
今日で8月が終わるタイミングで、7月の記事を振り返ります。7月も各地からたくさんの記事が届きました。これだけ多くの地域の出来事や、人の思いが記事として集まっていることをうれしく思います。一つひとつの記事をじっくり読んでいると、どうしてもレビューまでに時間がかかってしまいます。8月分からはもう少し早く、9月半ばごろにはお届けできればと思っています。
実は今、10月の出版に向けて書籍の準備を進めています。その中でローカリティ!について一章を書き、なぜこのメディアをつくったのかを改めて言葉にしています。今回の記事を読みながら「ローカリティ!らしい記事とは何だろう」と改めて考えました。
パリの街角で見つけた不思議な風景、地域に残る伝説や祈り、食や産業を未来につなごうとする人たち、地域の課題に向き合う人たち。テーマは違っても、今回何度も意識したのが「描写の先にあるストーリー」です。
現場に行き、自分の目で見て、驚いたことや感動したことを書く。そのうえで、なぜそれがそこにあるのか、誰がどんな思いで続けているのかまで踏み込めると、記事はさらに深くなります。
目次
地域の課題に向き合う。人の思いを「ストーリー」にする
福祉、子育て、地域コミュニティ、スポーツ。それぞれの現場には、活動そのものだけでなく、「なぜ始めたのか」「どんな未来をつくりたいのか」という物語があります。人を取材する記事では、そこまで聞けるかどうかで記事の深さが大きく変わります。
ワイナリーを訪れた様子が目に浮かび、リードもよくできていました。その一方でもう一歩知りたかったのが、「なぜこの記事を書きたいと思ったのか」という書き手自身の動機と、そこで働く人たちのストーリーです。見たもの、聞いたものを描写するだけで終わらず、その活動がなぜ始まり、どんな思いで続けられているのかまで掘り下げるとよりよい記事になります。
健常者でありながら、あえて車いすバスケットボールに取り組み、その魅力を子どもたちにも広げているという点。そこに意外性があり、十分なニュース性があります。これは報道特集になり得ます。地域で起きている出来事から社会に伝える価値を見つけ出した、ジャーナリズムとしても力のある一本でした。
描写から入り、町会がなぜマルシェを始めたのかというストーリーへ進み、最後は未来の話で終わる。
本当に基本の「型」通りの素晴らしい記事です。「型」があることは、決して記事をつまらなくすることではありません。目の前の光景を描き、その背景を聞き、最後にこれからを描く。その基本を押さえるだけで、地域の出来事は一本の物語になるとてもいい例になる記事です。
畜産の仕事、ニュージーランドでの経験、新聞記者時代、母との関係、そして「コトノハメディア」の立ち上げまで。かなり多くの出来事が登場する長い記事ですが、それぞれが現在の活動へとつながり、一つのストーリーとして読める記事になっています。
森田さんの記事は扱うテーマも材料も多くなりがちなので、今後は「今回、読者に一番伝えたいことは何か」をさらに絞れると、もっと読みやすくなると思います。
「なぜ始めたのか」「どんな未来を目指しているのか」まできちんと書かれており、記事の構造はしっかりしています。一方、内容が充実しているからこそ、もう少し小見出しを細かく入れるとさらに読みやすくなりそうです。
理想は、小見出しだけを追っても記事全体の流れが分かること。長い記事ほど、内容だけでなく「読者がどこを読んでいるのか分かる道標」をつくることが重要です。
地域おこし協力隊として青森県平川市へ移った仲村さんの記事。この解像度でローカルの情報を書けるのは素晴らしい。地域の中に入った人だからこそ見えるものが、そのまま記事の強みになっています。
取材をすると、魅力的な話をたくさん聞きます。だからこそ「あれも書きたい、これも書きたい」となりがちです。情報が盛りだくさんになりそうなところを、一つの軸に沿ってうまくまとめられています。
病気やリハビリという題材には痛みがあります。しかし、この記事から伝わってくるのは、単純な悲しさではありません。苦みや痛みを抱えながらも、その先に新しい挑戦がある。「リハビリだけじゃ終わらない」という本人たちの力が伝わってくるところに、この物語の魅力があります。ローカリティ!らしい記事です。
渡邉さんのこれまでの記事と比べて文章力が大きく向上していることに驚いています。常に書き続け、自分自身でも努力することで、記事は確実に変わっていく。その成長が見える一本でした。
歴史や祈りを、今につながる「断片」として残す
大きな歴史だけがニュースではありません。地域に残る小さな伝承、建物、道具、人々の言葉。そうした断片を現場で拾い集め、記録していくことにも価値があります。
歴史や建築の情報を説明するだけではなく、実際にその場所を歩き、自分の目で見た世界を届けています。写真と文章を通して、読者も一緒に旅をしているように感じられるのが、阿部さんの記事の魅力です。細かな説明を加えすぎるより、その土地で何を見て、何を感じたのか。その世界そのものを届けることに価値があります。
