記録的な大雪シーズンがようやく峠を越えた先日、秋田県北秋田市にある白津山正法院(しろつさんしょうぼういん)にお邪魔して「鎌沢の大仏(かまのさわのだいぶつ)」を拝覧してきました。
本堂の龍の絵と併せて、都から遠く離れた場所に雅な文化が存在することが、地元の人々からは神秘不可思議とされてきたそうです。閑散とした集落の中にひっそりと佇む大仏様は、実際に対面してみると少し異質な存在でもありました。
「鎌沢の大仏」の正式な名称は「丈六延命地蔵菩薩(じょうろくえんめいじぞうぼさつ)」で、高さは4.82メートルあります。ご尊顔は1745年に作られたもので、京都からはるばる秋田まで運ばれてきました。疫病が蔓延した時に人々がお籠りをして祈祷すると、大仏様が玉のような汗を流し、その場にいた人は誰一人罹患しなかったことから「汗かき地蔵」とも呼ばれています。また戦時中、出征前に大仏様にお参りした人たちが無事に戦地から帰還できたことから、「弾丸よけ地蔵」とも呼ばれています。
このようなご利益があるとされる鎌沢の大仏様は、古くから悪疫退散、長寿福禄、五穀豊穣、家内繁栄、安産育児の守護として信仰の対象とされてきました。大仏様を下から見上げると、大仏様の目線が少し下を向いているので、ちょうど目が合うようになっています。その威厳と慈悲に満ちたお顔と対峙すると、自分の心が見透かされているようで少し恐ろしくもあり、許されているようでもありました。
また、本堂の奥にある位牌堂には、江岸という高名な画家の龍の天井画が飾られています。龍と位牌に囲まれると、あの世とこの世の間にいるような不思議な感覚になりました。おびただしい数の生死の重なりに圧倒されながら、この土地の歴史の一端を感じ取ることができたように思います。
正法院の山門はいつでも開いていて、大仏様ともお会いすることができるそうです。心を平らかにしたい時や文化財に興味がある方は、是非訪れてみて下さい。