東京ドームおよそ一個分の、梅の海原に吸い込まれる【秋田県三種町】

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本当は悩んだのだ。秋田県秋田市でも桜の開花宣言がなされた4月の土日、お天気は上々だ。秋田市の千秋公園では、花見客でごった返し、近隣のビルの駐車場には車が列を作っていると聞いた。気温はおよそ20度。串モノをほおばりながらそぞろ歩くにはもってこいの花見日和だ。しかし私には千秋公園の他にもう一つ、先月から気になっていた公園があった。

秋田県三種(みたね)町にある「金仏(かなぼとけ)梅公園」。県内最大の広さを誇る梅の公園があると聞き、桜よりも可憐な梅の花が、もうそろそろ見ごろが終わるかと思うと、やはりそちらを見ておきたくなった。秋田市から車でおよそ1時間、スマホと地図を見ながら、町の総合運動場を横切る。

「間に合うかな、桜が咲いたくらいだから、もしかしたらもう終わってしまったかも…」。

不安半分、期待半分だ。

「…公園というより、「梅畑」だな」。

およそ2000本はあるという。その「はたけ」の脇に車を停めて、歩いても歩いても、ぐるり見渡しても、どこまでも梅の木が続いている。背丈の低い梅の木は、細く長い両腕を自在に広げては、空に、隣の木に、そして時々いたずらに行く手を阻みながら、4月の陽光と遊んでいた。満開の桜が、これでもかと雄々しく咲き誇る大樹ならば、こちらは見る者と同じ目の高さで、話しかけてくるような趣。しかし大群になって肩を組み絡み合えば、海原に吸い込むような不思議な迫力さえ感じる。

4月半ば、観梅会は過ぎたのだろうか。桜に客足を取られたかのように人の数もまばらだった。やまない小鳥の声に交じって鶯が鳴き、花は陽に光り、贅沢を独り占めしている気分になった。

ふと、千秋公園を想像する。出店がずらりと並び、家族連れやカップルで大いに賑わっていることだろう。駐車場を探し、ブルーシートを抱えて公園の坂を上り、到着すると座る場所を探し、花を見に行ったのか人を見に行ったのか分からなくても、皆、コロナ明けの花見を満喫しているのだろう。

そういえば来る前にパンを買ってきたのだ。急いで車から持ってきて梅の木の下に座り、光る白い花びらを真上に見ながら食べた。どうしてもそこで食べたかった。クローバーの上に直に座ると少し冷たかったがどうでも良かった。何度も同じ場所を行き来し、同じような写真を何枚も撮り、いつまでも居たかった。秋田市から小一時間ほどの静かな町。出店もなければ、自動販売機も、ベンチもない極楽浄土。

桜も、梅も、同時に満開となる秋田は、やっぱりとてもいいなと思った。騒がしさと静寂を、選んで遊べる秋田は、やっぱりとても、好きだなと思った。

あと何日、この花を見られるのだろう。夏ともなれば梅のもぎ取りもあると聞く。シーズンが終わってもまた一興。かれんな花びらに会いに、きっとまた来よう。

田川珠美

田川珠美

秋田県秋田市

編集部校閲記者

第1期ハツレポーター/移住と就業促進の仕事に関わってから、知らなかった魅力や課題のあることに気づきました。雪国のあたたかく柔らかい秋田を届けたいと思っています。ライフワークはピアノを弾くこと、ワクワクするのは農道探索、そして幸せは、心のふるさと北秋田市の緑の中をドライブすることです。

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