全国どの地域でも「さんまの丸干し」はあるのだろうか?
わが町では、以前、大寒の頃になると、ほとんどの家庭でさんまを干していた。ところが、気がつけば今はそんな風景が見当たらない。そこで、美味しい冬の味覚「さんまの丸干し」を探し街を歩いてみた。
和歌山県那智勝浦町。生鮮マグロが有名だが、実は昔、さんまもよく獲れていた。
勝浦で獲れるさんまは北の方から南下し、余分な脂が落ち細身の姿をしている。
一年で一番寒いと言われる大寒の頃、家々の軒先にはさんまが干されていた。細身のさんまのため「ひらき」でなく「丸干し」だ。
カラカラに干した状態を「かんぴんたん」と言うそうだ。
私は「かんぴんたん」のさんまの丸干しの尻尾が大好きだ。固くて、適度な塩味、まるでスルメのよう。
私の記憶では、
さんまが魚市場に水揚げされるとサイレンがなった。そのサイレンを聞くと、女たちが大きなゴミ袋や発泡スチロールの容器を持って市場へいそいそと向かった。
「今日は5円だった」「昨日より安い」「10円だけど買う?」などと近所で会話が弾んでいた。母が「何匹買う?、30匹?、50匹?」と遠くの知り合いなどに電話をかけていたのを覚えている。
買うさんまの数は、50匹、100匹。今では考えられない数だ。
「毎日毎日さんまを食べると、さんまになっていく!」と笑って話したことがある。
そんな勝浦の「さんまの丸干し」を食べたくて歩いてみた。
海岸近くの魚屋さん2軒の店先で見つけた。
「もうこの辺りでは獲れんのよ」と店主が話してくれた。
ふっくらとしたさんま、1匹190円。今では高級魚となってしまった。
今夜は柔らかい丸干しを、よく味わって食べようと思う。