東京の下町、清澄白河を流れる小名木川にかかる西深川橋の横には、「生きた化石」とも呼ばれる古代魚、シーラカンスの大きな石像が設置されています。
まるで昭和の特撮怪獣映画から飛び出してきたような姿は、迫力満点で今にも襲いかかってきそう。見る角度に寄っては橋を渡る人や車を飲み込んでいるようにもみえます。
しかし、怖い風貌とは裏腹に、地域の景色に溶け込んでいるこの巨大魚像は、静かに橋と川の安全を見守る、幸せの象徴でもあります。
今回は、大きな口で人を捕食する(ように見える)シーラカンスの巨像と、そこに込められた想いをレポートします。
下町の川沿いに住むヌシ?謎の巨大魚像
「人を捕食するようだ」と言われる全長4メートルほどのシーラカンスの巨像は、東京都江東区の下町、清澄白河(きよすみしらかわ)を流れる小名木川にかかる西深川橋のたもとにあります。
清澄白河は、江戸時代に武家屋敷や大名の下屋敷が集まっていた下町で、現在もその風情を残した閑静な住宅街として親しまれています。
小名木川は、その清澄白河周辺を流れる約5km程の長さの運河で、江戸時代初期に徳川家康の命令で建設されました。西深川橋はこの約5km程の間にかけられた15以上の橋の一つで、関東大震災の復興事業により昭和5年(1930年)ころに架設されたそう。今では珍しいリベットむき出しの無骨な外観に、橋の歴史を感じることができます。
なぜこんな下町の橋のたもとにシーラカンスがいるのでしょうか。
人々を捕食しつつも見守る、幸せの「ゴンベッサ」
インパクトのある巨大魚像は見る角度によっては、まるで橋を渡る人や車を捕食しているかのようで、昭和のB級特撮映画の怪獣にも負けない迫力があります。
しかし、昭和の怪獣たちがそうであるように、つぶらな大きな目と、開きっぱなしの大きな口が、どこかユーモラスな造形でもあり、佇む姿が愛らしくも見えてきます。
実はこの巨像には「ゴンベッサ」という名前がついています。
シーラカンスが初めて発見された南アフリカのコモロ諸島ではシーラカンスの事を「ゴンベッサ」と呼んでおり、もともとは「食えない魚」という意味の言葉でした。
実際にシーラカンスは鱗が硬く、肉も不味く食用に適さなかったため、コモロ諸島の住民からは価値のない魚として扱われていました。
しかし、その価値が知れ渡った後、高値で取引されるようになると「幸せを呼ぶ魚」や「幸運」という意味の言葉に変わっていったのです。
「ゴンベッサ」の名前通り、人々にささやかな幸せをもたらしてくれる存在として作られたのでしょう。
調べてみたところ、この巨像は造形作家の松本哲哉さんの作品で、1990年の橋梁景観整備工事の際に、モニュメントとして設置されたものだそうです。
特に小名木川でシーラカンスが釣れたとか、付近で化石が発見されたというような関係性は無いようでした。
地域の人達は「ゴンベッサ」を特別視すること無く、当たり前の風景として受け入れているようで、像の周りには付近の住民が置いたと思われる植物のプランターがありました。
怪獣のような出で立ちでありつつ、人々の幸せを呼ぶ巨大魚「ゴンベッサ」は、この魚の巨像は、すでに清澄白河の人々の生活に溶け込んでいるようです。
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