東京から新幹線で約90分。福島県のほぼ中央に位置する郡山(こおりやま)では、春の訪れとともに市内各地でマルシェや朝市が開かれ、生産者自慢の旬の野菜や果物、花、手作りの農産加工品などが店頭に並ぶ。
その中でも、私が訪問したのはJR郡山駅から車で10分ほどにある老舗菓子店のパティオで開かれた「開成マルシェ」。このマルシェでは野菜やキノコなどの農産物だけでなく、卵やソーセージ、お茶、醤油に至るまで地元で生産された食材を扱うブースが中庭を囲むように配置されている。ウッドチップが敷き詰められた会場は市民の憩いの場となる公園からも近く、小さい子供を連れたファミリーの姿もよく見かける人気のマルシェだ。
ちょうど12時を告げる「郡山市民の歌」が防災無線から流れてきたので、そろそろ何を買って帰ろうかと迷っていたところ、ふと目の前に今までとは違うブースがあることに気づいた。近づいて訊いてみると、東日本大震災を機に新設された福島大学食農学類の研究チームのひとつだという。
であれば、野菜について勉強している学生がマルシェで自家野菜の販売実習でもしているのかと思いきや、「いえ販売と言うより、2種類のニンジンの天ぷらを試食してもらってどっちがおいしいか感想をもらっています」とのこと。一般的には難しそうな理化学的試験とは別に、食べてみて単純に「おいしい」か「おいしくない」かという直感的な声を集めて、今後の商品開発に活かすのだという。
今回の調査対象は郡山のブランド野菜のひとつ「御前人参(ごぜんにんじん)」である。このニンジンはいわゆる特有の土臭さが少ない上、生産量が多いことが特徴らしい。郡山市内はもとより福島県内でもまだまだ知名度が高くない地域野菜とはいえ、一般的なニンジンと食べ比べると甘みが際立つのがこの人参だという。
マルシェが始まってからさほど立たないうちにブースには多くのお客さんが立ち寄り、美味しいと思った方のサンプルにシールを貼っていく。御前人参が好きという人もいれば、食べ慣れたスーパーのニンジンの方を選ぶ方もいて、まさに「美味しさが見えるテスト」だ。
カレーやサラダ、煮物まで、和洋中問わず幅広く重用される野菜「にんじん」。福島県内の郷土料理にもズバリ「いかにんじん」という逸品がある。開成マルシェで紹介された御前人参は雪室で半年間貯蔵することで旨味が増し、出荷時期も調整できるのが利点だという。「だから、そのまま食べると良さがものすごくわかりますよ」という先生の言葉に惹かれ、ウチに帰ってから試しに貴重な御前人参をスティック状に切って食べてみた。サクッとした歯触りに続いて、口の中にふわっとした甘みが広がった。
マルシェとは「作る人」と「買う人」をつなぐ場だけでない。これから未来に向けてチャレンジしようとする若者たちの学びの場でもあることを教えてくれたような、そんな気がしたマルシェだった。