乾物エイを5日かけて戻して調理。秋田のごちそう「カスベ煮」はプルプルでコリコリの独特な食感【秋田県大仙市】

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※お酒のお供にはもってこい。濃い味で病みつきになる食感!

「カスベ」をご存じだろうか?

カスベとはエイの魚の一種のこと。耳慣れない名前かもしれないが、北海道では水揚げが多くよく食べられていて、東北地方では乾物を水で戻したものを煮物にして食べられることが多い。

秋田のカスベ煮の作り方

昔は、市場などで大きいままの乾物が売っていて、のこぎりでひいたり、なたでたたき切って小さくして料理していたようだ。今は小袋で、そのまま調理できる大きさにカットされてスーパーなどでも販売されている。


材料:干しカスベ200g、お好みで唐辛子の輪切り

調味料:しょうゆ80cc、酒200cc、ざらめ100g

※分量は正確でなくてもお好みで増減

1.カスベを洗って水に浸し、途中水を替えながら一昼夜以上置く。軟らかくなったら、大きいものは食べやすい大きさに切る。身の厚い真カスベなどは5〜7日もかかることがある。かくいう私も、柔らかくなるまで様子を見ていたら5日もかかった。

5日間水に浸していたカスベ

2.戻したカスベと、たっぷりの水を鍋に入れてゆでこぼす。その後ひたひたの水を加えて、弱めの中火で1〜2時間軟らかくなるまで煮る。カスベが鍋の中で踊らないくらいの火加減がポイント!

3.竹串が通るくらいやわらかくなったら調味料や唐辛子を加え、様子を見て水を足しながら弱火でゆっくりと時間をかけ味を煮含ませる。味をみながら調味料を調整し、煮汁がひたひたになるくらい煮詰まったら完成。

弱火でゆっくりと味を煮含ませる

冷めると煮こごりが!!

秋田でカスベ煮を食べる季節

乾物であることから、四季を問わず昔から秋田県民に親しまれてきたカスベ。

特にお盆や冠婚葬祭、お正月などのめでたい日や、来客をもてなす料理として食べられていた。特に毎年7月の秋田市土崎地区で行われる「土崎神明社祭の曳山(ひきやま)行事」(土崎港曳山まつり)は「カスベ祭り」ともよばれるくらい、多くの人たちに愛されていた。濃く味付けされたカスベ煮は、日持ちもすることから夏場に特に重宝されたようだ。
輸送方法も冷蔵庫などの保存技術も発達していない時代に、魚を食べる機会の多くない山間部の人たちにも貴重な食材だったに違いない。

秋田でカスベが食べられるようになった理由

カスベは、主な産地である北海道で乾物に加工されたものが、「北前船」とよばれる、江戸時代から明治時代にかけて日本海の各港で商売をしながら航海をしていた船によって秋田に運ばれていた歴史がある。

秋田市土崎地区の港には北前船が寄港していたので、地元の祭りで食べられるようになり、そのおいしさから「カスベ祭り」とよばれるほど人気になったのだろう。

当時土崎からは秋田の各地に川で物資を輸送する「雄物川(おものがわ)舟運」が盛んに行われていた。様々な物資と共に舟に積まれてカスベは県内各地に運ばれ、多くの人に食べられたのかな……など、カスベを煮ながらそんなことを考えた。

私の祖母もお祭りや盆正月には必ずカスベを煮た。

実は私は子どものころカスベが好きではなかった。魚の香りと濃いめの味、硬いんだか柔らかいんだかよくわからないぬるぬるした食感が嫌いだった。

祖母が煮たカスベを食べたのは大人になってから1度くらいしか記憶がない。今になってみるともったいないことをしたと思う。

実際に自分で煮たものを食べてみると、煮込んだ身は柔らかく、骨や軟骨がコリコリとして独特の食感。そして何よりぷるぷるした煮こごりを口の中に入れると、凝縮したカスベの旨みと甘じょっぱい味がすうっととけて口の中に広がる。今まで遠ざけていた、身近にあった最高のぜいたくは私が酒飲みになったからこそ気付くことができた。

カスベを何日もかけて水で戻し、時間をかけてお祭りやお盆や正月の準備をする。そんな昔の暮らしを思いながらカスベを味わう。今年のお盆はカスベを煮ようかなー!

※参考文献
『聞き書 秋田の食事』農山漁村文化協会(農文協)

※写真は全て2024年5月筆者撮影

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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