ガイドブックに載らない小さなお祭り。集落を疫病や災難から守る“一ノ渡の鹿島流し”【秋田県大仙市】

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※2019年6月撮影

田植えが終わり、秋田にもやっと汗ばむ季節がやってきた。

秋田では、田植えが終わってひと段落した頃をさなぶりといい、その時期などに県内の十数か所で「鹿島(かしま)」と名のついた祭りや行事が行われる。

秋田県のほぼ中央に位置する大仙市協和船岡にある60戸余りの一ノ渡(いちのわたし)で2024年6月9日、集落内の雷(いかづち)神社の祭典として「鹿島流し」が行われた。

一ノ渡の「鹿島」

一ノ渡の「鹿島」は全長が1.5mほどの小舟で、舟の先の方に高さ2mほどの龍の形をした鹿島様が取り付けられている。2本の角と赤い舌を出しているのが特長。

※一ノ渡の鹿島様 2024年6月9日撮影

集落内の雷神会(らいじんかい)のメンバーによって、前年に刈り取って乾燥させたカヤやアカシアの葉などを使って十数人で2時間ほどかけて作られる。

小舟の中央に立てられる旗は緑、黄、赤、白、紫の5色。「鹿島大明神」と大きく書き「家内安全」や「五穀豊穣」の願いを込めたものが集落の家々から集められる。

雷神会のメンバーが太鼓を打ち鳴らしながら、集落内に住む子どもや、集落に実家があり子どもを連れてきて参加する親子連れの掛け声とともに、リヤカーに乗せられた「鹿島」が集落内を練り歩く。

沿道の家々からご祝儀や、アイスクリームやお菓子などの差し入れがあるとそこで休憩になり和やかな時間を過ごす。1時間ほど集落を回った後に川に流す。

※ちょっと休憩 2024年6月9日撮影

このお祭りが終わると、川に入って遊んでも良いと古くから言い伝えられているとおり、夏の始まりを告げる祭りでもあるのだ。

「鹿島」の正体

秋田県内で行われる「鹿島」と名の付く祭りには、ワラで作った巨大な人形を村はずれなどに置く「人形道祖神(どうそじん)」を作る行事であったり、ワラで作られた男女の一対の人形、または武者人形を川や海にに流すものがある。

「鹿島」と名のついた祭りや行事のもとになるものは、全国にある鹿島神社の総本社、茨城県の鹿島神宮のことを指す。

手近な文献などを探ってもその起源については詳しい情報を得ることはできなかったが、およそ400年前の関ヶ原の戦いのあと、秋田に城を構えることになった常陸国(ひたちのくに・現茨城県)の佐竹氏によって持ち込まれた文化ではないだろうかという推測ができる。

全国の農村地域に今も名を残す、田植えを終えた時期の五穀豊穣と無病息災を祈願する「虫送り」のような行事が時間とともに融合して、「鹿島祭り」「鹿島送り」「鹿島流し」などの秋田の独特の形になっていったのかもしれない。

「ガイドブックに載っていないからこそ残さねば」

同じ大仙市協和船岡地区の中で、君ケ野(きみがの)・宇津野(うつの)船沢(ふねさわ)集落でも同様の鹿島流しを行っている。

一ノ渡集落の会長、武田春樹さんは「ガイドブックに載らないような小さい祭りだからこそ残さなければいけない」と、一緒に住む孫と共に参加した。

※(左)武田春樹さん 2024年6月9日撮影

こうした古くから伝わる疫病や災難から地域を守る呪術的なものは、科学や医療が発達した現在でも信仰として残っている。ひとつ不思議だったのが、多くの「鹿島」が人形なのに対し、一ノ渡を含む船岡地区の鹿島が龍であること。「龍神は大地を守り五穀豊穣の神であるからこの地域では昔から龍を作って、さなぶりの6月15日※にお祭りをしてきた」と武田さん。(※現在は6月の第2週の日曜日に行っている)

信仰が、関わる人や地域で時代と共に形を変えていくのも必至だろう。各地で全く違う形で進化している「鹿島」に秋田の深い歴史を感じる。過去に集落を襲った疫病や災難から村を守るため始められたであろう祭りは、小さいながらも毎年粛々と続けられ村を守り続けている。

2024年6月9日撮影

青々とした田んぼに爽やかな風が吹き渡る季節。特に梅雨入り前の夏至の頃の夕刻は、北西の山の稜線(りょうせん)が沈む夕日の色を映し、金色から徐々に色を変えていくのを眺められる。カエルの大合唱とともに景色をじっくり楽しめるいい季節だ。

※参考文献
秋田の祭り・行事(秋田文化出版)
協和村郷土史

※写真・動画は全て筆者撮影

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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