相馬を音楽のまちに! 立派なホールはなくても、手づくりで良い音楽を市民に届け続ける

歴史と伝統のまち・福島県相馬市で、音楽を通じた魅力あるまちづくりを行うグループがある。「そうま音楽夢工房」。市職員と市民の有志によって結成され、今年、創設18年目を迎えた。

相馬市には大都市にあるような数千人規模の立派な音楽ホールはないが、市内の既存施設を活用し、手づくり感のある演奏会を継続的に開催。市民が身近な場所で生の音楽に触れられる環境作りに力を入れることで、音楽の息づくまちを目指してきた。スタッフには楽器の経験者も多い。「市民に良質な音楽を届けるには手を抜いちゃいけない」と、まるで“工房の職人”のような強いこだわりを持つ。そのこだわりが活動の大きな支えだ。

立ち上げから18年。手を抜かずに積み重ねてきた努力が実り、音楽は市民の生活に欠かせないものとなりつつある。そうま音楽夢工房の創設初期から関わるメンバーは、「今後もより市民を巻き込みながら事業を継続し、相馬市の魅力をもっともっと高めていきたい」と意欲をみせる。

(写真)演奏会の運営などに携わる「そうま音楽夢工房」スタッフと出演者。左から4人目が、フルート奏者でもある筆者。=2020年12月撮影、総合福祉センターはまなす館

音楽の郷づくり事業の展開

千余年の歴史を持つ伝統的な祭り「相馬野馬追」で知られる相馬市。歴史と伝統を持ち合わせるこのまちで、近年、音楽文化が市民の間に浸透しつつある。

市では18年前から、魅力あるまちづくりの一環として「音楽の郷づくり事業」を展開している。市内の音楽ホールなどで継続的に演奏会を開催し、回数は昨年12月時点で80回を超えた。この事業の中心を担うのが、「そうま音楽夢工房」(以下、夢工房)だ。市が立ち上げた事業ではあるが、市民の有志もプロジェクトメンバーとして参加している点が特徴だ。

東北の音楽文化の中心は仙台市だ。事業の発足以前、相馬市で生の演奏を聴ける機会はほとんどないような状況だった。そうした中、「自分たちの住むまちで一流の生演奏が聴けたら、市の大きな魅力になるのではないか」という想いから、事業立ち上げの狼煙(のろし)が上がった。立ち上げ時のプロジェクトメンバーには楽器の経験者や音楽に熱い気持ちを持っている人を公募し、選出した。

「良いものを作るためには手を抜かない」 夢工房のこだわり

▶︎こだわりその1 手づくりでより良いものを

夢工房は、立派なホールで勝負するのではなく、市内の既存施設を活用。手作り感のある照明や音響を使うなどして工夫を凝らしている。

例えば音楽ホール以外に、学校の音楽室や市役所ロビー、議場、保健センター、寺院本堂での野外コンサートなど、市民にとってなじみのある場所でも演奏会を開催してきた。3年前の市役所ロビーでの「ランチタイムミニコンサート」には平日の昼間にも関わらず、約100名の観客が訪れた。

(写真)3年前に市役所ロビーで開催された木管五重奏によるコンサート。気軽に音楽に触れる機会を作ることは、音楽の息づくまちの基盤となっている=「そうま音楽夢工房」提供
▶︎こだわりその2 演奏者が演奏だけに集中できる万全のサポート体制

通常、1つの演奏会を開催するまでに、演奏者は当日演奏する以外にも様々な雑務や準備に追われる。例えば、主催者との打ち合わせや会場での音響確認、楽屋や着替え場所の確保などだ。

夢工房のスタッフは、高校で吹奏楽部に所属していた人など、楽器の経験者がそろっているため、このようなニーズがあることをイメージしやすく、演奏者に寄り添ったサポートができるのが一番の強みだ。演奏会当日まで徹底的に演奏者と打ち合わせを行い、会場でのリハーサルには必ず立ち会って音響・照明の調整など、きめ細かく対応している。

▶︎こだわりその3 出演者の公募制

関係者とのコネクションに頼らず、公平性や演奏のクオリティー重視の姿勢を維持するため、出演者は公募制にしている。「市民に一流の生演奏を」という信念を大切にしているからだ。事業のPRや幅広い演奏者を募集するために、スタッフが東京の音楽大学まで足を運ぶこともあったという。

(写真)両端に可動式の掲示板を設置し、奏者の音を効率よく客席に響かせる手づくりの反響板。後方のコンサートタイトル看板と譜面台カバーも夢工房が制作したもの。中央が筆者=2020年12月撮影

市民生活への音楽文化の浸透

相馬市と夢工房が地道な活動を続けてきたおかげで、市民の間で生演奏を聴くことが確実に定着しつつある。

成果の1つとして、平成25年に市は、国内有数のプロオーケストラである「仙台フィルハーモニー管弦楽団」をフルオーケストラで招聘することに成功した。

それまで仙台フィルのメンバーと交流はあったものの、弦楽アンサンブルなどの少人数の演奏会の実施にとどまっていた。しかし、夢工房における事業の取り組みや市民の盛り上がりが後押しとなり、フルメンバーでの招聘が実現。演奏会当日は、約900席の相馬市民会館のホールに立ち見が出るほどの大盛況だった。

今後の事業の展開について、夢工房で事務を担当する木村祐貴さん(32)は、「立ち上げから事業定着まで当時のスタッフたちが苦労し、ここまですばらしいものを作ってくれた。続けていくことで市民が音楽に触れる機会やさまざまな方が相馬市に来ることが増え、地域の活性化にもつながると思う。課題も多いが、今後もしっかりと事業継続したい」と意気込む。

夢工房の創設当時からの中心メンバーである植田富雄さん(65)は、「今後も事業を継続させていくために、より市民の力を巻き込みながら、相馬市という都市の魅力をもっともっと上げていきたい」と熱く語っている。

(写真)オンラインで取材に応じる木村さん=そうま音楽夢工房撮影
(写真)オンラインで取材に応じる植田さん=そうま音楽夢工房撮影
編集後記(演奏家の視点から)

実は筆者、本業がフルート奏者です。昨年12月の第67回演奏会に出演した際、そうま音楽夢工房のスタッフの手厚いサポート体制に助けられた経緯があります。

リハーサルの時のこと。換気のために開放していた会場の扉から音が抜けてしまい、音響のバランスが崩れてしまう問題に直面しました。すると、スタッフがすかさず可動式の掲示板を持ってきて、奏者の両側に設置。驚くほど音響効果が改善されました。夢工房の、臨機応変できめ細かい演奏者目線の対応のすごさを実感した出来事でした。

そうま音楽夢工房HP
https://www.city.soma.fukushima.jp/kosodate_kyoiku/somaongakuyumekobo/index.html

小池穂波

小池穂波

ハツレポーター

ふるさと:
新潟(出生地)、栃木・埼玉(育ったところ)

初めて取材をした時、長く住んでいる地元にもまだまだ知らない魅力やストーリーがたくさん眠っていることに気付かされ、日常の風景を見る目がガラッと変わりました。

全国各地に眠るたくさんの魅力を発掘し、みなさんと共有したいです!
本業はフルート奏者なので、全国津々浦々のまだ誰も演奏したことのない場所でコンサートをすることが夢です。
音楽で地方創生に貢献できるよう頑張ります!