「こんな祭り、ポーランドにないよ」300余年続く神事に初参加の外国人、異国の目が見た地域の力【福島県磐梯町】

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春分の日の2026年3月21日、福島県磐梯町の磐梯神社で、県指定重要無形民俗文化財「舟引き祭りと巫女(みこ)舞」が執り行われた。磐梯町更科地区にある境内には家族連れや近隣住民、見物客らが集まっていた。空気は穏やかだったが、神事が始まる前の場には、どこか和やかな緊張感が漂っていた。

「舟引き祭りと巫女舞」は、磐梯神社で春分の日に行われる作占(さくうら)神事である。磐梯明神を迎えるために巫女舞が神前で奉納され、小中学生の女の子が舞手を務める。一方、舟引き祭りでは、米俵を載せた「飯舟(いいふね)」と呼ばれる木舟を東西に分かれて引き合い、その年の作柄を占う。言い伝えでは、東が勝てば豊作、西が勝てば米価が上がるとされている。

まず奉納された巫女舞では、境内がすっと静まり返った。華やかさを競う祭りではない。鈴の音と所作の一つ一つが、春を迎える土地の祈りそのもののように感じられた。

テレビで見た祭りに、自ら飛び込んで参加した

続いて行われた舟引き祭りに、今年はポーランド出身のプシェミスワフ・アンジェイェフスキさんが参加した。数日前、たまたまテレビでこの祭りの映像を見たことがきっかけだったという。日本の祭りに実際に参加するのは初めてである。野良着に着替え、鉢巻を締め、東西どちらに入るかを決めるくじを引いた結果、彼は東組に加わった。

舟引きの前には、拝殿から勝敗の判定役を務める磐梯明神が現れた。いよいよ始まると、見た目以上に重い舟を前に、参加者たちは一斉に綱を握った。掛け声を合わせ、足元を踏ん張りながら引くその動きには、想像以上の力と呼吸の一致が求められる。

初参加の彼も、最初は戸惑っている様子だった。だが、「せーの」という掛け声や、周囲の身振り手振りを頼りに、少しずつ動きがそろっていく。言葉がすべて通じなくても、同じ綱を握り、同じ方向へ力を込めるうちに、一体感が自然に生まれていった。

「みんなで引くと前に進む」共同作業の実感

神事の後、彼は息を整えながらテレビの取材に応え、「正直、大変でした。でも、みんなで同じ方向に力を出すと、自然と(物事が)前に進む。その感覚がすごく印象に残りました。ポーランドには、こういう形のお祭りはないです。とても印象的で、素晴らしい祭りだと思いました」と率直な感想も口にした。

私はその言葉に、少しはっとした。地元では当たり前に続いてきた神事も、海外から来た人の目を通すことで、その特別さがくっきりと浮かび上がる。舟引き祭りには大きなステージも、派手な演出もない。だが、だからこそ綱を引く一人ひとりが役割を持ち、その場にいる人たちみんなで祭りを支えていることが伝わってくる。その素朴さと力強さが、初めて参加した外国人にもまっすぐ届いたのだと思う。

国際交流イベントではないからこそ見えたもの

今回の参加は、国際交流を前面に出した特別な企画ではなく、300年以上続く地域の神事への参加である。偶然テレビを見た一人の外国人が、地域の祭りに加わった。ただそれだけのできごとだ。しかし、私はそこにこの祭りの大きな価値があると感じた。

磐梯町では、人口減少など地域の課題を抱えながらも、こうした行事が受け継がれてきた。コロナ禍を経た今も、準備や運営には地域の支えが欠かせない。その中で、外から訪れた人が自然に加わり、同じ舟を引き、同じ時間を共有する。その光景は、この祭りが閉じた伝統ではなく、地域の日常の延長線上で人を受け入れる行事であることを示していた。

舟引きは三番勝負である。時間にすれば10分ほどのできごとだったかもしれない。だが、その短い時間の中に、地域の人々が守ってきた歴史と、初めて出会う者を包み込む柔らかさが同居していた。

祭りの後、境内には穏やかな余韻が残っていた。綱を引き終えた人たちは笑顔で言葉を交わし、見物客もまた春の陽気の中でそれぞれの帰路についた。磐梯町で静かに続いてきた舟引き祭り。その綱を握る手に、この日、国境はなかった。私はその光景を見つめながら、地域の伝統とは、守るだけでなく、こうして誰かを自然に迎え入れることで未来へ続いていくのだと感じていた。

取材協力:磐梯町地域おこし協力隊 水戸智子さん(教育委員会文化生涯学習課)
参考資料:「磐梯神社の舟引き祭りと巫女舞」(うつくしま電子事典)
写真はすべて筆者撮影

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。また、2025年、「津波遺留品の返還事業終了へー東日本大震災から14年、記憶を未来へ【福島県いわき市】」で3回目となる本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を受賞。写真を通じた情報発信の一環として、郡山市(福島県)の市民カメラマンも務める。

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