「大江山の鬼伝説」を知っている方も多いと思います。しかし、実際に大江山がどんな場所なのかを知っている人はそこまでいないと思います。現地を歩いて考えるという着眼点には魅力があります。
一方、伝説や自分の考察を扱う際には、噂話だけで終わらせず、ファクトを置くことが重要です。また、出来事を時系列に並べるだけではなく、「この記事では何を伝えるのか」という見出しを立てることで、記事全体の軸も見えやすくなります。
地域の景観を見て終わるのではなく、「なぜこの景観が残ったのか」という背景へ視点を広げた記事です。記事を書くときには、見出しと本文の内容が連動しているかどうかが重要です。見出しで示した問いやテーマを、最後まで一本の軸として通す。そうすることで、地域の風景を紹介する記事から、その土地の未来まで考える記事へと変わっていきます。
「気になる」と思ったことを自分で追いかけ、現場へ行き、その先にあるストーリーまでたどっています。自分の驚き・発見・感動を出発点にして、「これは何だろう」と一段深く調べる。ハツレポの基本がよく表れた記事でした。
難しいテーマだからこそ、実際にその文化を受け継いでいる人の言葉が記事に大きな価値を与えています。インターネット上の情報を集めるだけでは残せない、その人が語った言葉があります。こうした地域の「断片」を少しずつ記録していくこと。それ自体が、ブログやSNSとは違うメディアの役割なのだと思います。
久田さんが体験を楽しんでいることが伝わってくる記事です。茶杓を削り、名前を付け、自分だけの一本をつくる。その工程を追っていくことで、読者も一緒に体験しているような気持ちになります。「自分がやってみた」という現場性が、そのまま記事の魅力になっています。
地域には、まだまだ知られていない祈りや風習があります。「こんな話が残っていたのか」と思わせる題材を見つけてきたこと自体が、この記事の面白さです。全国ニュースにはならなくても、誰かが拾わなければ消えてしまう地域の話を記録する。それもローカリティ!が担える役割です。
文章の組み立て、現場の描写ともに安定感のある一本です。
100年前の音を実際に現場で聞き、その体験を今の読者へ届ける。歴史資料を紹介するだけではなく、「今ここで起きていること」として伝えられているところがポイントです。これもジャーナリズムなのです。
「灰塚」というほとんど知られていない存在に目を向けた記事です。こうした地域固有の歴史は、知っている人にとっては当たり前でも、地域の外から見ると大きな驚きになります。「自分たちの地域では普通」と思っているものの中にこそ、記事になる題材が眠っていることを感じさせます。
街を歩くから見える。「自分にしか見えない世界」
今月特に印象的だったのが、書き手自身の視点がそのまま記事になっている作品です。ジャーナリズムは社会の問題を追及するだけではありません。現場へ行き、「私は世界をこう見た」とファクトとともに伝えることも、一つのジャーナリズムです。
阿部さんの記事には独自の世界があります。特に大きいのが写真の力です。インタビューがなくても、実際にそこへ行って撮影した写真そのものが現場性を担保し、時には文章以上に雄弁に語ります。
「写真が雄弁に語る」。フォトジャーナリズムにもつながる記事です。
まず写真を見ただけで「これは何だ?」と思わせる力があります。
一見すると巨大なアート作品。しかし、その正体は地下施設などの換気を担う都市インフラ。街を歩き、自分が「なんだこれは」と思ったものを調べて記事にする。その視点と写真が合わさり、都市の見え方そのものを変えてくれます。ベストジャーナリズム賞に値する記事です。
この記事を読むと書き手が見ている世界を一緒に歩いているような感覚になります。「現場に行くと、世界はこう見える」という視点そのものが記事になっています。
これこそ「ジャーナルとしてのジャーナリズム」と感じられます。ファクトを土台に、自分が見た世界を記録する。それもローカリティ!が大切にしたい記事の形です。
普段なら通り過ぎてしまう小さな違和感から、「橋の完成とは何を指すのか」という記事が生まれました。開通してしまえば、もう気付かないかもしれない。その瞬間だからこそ書ける地域の記録です。こんなことを長い記事にするメディアは、なかなかない!!そんな題材を載せられることもローカリティ!の面白さです。
自然や季節を「きれいだった」で終わらせない
花や山、季節の風景は、それだけでも十分魅力的です。一方、編集部オリジナルへ一段深めるのであれば、季節性や希少性、社会との接点など「なぜ今伝えるのか」を加える必要があります。
山を歩くという体験そのものに加え、かつての遊び場だった山を、今の自分がどう見るのかという個人的な時間の重なりがあります。こうした記事でも重要なのは、見出しと内容の軸を合わせることです。
あった出来事を順番に並べるのではなく、「自分はこの山で何を発見したのか」を一つ決めて書くことで、記事はさらに強くなります。
偶然見つけた珍しい植物に目を留め、そこから記事にした一本です。
珍しいものを見つけたことそのものだけでなく、「この場所に、こんなものが咲いていた」という風景を残すことに意味があります。身近な自然も、誰かが気付いて記録しなければ残りません。
