ローカリティ!時代の開拓者たち

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「まじめ(Seria)」と「確率」で100円の制約を最大の価値に変えるセリアの経営哲学 【岐阜県大垣市】

5 min
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100円ショップ「セリア」は、全国に2000店舗以上を展開しながら、創業以来、全ての商品に対して、100円という価格にこだわり続けています。物価高や人手不足、人口減少など、多くの企業が制約と向き合う時代にあっても、その姿勢は変わりません。

なぜセリアは100円を守り続けることができるのでしょうか。

その理由を探るため、株式会社セリア代表取締役社長の河合映治さんにお話を伺いました。

取材を通じて見えてきたのは、創業者から受け継いだ「まじめさ」と、河合さん自身が銀行員時代から磨いてきた「確率思考」でした。物価高や人手不足が続くなかでも100円という価格を守り続けるセリア。その背景には、多くの企業が困難と捉える環境を価値へと変える独自の経営哲学がありました。 

中学生時代に培った「気づかれていない価値を見抜く」視点 

河合さんが確率という考え方に興味を持ったのは、中学生の頃にまでさかのぼります。

「中学の時から株式投資をしていました。株式投資の本質は、人が気づかれていない企業の価値を見つけること、そしてその価値がどの確率で評価されるかという視点で世の中を見ることにあります。人類がどうやって確率の概念を手に入れたかという本も読み込んでいました」

河合さんはその本を通じて、高度な理論として扱われている確率も、もともとは「賭け事に勝つにはどうしたら良いか」など人々の素朴な疑問や試行錯誤から生まれたことを知りました。

「複雑なものではなく意外とシンプルだった」

未知の分野でも、シンプルに本質を捉え価値を見抜き、仮説を立てながら考える。その姿勢は、その後の銀行員時代、そしてセリアの経営にもつながっていきます。

地方銀行の8割の案件を動かした確率思考

河合さんは2003(平成15)年にセリアに入社する前は地元・岐阜県大垣市にある銀行に勤務していました。銀行の国有化や統合が進む厳しい時代に、河合さんは融資判断モデルの構築からデータベースの管理、審査業務までを一人で担っていました。

大手銀行であれば、モデル構築、システム開発、審査と分業される業務です。しかし地方銀行では、それを一気通貫で担う必要がありました。全体の約80%の案件が、河合さんが構築したシステムで動いていたといいます。一見すると、大きなリスクにも見えます。

「周りには『そのリスクをよく取れるな』と言われました。でも、少ない案件だけを扱うよりも、多くの案件を扱った方がその後の仮説検証もできる。中途半端にやると何が良くて何が悪かったのか分からなくなってしまうんです」

河合さんの考え方の背景には、統計学の「大数の法則」があります。少しの事例だけで結論を出すのではなく、数多くの事例を積み重ねることで事象全体の確率や平均値が分かる。結果としてどこまで何をするべきかが見えてくる。河合さんはそう考えています。その姿勢は銀行員時代だけでなく、現在のセリアの経営にも生かされています。

銀行もセリアも「お客様が価値を感じる商品」を届けることに変わりはない

セリアに入社した当時、河合さんには100円ショップ業界での経験はありませんでした。しかし、業界の常識を学ぶことから始めるのではなく、中学生の頃から大切にしてきた「本質を見抜く」という視点をもとに、まずは商品や売上のデータを分析し、「お客様にとって価値のある商品をどう効率的に届けるか」という仕組みづくりに取り組みました。その仕組みは約3か月で完成したといいます。 

「この会社に来た時に、お金を貸すことと同じだと思ったんです。銀行も100円ショップも、お客様にとって価値ある商品を見つけて効率的に届けるということに変わりはありません」

また現在は年間25億を超える商品の動きを分析し、お客様が本当に価値を感じる商品を見極めています。河合さんは大量のデータと向き合いながら、仮説と検証を繰り返しているのです。

中学生の頃から持ち続けてきた価値を見抜く視点と、銀行員時代に磨いた確率思考。その二つが結び付いたことで、セリア独自の経営哲学が生まれたのです。 

創業者から受け継いだ原点「まじめさ」

河合さんが大切にしているのは、確率やデータだけではありません。その土台にあるのは「まじめさ」です。原点には、創業者である叔父・河合宏光さんの姿があります。

1985(昭和60)年、セリア創業当時の100円ショップ業界では、多くの業者がスーパーの店頭を借りて商売をしていました。売上に応じて家賃を支払う仕組みでしたが、当時は売上を過少申告する業者も少なくなかったといいます。その中で宏光さんは売上を正確に報告し、適正な家賃を支払い続けました。

正確な報告を続ける誠実さと、お客様に選ばれる売場づくり。その両方が評価され、ある時、スーパー側から「あなたたちに任せるとお客様が増える」と声を掛けられます。東海地区では後発だった同社は、こうした信頼の積み重ねによって地域を代表する100円ショップへと成長していきました。

