土地の大半が山間の紀伊半島。川沿いの谷間を縫うように形成された集落で、人々は山を削り河原の石を積んで家の基礎を作り上げた。こうして、山の斜面に石垣が幾重にも重なる独特の景観が形作られてきた。
「ここなんか、石のツラがかっこよくてお気に入りやな」。そう言って、奈良県下北山村の元石積み職人・東忠雄さんは自宅裏手の石垣を指さした。忠雄さんが積んだという石垣は、上から見下ろすと、それぞれの石の頭が糸を張ったようにまっすぐそろっている。
中学を卒業して、三重県御浜町の職人の元へ弟子入りした忠雄さん。始めは石を積むことを許されず、大勢の職人の飯を炊く毎日。やっと石積みを許されても、兄弟子も親方も石の積み方を教えてくれるわけではなかった。技術は全て目で見て盗んだ。
「いろんな形の石があるけど、かっこよお収まるところが必ずあるんや」。河原で拾った石をそのまま積んでいく野面積み。一つ一つ違う石の形を一瞬で見極め、よどみなく積んでいくのが職人の腕の見せ所だという。
紀伊半島魅力発掘隊Facebookより 2019年3月5日の投稿