
四日市市のソウルフードと言えば、金魚印の冷麦やそうめんもその一つ。冷たい麺類がおいしい季節を迎えたこともあり、手延べ麺をつくる現場を見学させていただきました。おいしい冷麦・そうめんをつくる秘密はどんなところにあるのでしょうか。
目次
生地づくりを始めるのは午前2時
見学したのは冷麦生産の現場です。「最初から最後まで見たいんですけど……」とお願いしたところ、伊藤製麺所の伊藤寿人(いとう・ひさと)さん曰く「生地をつくるの、朝2時からなんですけど、来られます?」。え?いや、それは……。ムリです!スミマセン!甘く考えていました……ということで、麺を延ばすところから見学させていただくことに。

午前2時から始まるのは、小麦粉、塩水で麺の生地をつくる作業です。「こねるのは機械なんです。でも、人間が材料を入れないとあかんので」と伊藤さん。先代の一彦さんは「朝早く起きないとダメやから、毎日20時に寝ます。土曜・日曜はつくらないので、金曜日の夜はほんとにうれしい。夜更かしができるでしょ。子どもみたいにうれしいんですよ」と笑います。
もちろん、機械任せではありません。原料である小麦粉の具合、その日の気温、湿度などに合わせて塩水の濃度も変えています。こね始めてからも何度も硬さを確認し、小麦粉を加えて調整します。しなやかな生地ができたら、いったん太い帯状に成型、それをさらに重ね合わせます。その後、太い麺状にし、乾燥を防ぐために油を塗ります。
生地づくりでのポイントは、どの作業でも機械をゆっくりと動かしていること。そうすることで生地を傷めずに形成でき、少しでも良い状態で次の作業に進めるそうです。これが麺のコシ、ツヤにつながります。
それにしても午前2時から始めるとは! しかも、そこでの作業が麺の味やコシを決める繊細な作業であるため、気を抜くことはできません。手延べ麺づくりを代々受け継いだみなさんの苦労がしのばれます。
取材当日、私が伺ったのは午前10時。できあがった生地は少しずつ延ばされて、すでに麺らしい状態になっていました。麺の両側(上下)には木の棒が入っていて、それをひっかけて並べられます。


箸を入れて「八の字」に延ばす
今度は麺を八の字に延ばす作業が始まります。作業をする部屋は、学校の教室ぐらいの大きさです。人の手で一つずつ機械にかけると、麺の間に2本の棒(箸)が入っていき、麺がくっつかないよう八の字に広げ、同時に延ばしていきます。この作業を「箸入れ」と言います。
出てきたものは、はたごと呼ばれる木枠に人の手でかけられていきます。5、6本をまとめて持ち、はたごの、眼よりも高い位置にある穴に1本ずつ棒をさしこむのはかなりの体力仕事です。目視で1本ずつを確認して、くっついたりからんだりした麺は丁寧に直します。この時、麺の下側はぶら下がった状態です。


人の目で見て、手で触れて、さらに延ばしていく
麺は、少しずつ乾燥していきます。適度に乾燥したら、さらに上下に延ばします。はたごの下側の穴へ1本ずつ棒をさして下側に延ばしていきます。上に延ばすときには、はたごについた輪を回し、ばねの原理を使って木枠そのものを高くします。



この作業の難しさは、麺が適度に乾燥したかどうかを見極めること。乾燥が不足、あるいは乾燥しすぎると、麺は切れてしまいます。そのため、上下に延ばす前に、麺を手でさらさらとなで、感触を何度も確かめます。「ここ、どうかな?」「こっちは?」とみんなが確認しながら大切に麺に触れ、部屋をぐるぐると歩き回る様子からは、よい麺をつくりたいと願う気持ちが伝わってきます。
不思議なもので、同じはたごに並んでいても、同じように乾燥するとは限りません。延ばす麺ともう少し様子を見る麵とを丁寧に、本当に丁寧に見分けます。乾燥の遅いはたごがあると、天井に設置された扇風機の下にはたごそのものを移動させたり、はたごの並べ方を変えたり、臨機応変に対応します。
「昔は外に干していましたからね。お天気が悪くなると、急いで中へ入れていました」。これだけの麵を屋内に運び込むのは大変です。「そうなんですよ。今は部屋の中で乾燥させてるから、それだけでも楽にはなってるんですよ」とのことでした。
麺がくっつかないように一つずつ作業
延ばした麺は、隣り同士でくっついてしまわないように箸を使ってさばいていきます。慣れた手つきでさばいていく、その手際の良さはさすが。この後、さらに乾燥させ、寸法通りに切断・結束・包装して私たちの見慣れた金魚印の冷麦ができあがります。

もともと農家の副業であった乾麺づくり。しかし、これだけの作業を農作業と並行して行うのは困難です。特に春・夏に行われる冷麦づくりは、コメ作りとそのままかぶってしまうため、伊藤さんのお宅では麺づくりを本業とすることになったそうです。
「これだけ手間をかけてつくるのは、なんでも便利になった今、本当に時代に逆行していると思います」と伊藤さん。「でも、僕らが手間をかけた分、絶対旨(うま)いから!」と自信を持っておススメしていただきました。
これまで、東海地方近辺でしか手に入らず、四日市市民が独占してきた金魚印の手延べ麺。オンラインでの発注もできるようになり、全国どこにいても味わうことができます。ぜひ、召し上がってみてください。ほんとにおいしいですから!
※最後に掲載の写真のみ伊藤製麺所様よりご提供いただきました。そのほかの写真は、2026年6月4日筆者が撮影しました。
※今回の取材では、伊藤製麺所様、伊藤寿人様にご協力をいただきました。心より御礼申し上げます。
情報
ひやむぎ・そうめん・うどん・きしめん
伊藤製麺所
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