「売上をごまかさない。同業者の足を引っ張らない。『うちが価値のある商品を扱っているからだ』という、叔父の言葉が強く印象に残っています。そこにあるのは、他社を批判するのではなく、自分たちが価値ある商品で評価されればいいという考え方でした」

この姿勢は会社の名前にも受け継がれています。社名の「セリア」は、イタリア語で「まじめな(seria )」を意味する言葉に由来しています。

「どこまでいっても、長い目で見ればまじめにやっている方がお客様や世間から評価される。それが創業者の考え方でした」

創業者が大切にした「まじめさ」は、今もセリアの企業文化として受け継がれています。

100円という制約が価値を磨く

写真:株式会社セリア提供

創業以来、セリアは100円という価格にこだわり続けています。しかし、物価高によって、かつて100円で販売できた商品を同じ価格で提供することは簡単ではありません。それでもセリアは価格を変えるのではなく「100円で何ができるか」を追求してきました。 

「日本人は、一つのことを追求していくことが得意だと思うんです。私たちの価値は『100円の商品を提供し続ける』ことにあり、使命です」

100円という制約は、セリアにとって限界ではありません。その中で何ができるのかを考え抜き、必要とされる商品を磨き続けるための軸です。価格を上げるのではなく、価値を高める。その姿勢こそが、セリアらしさをつくっています。 

「お客様が価値をつけた商品でお店が構成されている」

写真:株式会社セリア提供

セリアでは約2万8000点の商品を取り扱っています。その全てが100円です。一般的な小売業では、企業が売りたい商品を並べたり、需要が高まれば価格を上げたりすることがあります。

一方で、セリアは異なる考え方を持っています。 

「私たちは、お客様が価値をつけた商品でお店を構成しています。100円の商品でも、お客様が『いつ・どのくらい欲しいか』は変化します。それを分析しながら商品の発注に結びつけています」

その裏側を支えているのが、独自のデータ経営システムです。セリアでは、毎月約1000点の商品が生まれ、消えていきます。最終的に選ぶのは企業ではなくお客様です。

「システムは100%私が作ったアルゴリズムで意思決定をされて、結果をもとに仮説検証をしています。お客様が評価してくれれば自然に販売するスペースは増えていきます。お客様が投票した結果でお店が変わっていくのです」

河合さんのこの考えがあるからこそ、セリアを訪れて買い物をする私たち消費者は、価格ではなく価値で選ぶことができるのです。

「人口減少は悪くない」。100円という制約を前向きに捉える理由

100円という制約はセリアにとって限界ではなく、価値を磨くための軸でした。河合さんは、制約が人や企業を強くするという考え方を、いま日本が抱えている人口減少社会にも重ねます。 

「人口減少は悪くないと思っているんです」

ルネサンス期のヨーロッパでは、人口減少によって一人ひとりの価値が高まり、新たな文化が花開きました。人が少なくなるからこそ、これまで人が担っていた仕事のシステム化や自動化が進みます。実際にセリアでもセルフレジなどの導入が進み、店舗運営のあり方は変化しています。 

「価値がないとそこでは生き残れないんです。だからこそ、価値をより出せるように切磋琢磨することが必要です」

人口が減ることで、一人ひとりの役割や企業の存在価値はこれまで以上に問われるようになります。だからこそ、より良い商品を生み出すこと、お客様に選ばれるよう価値を磨くことが重要になっていきます。

100円という制約の中で価値を追求してきたセリアにとって、人口減少もまた、新たな価値を生み出すための挑戦の一つなのです。

厳しい時代だからこそ「まじめ」を貫く

「いい時は『差別化しろ』と言われ、厳しい時は『他と違うことをするな』と言われます」

市場が成長している時には新しい発想が求められる。景気が厳しくなると、無理な挑戦よりも従来通りの方法が重視される。河合さんは、変化する経営環境の中で常にこの矛盾と向き合ってきました。その中でセリアが変えなかったものがあります。

創業者から受け継いだ「まじめさ」。そして河合さんが磨き続けてきた「確率思考」です。

100円という価格の制限。人口減少による人手不足。インフレ。

多くの企業がこれらを制約と捉えるなかで、セリアはいかに価値を成立させるかを考え続けてきました。最後に、河合さんはこれからの時代についてこう語ります。

「厳しい時代でもまじめにやれば賞賛される」

その言葉には、100円という制約を価値へと磨き続けてきたセリアの経営哲学が込められていました。

もっとも印象に残った言葉:
「どこまでいっても、長い目で見ればまじめにやっている方がお客様や世間から評価される。それが創業者の考え方でした」

聞き手:丸山夏名美 構成:天野崇子 書き手:足立尚典 天野崇子
写真:2026年6月2日 丸山夏名美撮影

企業情報

企業名:株式会社セリア
取材対象:代表取締役社長・河合映治さん
企業理念:「クリーン、感謝、共有」
社名の由来 :あらゆる面で「まじめ」を貫き通す。
創業年月日:1985年3月1日
所在地:岐阜県大垣市外渕2丁目38番地
HP:https://www.seria-group.com/corp/

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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