佐渡が新潟市の雪を減らす!? 都市伝説「佐渡ブロック」はガチだった【新潟県新潟市】

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新潟市にある日本最大規模の砂丘湖・佐潟から角田山を望む(写真提供:©Niigata Visitors & Convention Bureau)

豪雪地帯・新潟県の中で、なぜ新潟市だけ雪が少ないのか?

冬、日本海側の街は雪に包まれる。2025年2月6日現在、湯沢町では207センチ、小出(こいで)では160センチ、津川でも130センチの積雪が観測されている。一方、新潟市沿岸部の積雪量は、わずか6センチにとどまっている。

新潟県内の積雪状況(気象庁ホームページより)
佐渡や上越・下越地域には雪雲がかかっているが、新潟市にはない(気象庁ホームページより)

新潟県は日本屈指の豪雪地帯として知られているが、なぜか新潟市だけは他の地域と比べて雪が少ない。この現象について、地元では「佐渡島が新潟市内に降る雪を減らしているのでは?」という「佐渡ブロック」説がまことしやかにささやかれてきた。これまで科学的な証明はされていなかったが、2023年、筑波大学の研究チームがついにこの謎を解き明かした。

新潟市中央区の鳥屋野潟(とやのがた)で羽を休めるハクチョウたち(写真提供:公益社団法人 新潟県観光協会)

「佐渡ブロック」とは何か? 

佐渡島は、新潟市の西約30キロメートルの日本海上に浮かぶ離島だ。面積は約855平方キロメートルと

東京23区の1.3倍ほどあり、標高1,000メートル近い山岳地帯を持つ。その立地と地形が、新潟市の降雪量に影響を与えているのではないか──これが「佐渡ブロック」の基本的な考え方である。

通常、日本海で発達した雪雲は、海沿いの街に次々と雪を降らせる。しかし、新潟市の風上には佐渡島があるため、そこにぶつかった雪雲は佐渡島上で雪を落とし、結果として新潟市に到達する頃には雪の量が減るのではないか、という理論だ。しかし、これまではあくまで「都市伝説」の域を出なかった。

新潟市・信濃川のほとりで雪遊びを楽しむ家族(写真提供:©Niigata Visitors & Convention Bureau)

科学が証明した「佐渡ブロック」の仕組み

2023年、筑波大学計算科学研究センターの日下博幸(くさか・ひろゆき)教授率いる研究チームは、過去の気象データを詳細に分析し、「佐渡ブロック」のメカニズムを検証した。研究によると、「佐渡ブロック」は主に以下の三つの要因によって発生するという。

1. 雪雲の「一次降雪」効果

日本海から吹く湿った風は、佐渡島にぶつかることで上昇気流を生じさせ、雪を降らせる。その結果、雪雲が新潟市に到達する頃には水分量が減少し、降雪が少なくなる。

2. 風速の低下による「影響範囲の縮小」

佐渡島の山々が風を遮ることで、風下にあたる新潟市側では風速が弱まり、雪雲の移動速度が低下する。これにより、雪雲の再発達が抑えられ、新潟市の降雪量がさらに減少する。

3. 降雪を抑制する「雪陰効果」

通常、風下の海上では雪雲が再発達するが、佐渡島で雪が降ることで雲の水蒸気量が減少し、再発達が抑えられる。その結果、新潟市では降雪が少なくなる傾向が強まる。

これらの現象が組み合わさり、新潟市の雪の量を大幅に減らしている、というのが研究の骨子だ。

また、数値シミュレーションでは「佐渡島がない場合」と「ある場合」を比較したところ、佐渡島が存在することで新潟市の降雪量が減少することが再確認された。つまり、「佐渡ブロック」は都市伝説ではなく、科学によって実在することが証明されたのだ。

佐渡島がない場合のシミュレーションでは、新潟市の降雪量は他の平野部と同程度だった。(一部筆者加筆)

       

佐渡島を150キロ北東沖に移動させると、風下にある地域の降雪量が減少する。(一部筆者加筆)

佐渡島を北西に200km移動させると、風下側に最小の降雪域が現れた。(一部筆者加筆)

佐渡ブロックが新潟市の気候に与える影響とその可能性

今回の研究により、「佐渡ブロック」という現象が単なる噂ではなく、新潟市の気候に大きな影響を与える重要な要素であることが明らかになった。この発見は、防災や気象予測への応用はもちろん、冬の観光プロモーションなど、新潟の暮らしや地域文化に新たな価値をもたらす可能性を秘めている。

私たちが当たり前だと思っていることの中には、まだ科学で解明されていない謎が多く存在する。好奇心を持ち続けることで、地域に眠る「ここにしかない」発見に出会えるかもしれない。「佐渡ブロック」という言葉を知っている新潟の人も、今回初めて聞いた人も、この冬はぜひ天気予報を見ながら新潟の空を見上げてみてほしい。あなたの頭上に広がる雪雲は、佐渡島によって形作られているのかもしれない。

画像引用:H.,Kusaka, N., Suzuki, M.,Yabe, H., Kobayashiagata.(2023) The snow-shadow effect of Sado Island on Niigata City and the coastal plain ; Atmospheric Science Letters,24, DOI: 10.1002/asl.1182

参考資料:筑波大学計算科学研究センター. [ウェブリリース]佐渡島が新潟の降雪量を減らす「佐渡ブロック」のメカニズムを解明.2023, https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/release230723/, (参照2023‐11‐20).、H.,Kusaka, N., Suzuki, M.,Yabe, H., Kobayashiagata.(2023) The snow-shadow effect of Sado Island on Niigata City and the coastal plain ; Atmospheric Science Letters,24, DOI: 10.1002/asl.1182.

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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