「きれいな花だな」と心が動いたところから始まるのは、ハツレポとしてとても良い視点です。そこから編集部オリジナルへ進むなら、その先にもう一つ深掘りが必要になります。
なぜこの祭りが続いているのかというストーリーを聞くのか。「36回目」「300万株」という話題性を掘るのか。驚き・発見・感動にニュース性を重ねることで、記事の公共性が高まります。次の記事も期待しています。
雪が残る御釜の風景には十分な現場性があります。
一方、人のストーリーを追う記事ではないからこそ、「5月なのに雪がある」という季節性をさらに強く打ち出してもよかったかもしれません。ストーリーがない題材では、ニュース性の4要素のどこに結びつけるのかを考える。それが記事を一段深くする方法になります。
これはもう、題材と見出しが強い一本です。「水木しげるの妖怪世界」「妖怪百鬼夜行がやってきた」というだけで、何が起きているのか、なぜ見たいのかが伝わってきます。
すべての記事を複雑にする必要はありません。ニュースになる題材そのものを見つけたときには、その強さを素直に生かすことも大切です。
食や産業の向こう側にある「なぜ」を聞く
食の記事は、食べておいしかっただけならブログにもできます。そこに「なぜここで作られているのか」「誰が守っているのか」「どんな未来につなげたいのか」が入ることで、地域を伝える記事になります。
ひやしあめのおいしさも、208年続く建物も魅力的です。だからこそ、「何をこの記事の軸にするのか」をもう少し絞りたいところです。
ひやしあめを主役にするのか。登録有形文化財で商いを続けることを主役にするのか。さらに、その店をなぜ続けているのか、どんな未来を目指しているのか、大変だったことやうれしかったことは何か。そこまで聞けば、商品の紹介を超えて「208年続く営み」の物語になります。
「うなぎにバター」という組み合わせだけでも、思わず気になります。食の記事には、「食べてみたい」と思わせる力も大切です。
そのうえで、お店の人との「縁」まで含めて書かれていることで、単なるグルメ紹介ではない地域の記事になっています。
「なぜササニシキを復活させたいのか」。
この記事を読んで最も知りたくなったのが、その一点でした。生産量が減った理由は分かる。復活に取り組んでいることも分かる。しかし、なぜ今、もう一度ササニシキなのか。せっかく本人たちに取材できるのであれば、その「なぜ」を聞くことで、プロジェクトの意味がさらに伝わります。
後編にも、もう一つ惜しいポイントがありました。
それは「人の言葉」です。名前を出して取材しているからこそ、「なぜ復活させたいのか」「何を目指しているのか」を本人の言葉で伝えたい。
カギカッコはできるだけ多い方がいいのです。取材記事では、書き手の説明だけではなく、本人の言葉が入ることで一気に体温が生まれます。
単に「こんなお店があります」という紹介ではなく、なぜこの場所が今の姿になったのかというストーリーがきちんとあります。地域の商業施設も、歴史をたどれば時代の変化とともに役割を変えています。
その変化を一本のストーリーとして見せることができれば、施設紹介ではなく「街の変化を記録する記事」になります。
約45年ぶりの酒蔵復活という時点で、地域性もニュース性も非常に強い題材です。
さらに、受刑者らが制作した木桶や「44°N」という名称など、ここでしか書けない要素がいくつもあります。地域固有の背景と、新しく生まれようとしている産業。その両方を追っていける題材として、今後の記事にも期待したいところです。
写真もきれいで、必要な情報もしっかりまとまっています。
だからこそ、見えなかった世界が欲しい。施設の情報をすべて網羅しようとすると、どうしてもパンフレットに近づきます。しかし、今は詳しい営業時間や施設情報はリンク先でも確認できます。
記事ですべてを説明しなくてもいい。その場所で自分が一番心を動かされたものは何だったのか。なぜそこに立ち止まったのか。その一点を思い切って深く書く方が、書き手自身の顔が見える記事になります。
自分にしか見えない世界を伝える
7月の記事を通して改めて感じたのは、「ストーリー」「見出し」、そして「自分にしか見えない世界」の大切さです。
ハツレポの出発点は、驚き・発見・感動です。そこから一歩踏み込み、「なぜそうなのか」を聞く。人に話を聞いたなら、その人自身の言葉を残す。人のストーリーがない題材なら、季節性や話題性、地域性など、今伝える意味を考える。
そして、情報を全部書く必要はありません。「自分はここに驚いた」「この言葉を残したい」という一点をつかみ、そこにファクトやニュース性を重ねていく。それが、その人にしか書けない記事につながります。
ローカリティ!では、公開記事がついに3000本を超えました。その一つひとつが、誰かが地域で見つけた驚きや発見、感動の記録です。
これからも、自分の心が動いた瞬間を「誰かに伝えたいこと」へ変えながら、その人にしか見えなかった地域の姿を残していきたいと思います。





