創業134年を誇る老舗煎餅店の四代目は五つ星お米マイスター!

【写真①】五つ星マイスターの浅田さん


千葉県浦安市を流れる境川。その川沿いを散歩していた私の目に留まったのは、「浅田煎餅本舗」という年季の入った赤い看板。そしてその軒下に並べられた真っ白なお煎餅の生地でした。

今時天日干しなんて珍しいなあ、と思っていると、出てこられたのは前掛け姿もダンディな男性。この方こそ、創業134年を数える浅田煎餅本舗の四代目店主、浅田勝朗(あさだ かつお)さんです。

干している生地を片付けに出てこられた浅田さんに天日干しする理由をお伺いしたところ、「美味しさがまず違う、そして紫外線には殺菌効果などもあり、手間はかかるけれどお日様に干しています」とのこと。

お煎餅やお米のことを熱く語ってくださる姿に感動し、後日改めてお話を伺うことにしました。



本当にお客様が必要としているものを作っていきたい


浅田煎餅本舗は、1888年(明治21年)創業。東京都葛飾区立石にあった煎餅店から分家して浦安に店を構えてから130年を超え、地元で愛されるお煎餅屋さんです。

四代目となる勝朗さんは昨年還暦を迎えられましたが、今なお、美味しいお煎餅作りに余念がありません。
 

【写真②】歴史を感じる店のたたずまい


「暦が一回りして還暦になりました。今回のコロナ禍で、正直商いは大変ですが、私にとっては飛躍するタイミングだったのかなと思っています。今、後継者の問題や新型コロナの影響で街の小さなメーカーはどんどん減っていますが、うちは卸をやっておらず、地元密着で小売りでやっているので、何とかやっていけています」


浅田煎餅の商品は、季節ごとに入れ替わるものもありますが、40種類くらいはあるとのことで、ある程度の量がまとまれば、「辛くしてくれ」とか「堅くしてほしい」とか、オーダーメイドも可能。大手ができない「隙間」を埋めることができるのが小さなメーカーの強味、と浅田さんは語ります。

また、カロリーを気にする人が増えている傾向に合わせ、揚げ物に関してはなるべく油を吸わせないような揚げ方をしているそうです。

「一方で、油をちゃんと吸って揚がったほうがいいという方もいるので、お客様の好みに合わせて、本当に必要とされるものを作っていきたいです」
 

【写真③】こだわりのお煎餅が並ぶ



付加価値や差別化というと、昔の作り方に戻る
 

【写真④】生地を天日干しする様子


冒頭ご紹介した通り、浅田煎餅では生地を天日干ししています。
それだけでなく、お米は石臼タイプの製粉機で挽いているそうです。

米は一度洗ってから製粉機にかけますが、普通の製粉機は完全に乾かさないと目詰まりするので、しっかり乾かす必要があります。また中でローラーが回っていて熱を持つので、残った水分も奪われてしまいます。

その点、石臼タイプだと多少ウエットでも挽けてしまうそうです。

「水分ロスだけでなく、うまみ成分も飛ばしたくないんです。今は石ではなくセラミックの臼ですが、粉をなめると甘いんです。そういう昔の作り方に、実は戻っています」

「大手のメーカーさんは味付けとか、すごく研究されています。あの価格でこれだけのお煎餅を作れるのかと感心します。ただ一方で、うちは食と健康がコンセプトなので、できる限りお客様の不安要因を排除した、そういう商品を作っていきたいです」。

お客様の健康を第一に考える、という浅田さん。
しょうゆ、のり、塩などの原材料にもこだわっています。
塩は精製塩ではなく、自然塩や岩塩などを商品によって使い分けているそうです。

「いいお塩を使えばミネラル分も取れるじゃないですか。塩は摂りすぎは良くないけど、摂らないのも良くない。摂るならミネラル分を含んだいいお塩をと思うんです」

そんな浅田さん、もちろんお米には並々ならぬこだわりがあります。

どこから水を引いているのかまで確認したい


「お煎餅に使う米はふつうは加工用です。味噌や醤油、お酒の麹、米粉なんかに使うものです。米菓にも組合があって、そこから買うんですが、原料がわかりにくい。古米なのか新米なのか、細かい産地もわからないし、生産者も限定できない。なので、うちはお煎餅の加工に使うことを理解してくれる農家さんから、普通の主食用のお米を買って使っています」

「しかも、農薬、化学肥料が嫌いなので、自分でトラックを運転して、そういうものを極力抑えてくれる農家さんを見つけて、お米も見るし水田も見る。田んぼのロケーションも見たいんですよ。どこから水を引いているのかまで確認したい」


