まるで「手書き」ブログ!「酒と食のセレクトショップ」の三代目が23年書き続けるハートフルなチラシ【東京都世田谷区】

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升本屋之素2023年4月号~10月号

1人暮らしの筆者の母が毎月楽しみに読んでいる「升本屋之素」(ますもとやのもと)。B4サイズの見開きいっぱいに手書きでつづられたチラシには「へ~」や「なるほど」「う~ん」がつまっていて、クスっと笑ってしまったり、時にジーンとしたり。これを書いた人にどうしても会いたくなって、会いにいってしまいました。

書き続けて23年。「升本屋之素」が面白い

升本屋三代目梅田竹松(チラシでのペンネーム)こと梅田知行さん

「升本屋之素」を書いているのは、東京都世田谷区で1949年創業の「東京 世田谷 升本屋」三代目の梅田知行(うめだ・ともゆき)さん(51)。

「もともと、昔ながらの御用聞きをするような酒屋さんだったんですけど、父の代になって、コンビニが最初にできた年くらいに、少人数のオペレーションでできるような営業スタイルに変えていきました。当時は商店街もにぎやかだったし、銭湯が並びにあって、風呂上がりに冷たいビールが買えるというような、この辺の生活スタイルに合った形で繁盛してたんです。でもバブルがはじけて、規制緩和でお酒の販売が分散化していって、特色を出すために地方の特産品を置いたり、オリジナル商品を始めたりしてセレクトショップ化していきました」

と店の歴史について語ってくれた梅田さん。

「升本屋之素」は2001年10月から書き始めて23年目。

20年以上、毎月手書きのチラシを書き続けるというのは、恐るべき才能です。

しかも、その中身は身近な家族や店の話、スポーツや音楽、好きな人の話など、何気ない日常ですが、ついつい最後まで読んでしまう。その魅力とは一体なんなのか。

「僕、大学を出てから定職につかず、悶々としている期間が10年くらいあったんです。そんな中、ちょうど30歳になる手前くらいに、お店もなかなか厳しくなってきて、自分がどう関わっていくかを考えたときに、お店のPRというより、どういう人がこのお店をやっているかを伝えられる媒体があったらいいんじゃないかと思って書き始めました」という梅田さん。

悶々とした葛藤の中で、「手書きでの発信」を選んだ理由を聞くと

「文章を書くというより、字を書くのが好きなんです。あとはアナログな方が個性が立つかなと思いました。自分が嫌なら続かないけど、結果的に個性になって、自分が苦じゃなければ、味が出ていいかな。手書きがいいって言ってくださる方は多いですね」

それにしても、毎回きっちりスペースを埋めるのはすごいこと。

「原稿はあるけれど、紙に清書するのはフリーハンドで書いてます。だから結構曲がってたりとか(笑)字数よりも、原稿を何回か読み返して、これくらいで収まるだろうな、と。これは慣れですね」と、さらっとおっしゃいますが、すごい技術です。

「本当にスムーズにがーっと書けるときもあれば、どうしてもちょっと足りないなっていうときは、最後は伸ばしたり縮めたり、調節するゾーンみたいな感じで。締めの言葉が決まらない時もありますけど(笑)文字数が決まっていないので、かえって手書きの方が楽です。入らないなと思うと文字小っちゃくしたりとか」

2023年5月号。娘さんの話がほほえましい

筆者の母がポスティングされるのを楽しみにしていると伝えると

「どっちかっていうとお話が表面なんですけど、裏にはお店や商品の情報を入れていて、ポスティングはそちらを表にしています。僕としては商品の説明より、店主がどんなところに行って、何を思って、っていうようなことを書くことで、私もそこに行ったことがありますとか、会話のきっかけになったり共感したりしてもらえたらと思っています。僕は広く浅くいろんなことに興味があるので、深い話はできないけど、お店でちょっと立ち話する程度なら対応できる。そういうことができるチラシをコミュニケーションツールとして使うことで来店動機に繋がると思っています」

と語る梅田さん。さらに最近はこの人に読んでもらえたら、と相手を想定して書くことも多いのだとか。

「例えば●●さんとプロレスの話をして、それを思い出してプロレスの話を書くとか、イメージして書くことは心がけています。で、その人が反応してくれたら、良し!って、ひそかな楽しみを得ています」

文字に人柄がにじみ出るような、イメージ通りの穏やかで優しい語り口調の梅田さん。

文字は書くものではなくて打つもの、になってきている昨今。でも手書きだからこそ伝わるものがあって、それがこのチラシの魅力になっているのではないでしょうか。

2023年6月号の裏面。商品情報が盛りだくさん。こちらもほとんど手書き

オリジナル商品にも力を入れる。店主のこだわりが詰まったセレクト品

梅田さんの戦略にまんまと乗せられ、チラシの魅力にはまってしまった筆者ですが、そうなると「梅田さんの選んだ商品、作った商品」にも俄然興味が湧いてきます。

「これまではセレクトショップということで20年くらいやってきたんですけど、プライベートブランドも一つの個性なので、オリジナルにも力を入れて販売しようと、今年からチラシにもオリジナル&セレクションと入れ始めました」

