「原風景」はなぜ、わたしたちの心を打つのか。
苫小牧(とまこまい)にある樽前山(たるまえさん)は、見る場所によってその姿を変える魅力的な山だ。その中でも苫小牧の西の端、錦岡(にしきおか)の住民たちはその景色に人一倍強い想いを馳せる。
互いを見守り続けてきた樽前山と住民たち。そこには、少子高齢化や人口減少という社会問題と向き合う苫小牧市の、未来への可能性が詰まっている。
筆者は20代後半から札幌に住んでいるが、自身も妻も錦岡出身ということもあり、年に数回は必ず錦岡にある両家の実家に帰ってくる。当然、親族や友人と会う機会も多いのだが、帰省中に錦岡の人と話をしているとよく聞くフレーズがある。
「錦岡から見る樽前山が一番カッコいい」。
ちなみに自分の妻の両親は愛知から錦岡に移住した際、樽前山の景観を理由に錦岡に家を建てたそうだ。これは、錦岡では珍しくない話だ。定期的に登山をしている知人も少なくない。そんな話を何度も聞くせいか、気がつけば筆者自身も帰省中は外に出るたび樽前山を見る。
運転中も、買い物が終わり駐車場に出た時も、「ここからはどんな樽前山が見えるかな」と確認してしまう。なぜなんだろう。理由は今も分からないが、樽前山を見るたび故郷への想いは強くなり、18歳で苫小牧を飛び出してから25年ぶりにこの街へ帰ってくることを決めた。住む場所はもちろん、「カッコいい樽前山」が見える錦岡だ。
原風景として心に残る立派な山があることはまちの強みだ。筆者のように、その景色を目にすることでUターン移住を決める人間はこれからもいるだろう。
そして景観のよい標高1,041mの山は、間違いなく「有形財産」なのである。
観光客という交流人口にも繋がるし、山登りによる運動は健康増進に寄与し、医療費や介護費の抑制に繋がる。加えて、山の上から見る景色は心に響くのだ。
企業誘致も公共施設建設のような財政負担も無く「そこに樽前山がある」だけで、たくさんの恩恵がある。
Uターン移住を決めた自分は、この素晴らしい財産をまちづくりに活かしたい。
見る場所や季節によって顔を変える景観と、たくさんの住民の「ココロとカラダの健康」を支えてくれる樽前山の魅力を伝え続けようと思う。
(嶋中 康晴さんの投稿)