
子どもたちの笑い声のそばで、地域の人たちが言葉を交わし、同じ食卓を囲む。そんなあたりまえで、あたたかな風景を名取市みどり台に根づかせようと始まったのが、こども食堂運営団体「にっこにこの会」が運営する「丘のうえこども地域食堂」です。
代表の阿部崇子さん(以下、崇子さん)は、ケアマネジャーや介護福祉士などの資格を持ち、長年介護の現場に携わってきました。その中で、高齢者の孤食が心身に及ぼす影響を目の当たりにし、その課題は子どもたちにも通じるのではないかと感じたといいます。
「悪くなってから支える」のではなく、「悪くならないように防ぐ場」を地域につくりたい。そんな思いから始まった活動の歩みと、この場所に込めた願いを、崇子さんと、副理事の阿部拓磨さん(以下、拓磨さん)に伺いました。
前編に続き後編では、地域に根づき始めた食堂が、どのような支えによって運営され、そしてどんな未来を描いているのか、その核心に迫ります。
目次
支えてくれる人が少しずつ増えていった。「私たち」ではなく「みんな」のこども地域食堂へ

利用者が少しずつ増え、地域に根づき始めた「丘のうえこども地域食堂」。その一方で、活動を続けるには、人も食材も資金も必要になります。
――利用者が増えると、食材や運営面で苦労することも多いのではないですか。
崇子さん:ありがたいことに、本当に多くの方に支えていただいています。例えば、お米は、名取市内のこども地域食堂へ毎年寄付してくださっている匿名の農家さんからいただいています。
また、毎月来てくださる一人暮らしの高齢者の方が、ご自身で育てたお米を持ってきてくださることもあります。そのほかにも、宮城県のフードバンクや名取市社会福祉協議会、赤い羽根共同募金などから物資や支援をいただいています。
SNSをご覧になった方からの寄付もあるんです。
――地域の方だけでなく、学生さんも活動に参加されていると伺いました 。どのように関わっているのでしょうか。
拓磨さん:大学生のみなさんに、ボランティアとして参加していただいています。献立の栄養計算や栄養表の作成、子どもたちと一緒に遊ぶなど、それぞれの学びを生かして活動を支えてくださっています。
この活動が、就職活動で自信を持って話せる経験になるとうれしいですね。
――地域のみなさんに支えられるようになって、活動にはどんな変化がありましたか。

崇子さん:活動を始めた頃は、子どもから高齢者までみんなが食べやすいように、豚汁とおにぎりだけでスタートしました。でも、調理師さんが加わってくださってからは、毎回違うメニューを提供できるようになりました。
メイン料理は調理担当が考え、デザートは学生さんが担当しています。大人は300円で提供していますが、「300円とは思えないね」と言っていただけることも多いです。
「私たちが運営している」というより、「みんなでこの食堂をつくっている」という感覚に近いかもしれません。地域のみなさんが、それぞれできることを持ち寄ってくださるからこそ、この活動を続けてこられたんだと思っています 。
「食べ物には、思い出がくっついてくる」未来へつなぎたい地域の食卓
地域の人たちに支えられながら活動を続ける中で、崇子さんには忘れられない出来事があります。その出来事は、このこども地域食堂が目指す姿をあらためて実感するきっかけにもなりました。
――活動を続ける中で、「この場所をつくってよかった」と感じた出来事はありますか。

崇子さん:一人暮らしの高齢者の方が、子どもたちと遊ぶために作った牛乳パックのおもちゃを持ってきてくださったんです。いざ、食堂で広げたとき、最初は子どもたちも少し恥ずかしそうにしていました。
でも、一人が近づくと、次々に子どもたちが集まってきて、気がつけばその方を囲んで夢中で遊んでいました。私たちが、「交流してください」とお願いしたわけではありません。自然にこの光景ができたとき、「私が思い描いていた景色だ」と感じました。
――それが、崇子さんの目指していたこども地域食堂だったんですね。
崇子さん:介護の仕事をしていた頃、忘れられない出来事があるんです。一人暮らしの男性の高齢者のお宅へ訪問していたとき、「今日は何が食べたいですか」と聞いても、「何でもいい」としか返ってこない方でした。
どうしたら、その人の本当の気持ちを引き出せるんだろうと考えていたとき、お彼岸の時期だったので、「子どもの頃、お彼岸には何を食べていましたか」と聞いてみたんです。
すると、それまでほとんど話さなかった方が、「あの時は団子を作ってくれた」「こんな料理も食べた」と、次々に思い出を話し始めてくださったんです。
最後には、「今日はそれが食べたいな」と、ご自身から初めて食べたいものを話してくださいました。その時に思ったんです。食べ物には、思い出がくっついてくると。
今ここに来ている子どもたちにも、「みんなでご飯を食べたこと」や「一緒に遊んだこと」が、大人になって思い出として残ってくれたら、それだけで十分なんです。
――そんな思いを込めたこども地域食堂を、これからどんな場所にしていきたいですか。

崇子さん: 今ここに来ている子どもたちが、大人になって帰ってきてくれたらいいですね。子どもを連れて来てくれてもいいですし、今度は運営する側になってもいい。
私たちがずっと運営し続けることが大切なのではありません。子どもから高齢者まで、地域のみんなが自然と集まり、一緒に食卓を囲むという考え方や、このこども地域食堂という居場所が根づいていくことが何より大切なんです。10年、20年と続いて、あの頃ここに来ていた子どもが、「今度は自分が手伝います」と帰ってきてくれたら、それ以上に幸せなことはありません。
――最後に、読者へ伝えたいことはありますか。
崇子さん:地域には支援が必要でも、まだこの場所を知らない方がいると思っています。そういう方たちに情報が届くように、私たちも地域のみなさんと一緒に、この活動を少しずつ伝えていきたいですね。そして「ちょっと行ってみようかな」と思ったときに、誰でも気軽に来られる場所であり続けたいと思っています。
編集後記
子ども食堂というと、私はこれまで「子どもや保護者が食事をする場所」というイメージを持っていました。しかし、お話を伺う中で、食事を提供するだけでなく、地域の人が自然につながる「居場所」としての役割があることを知りました。
共働き世帯の増加や核家族化が進む今、孤食は特別な問題ではありません。だからこそ、「困ってから支える」のではなく、「普段から顔の見える関係をつくる」という考え方に、価値を感じました。
皆さんの住む地域にも、こうした子ども地域食堂や地域食堂があるかもしれません。この記事が、身近な地域のつながりに目を向けるきっかけになれば幸いです。
※写真はすべて阿部拓磨さんご提供
情報
丘のうえこども地域食堂
開催場所:ゆりが丘公民館
住所:名取市ゆりが丘2丁目1の1
開催時間:11:30~13:30(食事がなくなったら終了)
料金:未就学児 無料、小中学生 100円、高校生・大人 300円
主催者:にっこにこの会
Instagram:https://www.instagram.com/okanouekodomotiikishokudo/