美味しい米どころを回って自分の足でお米を探す浅田さんですが、一番大事なのは「作っている方の人柄」だと語ります。

「実際に現地に行って、いろんなお話をさせていただいてコミュニケーションを取って、何年も経って人柄が見えてくる。どんな仕事でもそうですけど、几帳面な方、普通な方、雑な方、それがお米の顔になって出てきますから。ただお米とお金の行ったり来たりじゃなく、行くと農家の方も喜んでくれるし、私も勉強になる。お互い情報交換もできますし。そういう、顔を合わせることの大事さを身に染みて感じているので、大変ですけど、毎年行っちゃいますね」

「あくまでも自分は農家さんと消費者の橋渡し」という浅田さん。

農家さんが一生懸命作ったお米を、どれだけポテンシャルを落とさずお客様に提供するか。
そう考えることが、美味しいお煎餅作りにつながっているのではないでしょうか。
 

【写真⑤】人気の「甘から」



マイスターはもっとレベルアップが必要


浅田煎餅は、実はお煎餅だけでなく、お米の販売もされています。

「米の販売は40年くらい前に父が許可を取って、それからやっています。私が26歳の時に父が亡くなって、それから母と姉と店をやっていましたが、米を売りながら米について何も知らないな、お煎餅の原料も米なのに、そこを知らないとお煎餅も作れないなと思いました」
 

 

【写真⑥】浅田さん厳選のお米が並ぶ


浅田さんは勉強して、日本米穀商連合会(日米連)が2002年に始めたマイスター制度の1回目の試験で三つ星を取得。
3年後に五つ星の受験資格ができて、その1回目の試験で合格されたそうです。

現在五つ星マイスターの資格所得者は全国に449名(令和3年11月1日現在)しかおらず、貴重な米のプロフェッショナルと言えます。

お米マイスターは3年ごとに最新情報の取得と技術更新のため、更新講習を受講しなくてはならず、日々勉強を続けられているそうです。

それでも浅田さんは、「マイスター制度はもっとレベルアップが必要」と語ります。

「米は精米の仕方によって、どれだけ剥くかで味が違うから、機械の構造がわからないと表皮剥きもできない。あと保管方法。私はお米は生鮮食品だと思っているので、常温保存は嫌なんです。低温倉庫を持っていて、入りきらない分は政府指定の倉庫を借りて保管しています。でも、それをしている専門店は多くない。もっとレベルアップさせないと米の専門店はダメになる。」

「以前『マイスター出前教室』というので、2度ほど小学校で授業をさせていただいたんです。一升瓶でお米をついたり、家庭用精米機で精米して、今はこれだけ楽にできるんだよと対比を見せたり。でもそこで終わってしまって、その先に何がつながっていくのか、そこをもっと考えなくちゃいけなかったと思っています」


五つ星マイスターとして、日々精進を続ける浅田さんですが、一番の気がかりは農家さんのこと。


日本で自給率が100%に近いのはお米だけ。そこだけは死守したい


浅田さんは農業経営が難しいこの現在の状況の中で米屋として何ができるかを常に考えています。

「農家は後継者問題が大きく、第一線で働いている稲作農家はほとんど高齢なんです。そこへこのコロナ禍で経営が厳しくなり、離農する方が増えています。それで本当に日本の食文化の代表である米が守れるのか」

「田んぼは昔から治水効果があり、ダムの役割もしている。田んぼがあるから地滑りがなかったとか山が崩れなかったとか、また田んぼや畑があることで里山が管理され、いのししやサルといった害獣を遠ざけていた。里山や山の手入れがだめになり、動物が町中まで入ってくる。それって人災だなと思います。ここでもう一度私たち日本人が自然に対してもっと感謝して、優しい気持ちで接しないと、そのしっぺ返しが来ると思うんです」

食卓にごはんがある。

ごはんがあり、おかずがあって、普通にご飯を食べられる。

そのことに対する感謝を、確かに私たちは忘れがちです。


「今、中国の軍事費や尖閣の問題とか、いろいろありますよね。韓国や北朝鮮など近隣諸国との関係は良好とは言えない。すぐそばにそういう緊張状態がある中で、日本の食糧自給率は先進国の中で一番低いんです。欧米諸国は予算をとって農業を守る仕組みがありますが、日本はそこをちょっとおろそかにしているのではないかと思います。歴史を紐解くと、農業を粗末にする国は滅びていく。日本で自給率がほぼ100%というのは、お米だけなんです。そこだけは死守したい」

今、新型コロナの影響で外食産業が思うように動かず、食品ロスで廃棄される分も含めた消費が以前にも増して減っています。

消費が減ればお米の生産量を減らさないと余りが出て安くなってしまう。そこを農業経営できるような価格で流通させるにはどうしたらいいかと考えたときに、浅田さんは「特別栽培や有機栽培への移行」が選択肢の一つではと話します。

