140組の自作本に詰まった熱い想い! 自主出版物「ZINE」の東海最大級即売会「イマZINE」 【愛知県名古屋市】

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近年静かなブームとなっている、個人による自主出版物「ZINE(ジン)」。全国各地での展示即売会も盛況で、新たなカルチャーとして裾野が広がっています。デジタル全盛時代にあえて手作りの紙の本を作るその動機は何なのか。2026年8月11日に名古屋で開催された、約140組出店の東海最大級のZINEイベント「イマZINE」に探りに行ってきました。

「円頓寺 本のさんぽみち」から生まれた「イマZINE」

名古屋駅近くの「ウインクあいち」で初開催された「イマZINE」。そのルーツは名古屋駅と名古屋城の間にあるレトロな商店街「円頓寺(えんどうじ)商店街」で毎年秋に開催される、フリーマーケット形式の古本市「円頓寺 本のさんぽみち」にあります。2025年10月の「本のさんぽみち」の一企画として開催されたZINE展示即売イベント「ZINEさんぽ」が、「イマZINE」として今回独立開催した形になります。

お話をうかがった「本のさんぽみち」実行委員長の上原敏さんによると、「ZINEフェス」のような東京の全国巡回大型イベントが名古屋で開催されることはあっても、東海発の大きなイベントはこれまでなかったそうです。約140組が出店した「イマZINE」は東海地方としては最大級で、今回の評判が良ければ第2回、第3回と開催していきたいと言います。

「ZINE」ってなに?

「ZINE」とは「magazine」「fanzine」を語源とする、個人や小規模グループが自分の好きなテーマや形式で自由に作った「手作り小冊子」の総称です。「リトルプレス」「ミニコミ」とも呼ばれ、出版社を通さず、自分で印刷して作ります。

ZINEに似た存在として「同人誌」があります。どちらも出版社を通さず自主的に制作する出版物で、両者に明確な線引きはありません。あえて言うなら同人誌は主にマンガやアニメなどの二次創作や特定ジャンルの創作活動に根ざし、コミックマーケットのような特定の同人コミュニティで流通する傾向があります。

それに対してZINEはジャンルの枠がなく、個人的な表現を主体とします。作り方もデザインも自由で、コピーしたものをホチキスでとじただけのものから、印刷会社に発注した立派なもの、それ自体がアート作品のようなものまでさまざまです。

英語圏のZINEの歴史

ZINEの起源は19世紀後半から20世紀初頭のアメリカです。経済的・政治的に疎外された人々が、自らの主張を発信するために自主的に発行した出版物が最初期のZINEとされます。

戦前にはSFファンが自主的に作った出版物(ファンジン)が多数生まれ、これが現在のようなZINEの源流になりました。1970年代にはパンクロックカルチャーが音楽を超えたライフスタイルとなり、世界各地でファンによるDIYのパンクジンが盛んに作られました。1990年代になるとパンクカルチャーがフェミニズム運動とつながり、ZINEはこれを支える重要な役割を果たしたのです。

1980年代から90年代にはコピー機やパソコンの普及で個人でもZINEの制作が容易になり、インターネット普及直前がZINEの黄金期でした。

インターネットが普及すると、ZINEで行われていたような表現活動はネットに移行し、ZINEは一時下火になりました。しかし、SNSが一般化した2010年代になると紙媒体としてのZINEは再評価され、世界各地でイベントも開催されて再び活発化しています。

日本のZINEカルチャー

日本でも明治時代から文学同人誌の文化があり、なかでも志賀直哉が参加した同人誌「白樺」は戦前の同人誌でも最大の影響力があったとされます。

戦後も1970年代前後の社会運動と連動した「ミニコミ」、コミックマーケットを中心とした二次創作系同人誌など、日本独自の同人誌文化が発展しました。

日本で本格的に海外のZINEカルチャーが紹介され始めたのは2000年代の終わり頃で、当初はファッションやアートの文脈でZINEが取り上げられていたそうです。「本のさんぽみち」実行委員長の上原さんによると、スケートボードやスノーボードなどのエクストリームスポーツ界でもZINEを発行する文化があったそうで、ストリートファッションとの関係からも注目されていました。

上原さんによると、文学作品の展示即売会である「文学フリマ」の登場によって、自主出版物界隈(かいわい)はコミケ系同人誌と分かれたそうです。2010年代以降、オリジナルの自主出版物を「ZINE」と呼ぶようになっていきました。

浸透し始めた頃はやや先鋭的な作り手が担っていたZINEカルチャーも、2020年のコロナ禍以降は層が広がり、大衆化していったそうです。「アートっぽいもの」から敷居が下がり、誰でも作れるような空気になっていきました。

SNSを使いこなすデジタルネイティブにとって、情報をオブジェとして手に取ることができるZINEは新鮮に映りました。商業誌にはないようなニッチなジャンルや内容で、雑貨感覚でも楽しめるZINEは、Instagramに飽き足らない若い層に急速に受け入れられたのです。ZINEイベントで作り手と直接交流できることも、リアルな体験として魅力的でした。

経済産業省の記事によると、印刷会社が小ロットの印刷も受けるようになり、気軽に本格的な「本」としてZINEを作ることが可能になったのもブームの一因だそうです。ZINEとして発表されたものが、ドラマや舞台の原作となったりするケースも増えているとか。

これまでもZINEは独立系書店では取り扱われていましたが、このブームを商機ととらえ、全国チェーンの書店でも扱うところが出てきているそうです。地元の作り手の作品を取りそろえ、お店の差別化や魅力アップにも一役買っているとのことです。

出店者さんにお話を聞いてみました!

