廃棄される「バラ」を使って地域を元気に “師匠”とともに歩む地域おこし協力隊の挑戦【宮城県美里町】

3 min 347 views

 

情熱的なその見た目で告白やプロポーズの場面にも使われることの多いバラ。実は出荷されることなく廃棄されるものも多いのです。宮城県美里町(みさとまち)では、そんな地域の「もったいない」を活用した取り組みが行われています。この記事はバラで美里町を元気にしようと奮闘する地域おこし協力隊とその師匠の2人のお話です。 

 「バラ染め」を多くの人に広めるために

宮城県美里(みさと)町は、豊かな田んぼが広がる人口約2.3万人ののどかな町。町のゆるキャラ「みさとまちこちゃん」の手のひらの上にちょこんと乗るのは、「バラの妖精ちゃん」。このゆるいタッチがなんともほっこりします。

美里町ではバラの生産が盛んだったこともあり、バラが町花として親しまれています。バラといえば『花の女王』と言い表されるほど情熱的で美しい花を咲かせます。お花屋さんで見るバラは、茎がまっすぐに伸びて花びらも大きく立派ですよね。

実は、畑ではそんな立派なバラばかりが育つわけではありません。成長過程において茎が曲がってしまうものや花びらが小さいものなど、お店に出荷できないようなものが大量に出てしまいます。それらは小さくても華麗なバラなのですが、すべて廃棄するしかなかったそうです。

10年以上前、町内にある農業高校でこの廃棄されるバラを活用できないかと、生徒や先生たちが活用方法を研究し、辿り着いたのが「バラ染め」でした。バラの花びらから抽出した赤い染色液を布に染みこませると、鮮やかなピンク色に染まります。先生たちは、染物の本場である京都の職人さんから技術を学びました。

そんな素敵な取り組みを町民の方に知ってもらおうと、高校の先生達は当時、町民向けのバラ染め講座を開きました。そこに参加したのが忽那香菜子(くつな・かなこ)さん(65)。忽那さんはお友達と一緒に3人で講座に参加し、バラ染めに出会いました。

忽那さんは元々、科学実験のように試行錯誤することが好きだったこともあり、バラ染めの魅力にどんどんはまっていきました。バラ染めをもっとたくさんの人に知ってほしいという思いがありましたが、高校の生徒や先生達は年々入れ替わってしまいます。そこで忽那さんは当時の校長先生にお願いして、バラ染めの技術を学校からすべて引き継ぎ、バラ染めを広げる活動を続けていくことにしました。

忽那さんは、町内の大規模農家から廃棄される大量のバラをもらい、バラ染め教室を開いたり、バラ染めの商品を町内のイベントで販売したりしました。一度ピンクに染めた生地を錫(すず)や銅などの金属イオンが入った媒染液に浸すと、ピンクから紫や黄色、紺色など様々な色に変わります。時には失敗もありましたが、忽那さんは楽しみながら取り組みました。

一方、バラ染めは動物性の生地、つまりシルクでないと染まりにくく、材料が高価なためどうしても商品も高価になってしまうという難点がありました。そのため作った商品がなかなか売れなかったり、身銭を切ることも多く、約10年活動を続けたのは忽那さん1人となりました。

しかし約4年前、町内の大規模農家が倒産してしまい、バラを手に入れることも難しくなったため、忽那さんもやむなく活動を休止してしまいました。

一度は消えかかった取り組み、地域おこし協力隊が受け継ぐ

それから約3年が経った2022年4月、美里町で初となる地域おこし協力隊4名が着任します。4人は町のプロモーションやゆるキャラ「みさとまちこちゃん」のPRなど、それぞれのミッションを持って活動しています。

その中でも最年少の武田莉愛(たけだ・まりあ)さん(24)は、町のプロモーションのためバラに注目しました。武田さんは元々バラが好きで、美里町の町花がバラであることも美里町の地域おこし協力隊に応募するきっかけの一つだったそうです。

しかし既にバラの大規模農家はなく、忽那さんも活動を休止していたため、バラで何ができるのか、どこからバラを調達するのかなど、とっかかりを見つけるところからのスタートでした。そして偶然にも、観光物産協会のパンフレットに載っていた忽那さんのバラ染めを見つけたのです。

ここから、武田さんは持ち前の行動力で次々と新たな展開を生み出してきました。町の職員を通じて忽那さんを紹介してもらい、バラ染めの技術を教えてもらいました。また、小規模ながらもバラを作り続けていた個人農家も紹介してもらい、バラ染め用のバラも手に入るようになりました。

武田さんは忽那さんを”師匠”と慕い、バラ染めの技術を受け継いでいます。そんな武田さんと忽那さんが息を合わせて一緒に作業する様子は、まさに師匠と弟子のよう。忽那さんは、「武田さんのおかげで美里町のバラ染めが復活したの」ととても嬉しそうに語ります。

そして2人は次の展開を見据えています。実は、バラ染めをした後の布は水洗いすると色が落ちてしまうため、染めるものが限られていました。そのため忽那さんは、以前は商品にする時はストールを主に作っていましたが、武田さんはもっとたくさんの種類の商品を開発して、販売もして町を盛り上げたいと意気込みます。早速、町内の手芸サークルの皆さんと連携して、バラ染めを使った商品を一緒に考えていくところなのだとか。

一度は消えかかった地域の貴重な取り組み。地域おこし協力隊が受け継ぐことで、新たな可能性が広がりました。

【美里町でのバラ染め体験に関するお問い合わせ】

馬籠 美南

馬籠 美南

宮城県大崎市

第1期ハツレポーター

岩手県の久慈生まれ、盛岡育ち。大学時代は仙台で過ごし、就職を機に大崎市へ来ました。
東北から出たことがない、東北大好き人間です。宮城の中ではあまり目立たない大崎市ですが、世界農業遺産にも認定された豊かな土壌に魅力的な人、物、事がたくさん隠れています。大崎を含む宮城県北や地元岩手の魅力を発信していきたいです!