「水田は使い続けることが大事で、一度転作で水田以外の畑にすると、水田に戻すのは大変なんです。ましてや耕作放棄すると、10年かけてもいい田んぼには戻せない。それは避けたいので、特別栽培や有機栽培にしてはどうか。手間は同じでも収量は少なくなる。ただ、安全も品質も担保されるので単価は上げられる。自然環境にもいいので、循環・連鎖の中にうまく入っていける気がするんです。それにAIとか、科学の進歩もあって、これから先人間の労力も減らせる可能性もある。そうなっていけばいいなあと思います」

自然に優しく、自然に感謝しながら、農業を守り、人々の生活を健やかに、そんな未来を模索していきたいという浅田さんの熱い思いが伝わってきます。


私の商いは農家さんありき。お米をどうやってみなさんに美味しく食べていただくか、それが健康にどうつながっていくか、そこを目指して頑張っていきたい


日本の米は世界一美味しい、と浅田さんは断言します。

浅田さんには外国の友人も多く、米を食べてもらうと、お土産は米がいいと言われるほど評価が高いと言います。

「日本は品種改良技術も世界一、だからこそ、農業がもっと盛り上がっていかないといけないし、そんなお米を今の若い人がもう少し理解してくれたらうれしいです」と語ります。

ただ、「そのためには米屋も変わっていかなければならない」、と。

「今、コロナ禍で外食が減るなど、ライフスタイルも変わってきていますよね。飲食店さんの経営の仕方も変わって、米屋も変わらないといけない。うちも一般家庭用の販売に力を入れることにしたんです」

「米は精米の仕方ひとつで味が変わります。だから米のプロとして、精米技術も勉強するべきだし、お客さんから聞かれたことには100%答えられないとプロじゃない。米屋の敵は実は米屋じゃなくて、スーパーみたいに他のものと一緒に売っているところ、あとは生協さんなんかも頑張っている。そういうところが脅威なので、米屋がプロとして知識なり技術なりを身に着ければ、じゃあ米屋に行こうかと思っていただけるかなと思います」

一般家庭用の販売に力を入れると、出てくるのが配達の問題です。

「米は重いので、特に高齢の方なんかは配達してあげたい。うちはご注文頂いてから精米して届けるのですが、ご高齢だと1日1合しか炊かないという方もいるので、そうすると1か月で2~3キロですよね。そういう単位での配達も考えなければいけない時代なんだなあと思います」

そんな浅田さんの現在の一押しはうすく表皮だけを剥いた玄米だそう。

「玄米は体にいいけど食べにくい。表皮剥きなら玄米の外側にあるぬかの部分も体内に取り込めます。腸内環境にはとても良いと、自分でも食べて実感しているんです。普通の玄米より柔らかくて甘くて食べやすい。保水能力も高いので、冷蔵庫に入れても固くならず、翌日でも美味しく食べられるので、断然おすすめです」
 

【写真⑦】精米機で玄米の表皮を剥く。技術が必要な作業です


実際に私も頂いてみましたが、確かに玄米特有のパラつきがなくしっとりしていて、においも少なく、甘くてびっくりしました。

以来、毎食とはいきませんが、なるべく白米を置き換えるようになりました。
おにぎりや、雑炊にしても美味しいです。

「米ぬかはぬかみその原料になったり、絞って米油にしたり、さらに搾りかすは肥料にしたりと、捨てられてはいません。循環型ではあるんですが、それよりもぬかがついたままのお米を食べる食文化が定着してくれればいいなあと思っています。国の減反政策は2018年度で廃止になりましたが、今も生産調整があって、農家さんは自由にお米を作れません。できれば3食のうちの1食をパンとか麺類からお米に変えていただいて、もう少しご飯を食べていただけるとうれしいです(笑)」

「パン屋さんやうどん屋さんに喧嘩売ってるわけじゃないですよ」と浅田さん。

とにかく、お米を愛し、お煎餅を愛している、その愛がお店いっぱいにあふれています。

浦安市の緊急災害時物資協力店にも登録されているという浅田煎餅本舗。

「お煎餅は保存食なんです。米も、精米機や炊飯器があるので、有事には協力できる。お客様の安心を第一に、いち米屋として何ができるかを考えています」


お米やお煎餅が美味しいのはもちろんですが、それだけではなく、こんなに町のこと、日本の農業の将来までも考えている頼もしいお店があることを知ることができて、私もとても幸せな気持ちになりました。

みなさんも、浦安へお越しの際はぜひこだわりのお煎餅を味わってみてください。

笠原 磨里子

千葉県浦安市/第3期ハツレポーター

東京都港区生まれ。世田谷区を経て千葉県浦安市在住。3人の男の子を育てながら、PTAや自治会、ボーイスカウトの指導者など、地域と繋がる活動をしてきました。
「食べること」「体を動かすこと」「歌うこと」「旅すること」が大好き♬
楽しく地元の魅力を発信していければと思っています!*