株式会社ひとまいるは、「なんでも酒やカクヤス」を中核に、飲食店向け、家庭向けに酒類などを届けてきた企業グループです。2025年7月、株式会社カクヤスグループから現在の社名へ変更しました。酒販企業として知られてきた同社は、いま酒類販売にとどまらず、配送網や顧客基盤を活かした販売・物流プラットフォーム企業へと変わろうとしています。
代表取締役社長兼CEOの前垣内洋行さんは、社名変更を単なる看板の掛け替えではなく、同社が次の段階へ進むための意思として捉えています。酒屋であり、物流会社でもあり、地域に根ざしたサービス企業でもあるひとまいるは、例えば1本の水を配送するなど一見非効率に見えるサービスを貫いています。その理由は何なのか?ひとまいるが目指す世界とその背景について前垣内さんにお話を伺いました。

目次
宅配の酒屋を超え、信頼してお客様の心を支える存在に
ひとまいるグループの主軸となる事業は、現在も「なんでも酒やカクヤス」です。飲食店向け、家庭向けの双方に酒類などを届けています。首都圏、関西、九州、札幌へと事業エリアを広げ、約250拠点から自社配達を行っています。
前垣内さんは、同社の特徴を「酒屋ではあるが、物流会社のような性格もある」と話します。
拠点を細かく置き、配送半径を小さくすることで、時間指定の枠を細かく区切り、1時間単位で届ける。配送員を外部委託だけに頼らず、直接雇用の社員やアルバイトが担う。また、飲食店の鍵を預かり、冷蔵庫の中まで商品を補充するような関係を築いてきました。
1時間単位で正社員がすべてを届けることはとても難しいように見えます。ですが、そこに同社の強みがあります。
短い時間帯指定で届けるので受け取れないことが少ない。つまり再配達が減ります。また、単発のバイトではなく継続的にお客様とつながる社員がいるからこそ信頼関係を築けるのです。ただ荷物を置くだけではない心をこめた細やかなサービスができるのだと前垣内さんは考えます。
一見非効率でも、お客様の困りごとに応える姿勢を貫く
同社の歴史には、一般的な合理性とは違う判断がいくつもあります。
配送者側の都合としては、配送はまとめた方が効率的。時間指定は広い方が楽。高額なワインやシャンパンは店舗側で在庫にしてもらう方がよいと考えるのが普通かもしれません。
しかし、同社は逆に、こまめに少数ずつ届けるサービスを提供しています。銀座のクラブ向けのサービスでは、顧客のワインリストを預かり、必要な商品をすぐ届ける体制をつくりました。高額商品を店舗に置けば盗難や在庫管理の負担が生まれます。自分たちが銀座近くに拠点を置き、注文が入れば届ける体制を作ることにより、細やかな対応を実現しています。
また、同社は、商用だけではなく、家庭向けにも玄関口まで商品を届けます。東京23区であれば、ビール1本から社員が届けるという、一見非効率的に見える形のサービスを貫いているのです。その考え方を象徴する、印象的なエピソードがあります。前垣内さんは実際にあった話として、1人暮らしの高齢の方が、毎日のように商品を1本だけ注文されていたと語ってくれました。他の宅配サービスでは、効率の面から継続が難しく、断られてしまったといいます。
それでも、同社はその注文を断りませんでした。商品を届けるたびに、配達員は玄関先で少し言葉を交わし、感謝の言葉を受け取って帰ります。ひとまいるは、商品ではなく、商品を通じて人の心の支えをお届けしているのです。
効率だけを考えれば、1本だけの商品を毎日のように届けることは、決して合理的ではありません。しかし、その1本を届けることが、お客様にとっては人と話す時間になり、日々の安心にもなっていました。
奇抜さを狙うのではありません。お客様が本当に困っていることを見つけ、他社が踏み込みにくいところまで丁寧に応える。その積み重ねが、同社の強みになっています。
前垣内さんは、街の酒屋から始まった同社をこれまで何度も「蛻変(ぜいへん、蝉などの昆虫が脱皮して成長するように、古い殻を脱ぎ捨てて全く新しい姿に生まれ変わること)」してきた会社だと語ります。幼虫と成虫がまったく違う姿になるように、環境に合わせて姿を変えてきたそうです。
ただし、変わらないものもあります。
それは、お客様の小さな要望を大事にし、できる限り応えたいという思いです。

