
突然のケガは、身体だけでなく心にも大きなダメージを与える。
2026年8月初旬、普段何気なく歩いている場所で足を引っかけ、左足の甲を負傷した。診断されたのは「リスフラン関節脱臼骨折」。骨折自体が人生で初めてだった私にとって、聞いたこともない名前のケガだった。
痛みはもちろんあった。しかし振り返ってみると、私を最も不安にさせていたのは、「これからどうなるのか分からないこと」だったように思う。
そんな時、偶然訪れた接骨院で示してもらったのが、治療の先にある“ロードマップ”だった。
目次
ケガをした瞬間、頭の中では「今後」が始まっていた
ケガをしたのは土曜日の夜だった。まさか骨折しているとは思わなかったものの、強い痛みと「これはちょっとまずいかもしれない」という恐怖があった。
そして私の頭の中では、まだ診断すら受けていないのに、ものすごい勢いで今後のシミュレーションが始まった。
2歳と5歳の子どもがいる。保育園への送迎はどうするのか。家事はどうするのか。普段の日常生活をどう組み替えるのか。
「この場合はプランA。それが無理ならB、C……」
足を冷やしながら、頭の中ではプランDくらいまで考えていた。今思えば少し笑ってしまうが、それくらい「この先どうなるのか」が分からないことに焦っていたのだと思う。
初めて聞いた「リスフラン関節脱臼骨折」
土曜日の夜ということもあり、診てもらえる場所は限られていた。そんな中で見つけたのが、現在も治療をお願いしている接骨院だった。
診断は「リスフラン関節脱臼骨折」。
初めて聞く名前に、その日は「足の甲の骨折」ということしか頭に入ってこなかった。場合によっては手術が必要になる可能性もあったが、今回は手術をせず、ギプスで固定しながら治療を進めることになった。
初めての骨折。初めての接骨院。そして、これから自分の足がどうなっていくのかも分からない。不安になる条件は十分すぎるほどそろっていた。
「また歩ける」を具体的に教えてくれた
そんな私に、院長は症状や症例、今後考えられる治療方針について、その時点で分かる範囲を丁寧に説明してくれた。さらに印象に残っているのが、過去の患者の回復例だった。
私より重い状態で来院した人でも、治療を経て歩けるようになり、その後はジャンプまでできるようになったという。
「治らない」と言われたわけではない。
それでも、ケガをした直後は「本当に元通りになるのだろうか」「今までのように歩けなくなったら」と、悪い未来まで想像してしまう。
そんな時に、回復した人の具体的な姿を示してもらえたことで、「ここから良くなっていくんだ」と思うことができた。あの時、かなりホッとしたことを覚えている。
ケガの後に感じる「不安」は珍しいことではない
今回、自分が経験して初めて気づいたが、ケガの後に不安を抱えることは決して珍しいことではない。
整形外傷患者101人を対象にした米国フロリダ大学の研究では、臨床的に有意な不安症状がみられた人は、入院中で55.7%、受傷2週間後で55.9%だった。6週間後でも31.2%、12週間後でも35.3%に不安症状がみられたという。
また、この研究では、不安がある患者ほど身体機能の改善が小さく、不安や抑うつがある患者では、受傷後12週間時点の心理社会的な評価も低い傾向がみられた。
つまり、「ちゃんと歩けるようになるのか」「元の生活に戻れるのか」と不安になることも、ケガからの回復を考えるうえで無視できない要素なのだ。
院長が大切にしていた「最初に説明すること」
今回負傷したリスフラン関節周辺は、足のアーチにも関係する重要な部分だ。
だからこそ、目の前の痛みがなくなることだけではなく、その先の歩行まで考えながら治療していく必要がある。
院長からも「ここはしっかり治療しましょう」と説明を受けた。その言葉や治療への姿勢を見て、初診の段階で「この先生に任せよう」と思えた。そして治療を続ける中で、院長にケガをした患者のメンタルについて聞いてみた。
返ってきた言葉が印象に残っている。
「誰でもケガをしたらショックを受ける。その不安を少しでも取り除けるように、できるだけ詳しく治療方針を最初から話すようにしている」
なるほど、と思った。私が安心できた理由は、まさにそこにあった。
「分かること」が不安を軽くする
医療においても、患者が治療について理解することの重要性は指摘されている。
