「やきいもを1本でも買ってくださったら、全国どこへでも行きます!」(前編)【宮城県大崎市】

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そんな、“やきいも屋さん”を営む男性が宮城県大崎市にいる。実際にやきいもを届けるために車で沖縄まで行ったこともあるという。しかし、実はこの男性の本職はIT業。なぜ“IT屋さん”が“やきいも屋さん”をやっているのか、そこには震災ボランティアで繋がった熊本県の農家との絆があった。

やきいもと言ったら、みんな大好き冬の風物詩。凍えるような寒さの中、スピーカーから流れる「いしやーきいもー」の声が聞こえてくると小銭を握りしめて駆け出したくなる。

宮城県大崎市の末永克さんが作るやきいもは、中がねっとりとろ~りとしていて、まるでスイーツのよう。そして少し透き通ったきれいな飴色をしている。さつまいもを焼いただけなのに、スイートポテトや干し芋のようなコクのある甘さ、それでいてすっきりとした後味でいくらでも食べられてしまう。一体、他のやきいもと何が違うのだろうか。

まず欠かせないのが、熊本県西原村で収穫されるシルクスイートという品種のさつまいもだ。60年以上にわたって代々培ってきたノウハウで、絹のように滑らかな舌ざわりの、上品なさつまいもができるという。

収穫したさつまいもは、気温と湿度が管理された専用の大きな保管庫に入れ、寒い時期を耐え抜くことでさらに糖度が高くなる。

「西原村のさつまいもじゃないと、ここまで美味しいやきいもにならない」と末永さんは言う。このさつまいもをわざわざ1000km以上離れた宮城まで取り寄せているというから驚きだ。

熊本県西原村は、2016年4月の熊本地震で大きな被害を受けた地域である。末永さんは当時、震災ボランティアとして西原村に入った。そして、西原村の5代目さつまいも農家の堀田さんという方と出会った。

実は末永さんの本職はIT業なのだが、さつまいもをネット販売したいと思っていた堀田さんと話すうちに意気投合し、2人でさつまいも販売のウェブサイトを立ち上げることになった。

ウェブサイト製作のため、末永さんが3日間泊まり込みで丁寧な取材をしたのが功を奏したのか、ウェブサイトの評判は上々で、売上も上がったという。しかしそんな中、末永さんにはいづいことがあった。(※「いづい」とは、宮城の方言で違和感があるという意味)

ネット販売の準備をするためにマーケティング調査をしていたのだが、どのような人に買ってもらうか、どのように販売すればいいかを考えるために、数字ばかりを追いかけていた。が、ふとした時に、さつまいもを1人の人間に買ってもらうのに、なぜ自分は数字相手に仕事をしているのか、“気持ち悪く”感じたそうだ。そこで末永さんは商売の基本に立ち返ろうと考えた。

知り合いに、やきいもを焼く「釜」とそれを載せて寝泊りもできるスペースを搭載した「やきいもカー」を作ってもらった。そして3年前、自らお客さんのところへ車を走らせ、その場でやきいもを焼いて販売する取り組みをスタートさせた。

やきいもカーの名前は、宮城の方言で「どこでも、かしこでも」を意味する「ドゴダリカグダリ号」に決めた。

「1本でも買ってくださったら、全国どこへでも行きます」。西原村のさつまいもを広めるため、当時はあまり深く考えずにそう言っていた。

やきいもを欲しい方のところへ軽トラで行き、その場で焼くスタイルだったため、そんな遠くに行くことはないだろうと思っていたが、なんといきなり沖縄へ行くことになった。沖縄にいる人がやきいもを買いたいと言ってくれたからだ。

普通の人だったらさすがに行けないと断るところだが、末永さんは荷台の重い軽トラを走らせ、しっかり沖縄までやきいもを届けた。もちろん、海を渡る時も軽トラで行かなければならないので、沖縄まで行くのはかなり苦労した。

軽トラの荷台を改造しただけの車なので、あまりスピードを出すことができない。そのため、鹿児島まで下道で行き、そこから片道7万円かけてフェリーに乗り、沖縄へ1本数百円のやきいもを売りに行った。途中、熊本に寄ってさつまいもを仕入れながら、全国各地でやきいもを売り歩いた。

そして、末永さんと相棒・ドゴダリカグダリ号の日本縦断旅が始まった。

(後編に続く)

馬籠 美南

馬籠 美南

宮城県大崎市

第1期ハツレポーター

岩手県の久慈生まれ、盛岡育ち。大学時代は仙台で過ごし、就職を機に大崎市へ来ました。
東北から出たことがない、東北大好き人間です。宮城の中ではあまり目立たない大崎市ですが、世界農業遺産にも認定された豊かな土壌に魅力的な人、物、事がたくさん隠れています。大崎を含む宮城県北や地元岩手の魅力を発信していきたいです!