白神の里のかぁさんが“ちくちく”した土産物が人気、9月から講座開始で定着へ一歩前進【秋田県藤里町】

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世界遺産・白神山地のふもとの秋田県藤里町で、親しみを込めて「かぁさん」と呼ばれる女性グループのフェルト作品が、町の新たな土産物としてちょっとしたブームになっている。作品は、かぁさんたちが丹精込めて1針1針、地元産の羊毛を“ちくちく”して製作したもの。これまで町外の道の駅で販売するなどして販路を広げてきたが、作る楽しさを多くの人に知ってもらおうと、9月から町の活動拠点で作り方講座を始めた。グループ発足から1年。ふるさとの看板商品としての定着へと、着実に歩みを進めている。

閑古鳥の大通りに新たなにぎわい

青森県と秋田県を隔てる世界遺産・白神山地のふもとに位置する自然豊かな秋田県藤里町。平成の大合併では単独立町を貫いたが、人口減少が続き、人口はピーク時の3分の1(3112人)に減少、65歳以上の高齢化率は48.2%と約半数が高齢者だ(8月現在)。農業と林業以外に目立った産業はなく、町の大通りの店も数えるほどになった。

去年8月、その大通りを明るいニュースが駆け巡った。空き店舗を改装した「羊毛ハウスちくちく」のオープンだ。

(写真)もとは靴屋だったところを改装した。表に出す看板も羊毛フェルト製。

「みんなで集まって、わいわいおしゃべりするのが楽しいのよ。ほとんどが、朝に見た情報番組の続きだけど(笑)」

そう話すのは、「ちくちく」を運営する有志のグループ「白神の里手作り工房」で副会長を務める山田芳子さん(72)。親しみを込めて「かぁさん」と呼ばれる山田さんたち女性を中心とした13人、平均年齢62.7歳のメンバーが、週3回、ここに集まってはおしゃべりに花を咲かせている。話題は、男女の惚れたはれたから、秋田県出身者が初めて首相となったことまでと幅広い。山田さんは「ちくちく放談ね」と笑う。

原料は地元の羊毛

ただ、「ちくちく」の本来の目的は、放談ではなく、羊毛フェルトの作品づくりの場。かぁさんたちは、口を動かすのと同じくらい忙しく、専用の針をフェルトに“ちくちく”と繰り返し刺して形を整えていく。針を刺すスピードは1秒間に6回前後。見た目は地味だが骨の折れる作業で、仲間の中には、始めたばかりの頃、力みすぎて腱鞘炎になった人もいるという。

フェルトは、町営の牧場で飼育されている羊の毛が主な原料だ。毛刈りの後、処分してしまうものを譲り受け、毛が傷まないよう地元のぬるめの温泉水で丁寧に洗浄し、乾燥させてフェルトにする。今年のフェルトは羊20頭分で、10月から使い始める。去年の倍の量で、取り組みに一層の力を入れる表れだ。

(写真)7月に行われた羊の毛洗い。町内の温泉地の道路脇から湧き出る温泉水を使う。卒業制作にこの羊毛を使うという県内の大学生も参加した。

どんな依頼も即対応で販路拡大

これまでに、秋田犬の置物、羊やどんぐりのキーホルダーの他、新型コロナウイルスで注目を集めた妖怪「アマビエ」の作品などを手がけてきた。主に、活動拠点の「ちくちく」や町の観光物産施設「森のえき」、それに町外の道の駅で販売する。作った数は、町の人口と同じ「3000(個)くらいになるのではないか」(山田さん)という。

中でも秋田犬は、鼻や耳の凹凸を思い通りに作るのが難しく、オープン前の5か月間、トレーニングして手先を鍛えたが、販売の基準を満たす作り手は今も5人しかいない。徹底して技術を磨いてきただけに、山田さんは「どんな依頼があっても、即対応できる」と自信をのぞかせる。

その甲斐あって、「ちくちく」から生まれた作品は、メディア露出などを通して徐々に知れ渡り、JR東日本のイベントや町のマラソン大会で配られたり、今年度の町のふるさと納税の返礼品に加わったりと、すっかり町の看板商品となった。

(写真)苦労した秋田犬もこの通り。
(写真)犬の尻尾をつけ忘れ、笑うかぁさんたち。

9月から作り方講座始まる

山田さんたちは、作る楽しさを多くの人に知ってもらいたいと、9月から「ちくちく」で作り方講座を開くことに決めた。講座は月に1度で、作品づくりの技術を受講生に余すことなく伝授する。

初回となった28日の講座には、地元の60代の女性が参加。かぁさんたちの1人、細田邦子さん(71)から「力を入れすぎないように」などと手ほどきを受けながら羊のキーホルダーを完成させた。女性は「段々と慣れてきて、楽に作業できるようになった。針を刺していると、没頭できて気持ちがいい」と話した。

山田さんは「儲けようと思ってなくて、楽しいから続けているの。だから、その楽しさを知ってもらいたい。もちろん、おしゃべりしながらね」と話す。おしゃべり仲間も大募集中だ。

「作ることで、自分が潤う」

活動は2年目に入った。正直なところ、かぁさんたちの懐が潤うほどの収益は全くない。毎月の給料も「ほとんどが(お札が)ぴらぴらではなく、(小銭が)ちゃりーんだ」と山田さんは自嘲する。

だが、かぁさんたちのやりがいは、お金ではなく、ここで新たな仲間に出会ったり、無心で作業して気持ちを和らげたりすることにあるという。細田さんは「誰かに『作ってあげている』という気持ちではなくて、作品づくりを通して自分の心が潤う。自分の力を誰かに分けてあげている感じ。そうしたら心が潤ってくるの」と話す。

「ここは私たちの心休まる居場所。今日は『ちくちく』の日だと思うと、ワクワクするの。家では静かだけど、ここでは好き放題にしゃべるから。今日も休みなしで喋ったなぁ(笑)。家に帰ると口が疲れて仕方がない」(山田さん)。かぁさんたちは「ちくちく放談」に興じながら、今日も「1針入魂」で作品づくりに励んでいる。

店舗情報

「羊毛ハウスちくちく」
場所:秋田県山本郡藤里町藤琴字藤琴4
作業日:月、水、土曜日
午前10時〜午後3時
電話:090-4313-0194(山田)

お知らせ

「第2回ちくちく講座」
日時:10月26日(月)午後1時〜午後3時
料金:500円/人(材料費込)
内容:手織り体験(コースター作り)

森将太

森将太

初代編集長

秋田県藤里町

第1期ハツレポーター

ふるさと:
滋賀(出身地)、名古屋(大学時代)、和歌山(仕事の初任地)、福岡・京都・秋田(赴任先)

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