琵琶湖から「いにしえの味」を次の世代へ〜先人の知恵を受け継ぎ、変革を生む〜【滋賀県彦根市】

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〜この記事は、株式会社JTBふるさと開発事業部と合同会社イーストタイムズが共同で取り組んでいる「ローカル魅力発掘発信プロジェクト」から生まれたハツレポです〜

 

ほんのり甘酸っぱい香り。柔らかくも締まった身は、噛むほどに旨みが増す。濃厚な味の卵と、後から追いかけてくる上品な鮒の風味。こんな丁寧な鮒寿しは、筆者は人生で初めていただきました。

人と湖が培う淡海の食文化を大切にする滋賀県彦根市、「木村水産株式会社」屋号「あゆの店きむら」代表取締役社長の4代目木村昌弘(きむら・まさひろ)さんは、「いにしえの味」を守り、琵琶湖の豊かな水資源に真心を込めた商品作りを行っています。

 

■代々伝わる味が、お店の味に

1941年(昭和16年)祖父であり、初代社長の木村庄一(しょういち)さんが琵琶湖畔において鮎養殖を全国に先駆けました。その後2代目の父、隆太郎(りゅうたろう)さんと、3代目の兄、泰造(たいぞう)さんが事業を継承。昭和50年代に、おいしい鮎の佃煮を売るお店の、家庭で作る鮒寿しが話題になり「鮒寿しは買えないのか?」というお客さんの声。昌弘さんが子供の頃から慣れ親しんできた味が、お店に並び始めます。

 

■素材との対話が生む、今年の味

「毎年同じように漬けても、仕上がりはいつも違う」という昌弘さん。樽を開ける時、昌弘さんの胸は高鳴ります。そして漬かり具合と漂う香りに、今年の味を感じます。

水産加工業者にとって、仕込みはその店の味を決める重要な作業。魚の入念なウロコ取りや漬け込む際の微妙な手加減は、35年培った技と勘の賜物です。看板商品でもある鮒寿しは、鮒と飯を7〜8層に積み重ね、60kgもの重石を乗せて、蔵の中でゆっくり季節を過ごします。

■変わり続けても「原点は大事」

「余計なことはせずに最小限で昔から慣れたものを次の時代に継承するという使命を感じている」と昌弘さん。

家庭の味をもっとたくさんの人に楽しんでもらうために、2016年に導入した最新のレトルト殺菌装置とカップシール包装機により、小あゆ煮をはじめとする佃煮商品は、常温での長期保存が可能となりました。

技術革新を伴い事業の成長を遂げてきた木村水産では、コイ科ホンモロコの佃煮や体長2cmほどのスジエビと大豆を一緒に煮た「えびまめ」など、手作りならではの商品も揃い、まごころが食べる人へと伝わります。

■近つ淡海(チカツアウミ)への想いを全国へ

近江を代表する食文化財、「いにしえの味」を守り続けている木村水産。しかし、鮒寿しの原料であるニゴロブナを始め、水産物全体の漁獲高は減少しつづける今日です。
水資源を守るアプローチとして「琵琶湖資源再生サイクル」に取り組み、人工河川への親鮎の放流など、未来に向けた環境保全も積極的に行います。水資源と湖の環境を大切にし、湖国滋賀県の食文化の魅力を全国のみなさんへお届けしていきます。

田畑詞子

田畑詞子

秋田県秋田市

第1期ハツレポーター

1978年秋田県生まれ。清泉女子大学文学部英語英文学科卒。東京で就職後、いったん帰秋。2017年、横浜在住時にライター養成講座に通い、その後地元秋田でWeb記事の取材・執筆活動に携わるようになる。
日々の暮らしをブログに綴ったり、親しい仲間や縁遠くなった友人へ手書きのZINEを書いて送ったりと、書くことが好き。エッセイや小説へも関心がある。