という梅田さん。

ニューカリントウ塩みつブラウン。一言がうれしい、一筆かりんとうも大人気

主力商品は「塩みつ®かりんとう」です。看板商品として販売してきたものですが、コロナの影響で依頼先の工場で作れなくなってしまい、別の工場を探して新たに作り直したそうです。昨年の春から「ニューカリントウ塩みつブラウン」として販売されています。

そして、もう一つが「笹塚ビール」。近隣の飲食店さんと企画して、「地元笹塚を愛し、楽しむ人々がつい応援したくなるようなビール」を作ったそうです。コンスタントに売れ続けて、今年10周年を迎えました。

それ以外にも焼酎と日本酒をオリジナルで作っており、アイテムは拡大中です。

オリジナル焼酎を作るために勉強して「SSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)認定焼酎アドバイザー」の資格を取ったそう。「本格焼酎 無題®」は芋焼酎で、縁あってお付き合いをしていたという鹿児島の田苑(でんえん)酒造で製造しています。

また日本酒「清酒 無題®」は山形県米沢市で400年続く酒蔵、株式会社小嶋総本店で作っているそうです。

お酒や調味料が所狭しと並ぶ店内

梅田さんはまた、「J.S.A.(一般社団法人日本ソムリエ協会)認定ソムリエ」でもあり、ワインは自然派ワインを中心にそろえています。

「2006年頃、僕自身が自然派ワインを飲んで興味を持って、お店で取り扱うようになったんですけど、なぜこれが特徴的なのかをアピールするためにワイン全体のことを勉強しようと思いました。結果的に信頼度も高まっています。ワインは何を選んだらいいかわからないし、飲むと頭が痛くなるというお客様が多くて、でも、こういうワインなら大丈夫ですよとわかっていただきたくて、コロナ前はワイン会をしたりしていました」

「基本的にうちでは飲み疲れをしないお酒を選んでいます」、という梅田さん。一杯で満足というよりはゆっくり飲めるもの、食事と一緒に楽しめる酒質のものを作ったり、仕入れたりしているそうです。

ほかにも旅行に行って興味を持ったという沖縄の泡盛やおつまみなどの食品、調味料など、店内には見ているだけでも楽しい商品が所狭しと並んでいます。

ここ笹塚で、2049年に100周年を迎えたい。その時僕は77歳(笑)

店の前でビールを飲む常連客。招き猫が出迎えてくれる

「うちはセレクト品もオリジナルもギフトに特化した商品であればいいと思っています。中身の良さは最低限、信じていただいた上で、パッケージをちょっと面白いアイディアで工夫し、人に贈りたくなるような商品を作っていければ差別化ができるかな」という梅田さんは、セレクトのセンスはあると信じているそうですが、売る、広める能力にちょっと欠けていると自己分析。

「モノはいいものを集めているし作っているし、発信もしてるんだけど、僕が思っているほど届いていない。それを何とか克服したいです。事業を拡大したいわけじゃないけれど、このお店には繁盛してほしい。この人のところで買いたいと思わせるかどうか、だと思っています」

升本屋がある通りは昔は活気ある商店街でしたが、一時寂れて、その後住宅街化されました。京王線笹塚駅前の商店街を抜けた先にある静かな通り、という印象です。

「ここのあたりをヨコキタザワ(横北沢)と呼ぼうというプランがあって、奥渋(渋谷の奥)とか裏原(原宿の裏)とかあるじゃないですか。まだ全然浸透してないんですけど、笹塚と下北沢に挟まれたブラックホールを面白くできたらいいな、という願望はあります」

梅田さんは、三代に渡りこの地で74年営業してきて、やはり「ここに来てもらいたい」と思うそうです。

「笹塚の駅前で再開発があってお店も人口も増えているので、特別な時はうちに来れば用が足りる、とか、買い物以外にいろいろ体験してもらって記憶にとどめてもらえるようなお店になればやっていけるんじゃないかという気がします」

コロナ前は頻繁にイベントをやっていた升本屋。もう一度、一からそれをやりたいと梅田さん。

人とのつながりを大事にする「東京 世田谷 升本屋」の三代目は、最後に「2049年、77歳でお店の100周年をやるのが目標です」と笑顔で語ってくれました。

できれば、「升本屋之素」もそこまで続けてほしいと筆者は切に願っています。

「東京 世田谷 升本屋」

http://masumotoya.shop5.makeshop.jp/

写真はすべて2023年10月18日筆者撮影

笠原 磨里子

笠原 磨里子

千葉県浦安市

第3期ハツレポーター

東京都港区生まれ。世田谷区を経て千葉県浦安市在住。3人の男の子を育てながら、PTAや自治会、ボーイスカウトの指導者など、地域と繋がる活動をしてきました。
「食べること」「体を動かすこと」「歌うこと」「旅すること」が大好き♬
楽しく地元の魅力を発信していければと思っています!*

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