「イマZINE」は「ウインクあいち(愛知県産業労働センター)」の二つのフロアを使って開催されました。個性豊かなブースが所狭しと並び、たくさんのお客さんでにぎわい、活気にあふれていました。

出店者はやはり20代〜30代の方が多い印象ですが、60代以上と思われる方もいて、予想以上に幅広い年齢層でした。男女比は女性の方がやや多かったと思います。

並んでいる本のジャンルは、エッセイ、小説、旅行記、日記、詩集、絵本、イラスト集、写真集など多岐にわたります。雑貨を一緒に販売しているブースもたくさん見かけました。

普通の書店には並ばないような、変わったテーマや個人的な事象を扱っている本が多い気がしました。商業ベースではないからこそできる、「とにかくこれを伝えたい!」という熱気が伝わってきます。お客さんも作者に積極的に話を聞いていたのが印象的でした。

会場で数名の出店者さんにお話をうかがいました。

M. 似顔絵とアート

M. 似顔絵とアート」のmoemiさんは、岐阜県を拠点に活動するイラストレーター・デザイナーさんです。柔らかなタッチの水彩色鉛筆による似顔絵をその場で描いてくださいます。かわいい動物のシールもありました。通常は似顔絵でマルシェに出店されているそうです。ZINEイベントは神戸で一度出店経験があるそうで、今回が2回目だそうです。

moemiさんのZINEは台湾のイベントに似顔絵で出店された時の旅行記。海外出店に興味のある方には貴重な資料なのでは? プロならではの魅力的なイラストと、美しい色彩の台湾の風景に思わず見入ってしまいます。

moemiさんに「SNSやブログで情報を発信できる時代に、なぜZINEを作るのか」とお聞きすると、「Instagramはいいところしか切り取らないから」というお答えが。ZINEでは映えない部分も出せて、綺麗なだけではない、リアルな体験を表現できるのがいいのだと教えてくれました。イベントではお客さんに失敗談も話せて、出店者同士で仲良くなれるのも楽しいポイントだそうです。

moemiさん公式サイト https://moemi-art.jp/

アズと、加依

加依さんによる「ことば録」

「アズと、加依」はアズさんと加依(かえ)さんのお二人によるブースです。ZINEイベントにはアズさんは3回、加依さんは2回の出店経験があるそうです。

加依さんの「ことば録」はある言葉についてご自身の解釈をつづったものです。それぞれの言葉をタイトルにした詩集でもあります。加依さんのInstagramプロフィールにある「聲を紡ぐ(こえをつむぐ)」という言葉の通り、心の声を繊細に紡いだ、美しい日本語を堪能できるZINEです。

加依さんInstagram https://www.instagram.com/kae.quest

アズさん「ゆれるわたしと、うつろう世界」

アズさんの「ゆれるわたしと、うつろう世界」は、アズさんがnoteに書いてきた文章を一冊にまとめたZINEです。双極性障害と診断され、病気と向き合いながら日々を過ごす中で感じたことや社会への率直な不満などを、エッセイや日記、詩とさまざまな形でつづっています。 

「うつのときの方がクリエイティブになれる」とのことで、収録された詩の多くは、うつ状態のときに書かれたものだそうです。
暗闇の中で、自分自身を救うために続けてきた「書く」という行為。苦しさや孤独の中から生まれた言葉が、静かに、時に鋭く胸に残ります。

アズさんはZINE作りを始めてから1年ほどになるそうですが、この1年でZINE界隈(かいわい)はかなり盛り上がっているようです。地元の岐阜でのZINE作家の交流会にも参加したことがあるとか。大都市だけではなく、各地にZINEの輪が確実に広がっているのを感じますね!

