秋田県湯沢市で、「まちを元気にしたい」と、応援メッセージを集め、アート壁画を作る挑戦をしている唐揚げ屋さんがある。激しい過疎にあえぐ湯沢市の中心部で、「まちを明るくしたい」と、壁1面825枚の手書きメッセージを、3面分集め、アート壁画をつくる計画だ。4月に始まったこのプロジェクトはSNSでも話題を呼び、既に200枚のメッセージが集まったという。
「とにかく、まちに人がいない」と危機感
秋田県大仙市出身の伊藤広和さん(44)は、元々秋田市でエンジニアをしていたが、5年前に湯沢市にフリーランスエンジニアとして、湯沢市に移住した。町の人々と話しているうちに、「湯沢にはやる気のある人がいても、仕事がない」ということに気づいたという。
「周りの人に仕事を作り出すことをしたい」と、起業を決意。飲食業は未経験だったが、大阪の唐揚げグランプリ金賞の店で研修し、2022年4月に此処唐堂(ここからどう)をオープンした。お店の場所は、湯沢駅と市役所を結ぶ道と旧国道(旧羽州街道)の交差点だ。
唐揚げ専門店が秋田県内ではまだ珍しいということもあり、オープン当初は、近所の人や知人が訪れ、順調だった。転機は3か月後。夏場から売上が落ち込んだ。唐揚げ業界では、秋から春にかけて売上が伸びるということで、期待をしていたものの、全く売上が伸びなかった。
湯沢市は、日本有数の豪雪地帯だ。冬場は雪に閉ざされる。
「冬が寒すぎて、商店街を人が歩いていなかった。そして暗かった。自分の店もそうだが、この商店街は大丈夫なのだろうかと思った」と伊藤さんは語る。
「まちを元気にすれば、次に繋がる」
「とにかく明るくしよう」と思った伊藤さんは、湯沢の町を応援するメッセージを集める活動を始めた。お客さんにまちと商店街を応援するメッセージを書いてもらい、アート作品を作ろうと思いついた。メッセージを書いてくれた人は唐揚げを50円引きにする「応援割引」も始めた。その決意を動画にしてSNSにアップロードしたところ、1万回以上再生された。地元FM局でも話をして、共感の輪が広がってきたという。4月13日にはじめたこの取り組みに、すでに200枚以上の応援メッセージが集まったという。
「やはり、応援してくれる人が多いと感じました。みなさん、この商店街をなんとかしたいという思いが強いと感じています」
近くに高校があり、高校生が「ここの唐揚げは美味しい。自分たちの青春になる」というコメントをくれたことも。
「とにかく湯沢には人がいない。外から人が来てもらう仕組みが必要」と伊藤さんは強調する。此処唐堂では、湯沢産の食材にこだわった。市内の1867年創業のヤマモ味噌醤油醸造元の醤油を用い、イートインコーナーでは、西馬音内蕎麦(にしもないそば)も食べられる。
「湯沢にはいいものがたくさんある。活動を通じて、まちをにぎやかにしたい」と伊藤さんは語る。そうすれば、次に繋がると伊藤さんは信じている。
湯沢市の人口は、1955年の79,727人をピークに減少を続け、2023年4月30日時点で41,021人とピークから48.5%減少している。特に若年層の流出が顕著だ。筆者は、湯沢市で生まれ、幼少期から東京で育った。伊藤さんの挑戦がどのような変化を生むか、期待したい。
情報
- <此処唐堂>
昼の部11時〜14時
夕の部15時〜18時(延長あり)
電話、DM予約、イートイン可。
毎月14日はじゅ〜し〜の日でお得
https://www.instagram.com/karaage_cocokarado/
(中野宏一/ローカリティ!編集長)