和歌山県那智勝浦町(なちかつうらちょう)。
毎年9月に、航海の安全と大漁を祈願し、勝浦八幡神社例大祭(かつうらはちまんじんじゃれいたいさい)が行われる。
祭りの日は、朝から町中がそわそわしている。
私が小学生の頃、約45年前、祭り当日小学校は午後から休みになった。
女の子は薄くお化粧し着物姿に花笠、男の子ははっぴ姿に拍子木(ひょうしぎ)。そんな姿が町を賑わせていた。各地区に作られた祭りの宿には大勢のおとな達が出入りし、祝儀や差し入れが運び込まれていた。
祭りと地域がしっかりと繋がっていたのだ。
勝浦八幡神社は、那智湾と森浦湾に挟まれた勝浦港の、入り江の一番奥にある。祭りは、御神体を乗せた神輿が神社を出発し、約1時間半かけて街中を練り歩く。
祭りのクライマックスは、夕方。神様を海に迎えるため、満潮時刻に神輿が海中めがけて飛び込む「海中神事」だ。
神輿を担ぐ男たちのかけ声や、見物人たちの歓声と共に、神輿は海の中に放り込まれる。
この「海中神事」を見ようと、大勢の人が港に詰め掛ける。「こんなにたくさんの人がどこから集まったのだろうか」というくらいの人だかりになる。いつもの静かな港とは大違いだ。
海中から神輿が引き上げられ、祭りはクライマックスを終える。
大勢いた人が、一人また一人と帰り、港は少しずつ静寂を取り戻していく。
そして、舟謡(ふなうた)が流れる中、神輿は船に乗せられる。うしろに何隻かの船を引き連れ夕暮れの中、湾を進んで行く。海を渡って神社に帰るのだ。
こうして祭りが終わる。
3年前、私は、人の少なくなった港でそんな祭りの終わりを見ていた。気がつくと、空は秋のうろこ雲、夕暮れの陽の光が輝いていた。遠くに見える船の美しい姿に、神々しさを感じた。
残念ながら、この祭り、コロナ禍の影響で2年連続「海中神事」が行われていない。規模が縮小され、神社の中で神事が行われているだけだ。来年こそはこの神々しさを再び味わいたい。