アズさんnote https://note.com/azuuu00 

なべわた

なべわたさんのZINE「私の家では餅が残らない」は、愛知での日常生活を綴ったエッセイ集。これが初のZINEで、イベントに出るのは2回目だそうです。

なべわたさんはお友達がZINEを作っていたことに憧れて作り始めたと教えてくれました。作る前に一度ZINEイベントに行ってみると、あまりに楽しくてあれもこれもと大散財! こんなに楽しいのなら自分も作ってみよう、と一念発起したのだとか。ブログも書いているそうですが、これまで読者とはそれほど交流はなかったそうです。しかしZINEイベントではお客さんと直接話すことができて、ブログではできなかった体験に心が躍ると話してくれました。

なべわたさんとお話していて、心の底から楽しんでいらっしゃるのがとても伝わってきました。お客さんとの交流は、何物にも代えがたいようです。反応をその場でもらえるのは嬉しいですよね。

なべわたさんブログ https://nabewata-uminapo.hatenablog.com/

玻璃のほんやさん

玻璃(はり)さんのZINEは、2025年12月に行ったフィンランド一人旅の旅行記。東京からのご参加です。

このフィンランド旅行についてのZINEが数冊あり、旅の準備編、旅のしおり、そして長編エッセイなど、ワンテーマで分かりやすく、立ち止まるお客さんも多かったです。「フィンランド」という国自体の人気も感じられました。

玻璃さんは今年初めてZINEを制作した後、精力的にZINEイベントに出店されています。

玻璃さん。顔出しOKいただきました。このPOPはかなりインパクトがありました

ムーミンが好きな玻璃さんは、死ぬまでにいつかフィンランドに行ってみたいと思っていたそうです。そんな玻璃さんにとって、海外旅行は「金持ちの娯楽」で手の届かないものでした。しかし、これまで必死に生きてきた自分への最初で最後のご褒美として、清水の舞台から飛び降りる勢いで思い切って行ってきた、と話してくれました。

英語が全く話せない玻璃さんの初の海外旅行は、慣れない長時間フライトや地獄の入国審査、「テロリストになりかけた(?!)」経験などハプニング満載! コミカルなドキュメンタリーエッセイとなっています。

玻璃さんはこの旅行のVlogをYouTubeに上げていらっしゃいます。「YouTubeやnoteなどに旅の記録を残し、コメント欄でも交流できると思うのですが、あえて紙の出版物にするのはなぜですか?」とお聞きすると、「この旅を何らかの(物体としての)形にしておきたかった」と答えてくれました。ネットにデータを上げるだけでは満たされない、確かな手触りがほしい、というのは、音楽業界でのフィジカルメディアの復権と重なるところがあります。大枚をはたいた海外旅行を、いろいろな形で残しておきたいという気持ちが痛いほど伝わってきました。

旅の魅力にすっかりはまった玻璃さん。もし次に一人旅に行くなら、スイスかウズベキスタンに行ってみたいそうです。

玻璃さんnote https://note.com/daitai_de_ii

終わりに

今回取材してみて、「とにかくこれを伝えたい!」という作者の熱い気持ちがガツンと胸に届きました。

自己表現はネット上でもできますが、確かな物体であるZINEを通して、対面で交流したいというのが皆さんに共通した思いだと感じました。活動を始めて1年以内という方も多く、ZINEイベントに行って「自分もやってみたい!」と触発されるようです。私も前から手製本の写真集を作ってみたかったので、いつか挑戦したいです。

出店者の方々にお話を聞いてみて、認識を新たにすることも多々ありました。アズさんのような、非常にプライベートなこともZINEで表現してもいいんだな、と新鮮な発見がありました。

また玻璃さんが海外旅行を「(手の届かない)金持ちの娯楽」と表現していたことがちょっとショックでした。今回お話を聞いたのは30代前半くらいの女性の方が多かったのですが、一回り以上上の私の世代では、そこそこ働いていれば若い頃に何度かは海外旅行に行けたと思います。

私がアメリカに行っていた2000年代前半の為替相場は、1ドル110円台でした。2026年8月現在まで約50円も円安に。また日本人の賃金はこの間ほとんど増えていません。一方アメリカ人の賃金はこの20年近くで約2倍になり、アメリカの物価は約65%上昇しています。つまり、日本人がアメリカ旅行をすると20年前より遥かに高くかかり、アメリカ人はずっと安く日本旅行ができるようになりました。日本以外の先進国は大体この傾向にあります。

家庭の経済状況による子どもの「体験格差」が近年問題となっていますが、日本と海外の若者の間にも体験格差が生じているのではと心配になります。若い頃の海外での経験は視野を広げ、その後の人生に本当に影響を与えます。

話がやや逸れましたが、ダイレクトな思いをぶつけられるZINEの作者と直接話せたからこそ気付いた点です。

「若者の本離れ」なんてどこの話?と思うような、DIY精神にあふれたZINEの世界をのぞいてみませんか?

※写真は全て2026年8月11日に筆者撮影

情報

「イマZINE」公式サイト:https://ima-zine.localinfo.jp/
「円頓寺 本のさんぽみち」公式サイト:https://hon3pomichi.localinfo.jp/

◇今年の「円頓寺 本のさんぽみち」の開催日◇
2026年10月17日(土)・18日(日)・24日(土)・25日(日)

※一般の本好きの参加者が本を持ち寄って販売する古本市です。今年はZINE枠はないそうです。

うえだ あさこ

うえだ あさこ

東京で生まれ育ち、名古屋に住んで20年以上になるフリーライターです。電動自転車に乗り、趣味の写真撮影を活かして取材先を回っています。音楽とアートと建築とお笑いが好きです。

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