酒販で培ったノウハウを生かし、地域の販売プラットフォームへ
ひとまいるが社名を変えた背景には、酒販だけでは長期成長が難しいという危機感がありました。人口減少、酒類消費量の減少、若年層のアルコール離れなどの社会的背景を見ると、これまでの延長線上だけでは、会社の規模を維持し、成長し続けることが難しくなってきているのです。
それでも、酒販をやめるわけではありません。
むしろ、酒販で培った顧客基盤、配送網、即配のノウハウを、次の事業の土台にします。自社で持っている商品だけでなく、他社の商品も扱える流通インフラとして、受注、配送、請求、顧客管理、マーケティングまで含めた販売プラットフォームへ。ひとまいるが目指すのは、商品を増やすことだけではなく、配送ネットワークそのものを社会に開くことです。
前垣内さんは、将来像について、まだ進出できていない主要都市に事業エリアを広げ、プラットフォームとしての機能を果たせる会社になりたいと話します。
その先に目指すのは、地域の中で「この会社があるとうれしい」と思われる存在です。
20リットル樽を運ばなければならない環境を変え、誰もが参加できる配送へ
物流業界では、人手不足や高齢化、2024年問題、冷凍・冷蔵の供給網不足が社会課題になっています。ひとまいるは、自社の配送網を広げるだけでなく、運び手のあり方も変えようとしています。
かつて酒屋の配送は、重い荷物を運ぶ業務が多く、力のある人でなければ担いにくい仕事でもありました。そこで同社は、リアカーの活用、配送拠点の高密度化、20リットル樽を10リットルに小容量化する取り組みなどを組み合わせ、より多様な人が配送できる形を模索しています。
前垣内さんは、1~2時間の空いた時間に地域の人が運べるような場になりたいと話します。
ひとまいるが描くのは、お客様だけでなく、働く人、地域の人にも開かれた仕組みをつくることなのです。

先進的なことより、人に喜ばれるサービス
雨の日には注文が減ります。重いものを運んでもらうのに、雨の中で来てもらうのは悪い。そんな顧客からの気遣いです。ひとまいるのサービスは、人と人との関係の中にあります。
同社が変えようとしているのは、配送の仕組みだけではありません。
地域に、困ったときに頼れる配送がある。近くに動いてくれる人がいる。酒屋から始まった会社が、冷凍・冷蔵物流や他社商品の配送、販売プラットフォームへと広がることで、地域で暮らす人の買い物の選択肢も、地域で働く人の仕事の選択肢も増えていきます。
前垣内さんは、先進的なことを掲げるよりも、人に喜んでもらえるサービスを愚直に続ける存在でありたいと語ります。
「非効率に見えたことが、実は強みでした」
その積み重ねが、ひとまいるを酒販企業から物流企業へ、そして販売プラットフォーム企業へと押し出しています。

聞き手:丸山夏名美、木場晏門 執筆:木場晏門
※写真は提供写真以外は2026年6月4日丸山夏名美撮影
最も印象に残った言葉:
「一見非効率なんだけど、実は効率的なんです」
「人に喜んでいただけるようなサービスを愚直にやっていく」
「地域でこの会社があってもいいよって言っていただけるように」
会社概要
会社名:株式会社ひとまいる
取材対象者:代表取締役社長兼CEO 前垣内洋行さん
存在意義:地域の人々の暮らしのどんな小さい願いも叶えたい
事業内容:酒類等の販売、飲食店向け・家庭向け配送、販売・物流プラットフォーム事業の展開
所在地:東京都北区豊島2-3-1
URL:https://www.hitomile.co.jp/