米国の医療研究・品質庁(AHRQ)は、患者が医療者と情報を共有し、自分の価値観や希望を踏まえて治療の意思決定に参加する「共同意思決定」を推奨している。
同庁によれば、患者が自分の健康について主体的に意思決定できるようになることは、治療への満足度だけでなく、不安の軽減や治療への順守など、より良い結果につながる可能性がある。
またAHRQは、医療者が分かりやすく情報を伝えることについても、患者が自身の治療に関わりやすくなり、治療計画を実行する可能性を高めるとしている。
私が接骨院で感じた安心感も、特別なことではなかったのかもしれない。
「何が起きているのか」「これから何をするのか」「どこまで回復を目指すのか」
それを理解できるだけでも、見えなかった未来に少しずつ輪郭が生まれてくる。
ケガの不安を軽くした「ロードマップ」
起きてしまったケガを、なかったことにはできない。
骨折した直後の足を見て、「早く元に戻したい」と焦っても、身体が回復するには時間が必要だ。
だからこそ、「今はここにいる」「次はここを目指す」「その後はここまで回復していく」
という道筋が見えることには、大きな意味があるのだと思う。
治療方針を患者に説明すること自体は、医療や施術に携わる立場として当然のことなのかもしれない。しかし院長の話を聞いて、その説明にはもう一つの目的があることに気づいた。
初診の段階から、その時点で分かることを出し惜しみせず伝え、現在の状態だけでなく、これからどのような経過をたどり、どこを目指して治療していくのかまで示す。それは単に治療内容を伝えるためではなく、先の見えない患者の不安を少しでも取り除くためでもあった。
そして、その言葉を自分の足の状態を見てもらいながら、目の前で直接伝えてもらえたことも大きかったのだと思う。インターネットで症例や治療法を調べることはできても、「今のあなたはこういう状態で、ここからこう治していく」と自分自身に向けて説明してもらうこととは、安心感がまったく違った。
私が初診の日に感じた安心感は、まさにそこから生まれていたのだと思う。
治療方針の説明であると同時に、「ここから良くなっていく」という希望まで含んだ“回復へのロードマップ”を示してもらっていた。
身体を治すだけが「治療」ではないのかもしれない
今回のケガで改めて感じたのは、身体の状態だけでなく、「この先どうなるのだろう」という不安まで相談できることが、治療を続けていくうえで大きな支えになるということだ。
痛みがあれば不安になる。先が見えなければ、さらに怖くなる。研究でも、筋骨格系や整形外科領域の外傷後に生じる心理的な苦痛は、回復の遅れや慢性疼痛、生活機能の低下などと関連することが指摘されている。
もちろん、すべての接骨院や治療機関で、同じような説明や対応が受けられるとは限らない。だからこそ、ケガをした時には、今の状態だけでなく、「これからどのような治療をするのか」「どこまでの回復を目指すのか」「日常生活に戻るまでにどのような経過が考えられるのか」といったことまで相談できるかどうかも、治療先を選ぶ一つの視点になるのではないだろうか。
私自身、偶然に受け入れてくれた接骨院で、治療の見通しを具体的に示してもらったことで、「この先どうなるのか分からない」という不安が少しずつ和らいでいった。
ケガをした直後は、身体の痛みだけでなく、これまで通りの生活に戻れるのかという不安も大きい。そんな時に、自分の状態をきちんと見てもらい、これからの道筋を相談できる場所に出会えれば、前を向いて治療に取り組むことができるのかもしれない。
※写真:2026年8月14日 筆頭者撮影
参考文献
※米国フロリダ大学の研究。整形外傷後にみられる不安症状と、受傷後の身体機能・心理状態との関連について
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30130305/
※米国保健福祉省の医療研究・品質庁(AHRQ)による資料。治療説明や共同意思決定と、不安軽減や治療への参加との関係について
URL:https://www.ahrq.gov/cahps/quality-improvement/improvement-guide/6-strategies-for-improving/communication/strategy6i-shared-decisionmaking.html





