焼きに最も適しています。

ちなみに、「どこ産ですか?」とひたすら聞かれる方もいますが、産地はあまり関係ありません。どこそこで生まれ育ったから美味しい、味が別格ということはありませんね。美味しいお肉を仕入れてお客さまに提供するには、生産者を選び、目利きをきちんとしてお肉ごとの質をきちんと選ぶことが必須です。

また、ピンク色ぐらいの熟成せずサシが入ったお肉は綺麗には見えますが、熟成して赤くなった方が味わいが深いんです。美しく見えるからという理由で選ぶこともお勧めできません。

老舗名店のすき焼きは、肉・野菜・わりした全て計算され尽くしている

老舗が守る味を知るため、お昼のすき鍋御膳をいただきました。「適サシ」肉は、お肉に火が通り過ぎないぐらいで食べ、その後にお肉の味まで染みたお野菜やお豆腐、お麩をいただくことがお勧めだそうです。

しっかりとお肉の旨みを感じつつ、口当たり滑らか。そして不思議なほどに脂っこさを全く感じません。お肉を最初に食べ切ってしまうのは、ちょっと楽しみが減ってしまうのでは……という心配はよそに、お肉の味をしっかりと吸ったお豆腐、お野菜、お麩に大満足。食べ終わる頃には、全ての流れがしっかりと考えられて、一つの「すき焼き鍋」の世界を作り上げているのだと納得しました。

“サシ”の多さ主義に流されず、伝統の味を守り続ける「ちんや」さん。6代目住吉 史彦さんは、そんな伝統を守る責任感の重さを感じさせないぐらい軽やかに、色々なお話をしてくださりました。

トレンドよりも守るべきものをしっかり守る。本当に美味しいものを提供し続ける。
そんな老舗が途絶えぬよう、応援していきたいです。

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丸山 かなみ

丸山 かなみ

東京都台東区

副編集長

浅草在住、食べ物とお酒が大好きな「ローカリティ!」副編集長。

世界は知れば知るほど面白い。その面白さをキャッチして、とことん深堀りし、多くの人と共有できるように、日々、好奇心旺盛にアンテナを高くして生きていきたいです。

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