ろうそくの灯は震災の思いを千年先まで伝える。気仙沼と全国が繋がる14年目「ともしびプロジェクト」【宮城県気仙沼市】

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2023年「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」

ともしびプロジェクトは、東日本大震災の記憶とその時代を生きた人の思いを後世に伝え続けていくために、毎月11日を「ともしびの日」としてキャンドルに明かりを灯しSNSで共有するという、誰でもどこからでも参加できるキャンドルイベントだ。代表の杉浦恵一(すぎうらけいいち)さんは、震災ボランティアを行いながら2011年に宮城県を中心にスタートした。その後、オリジナルキャンドルの製造、販売を開始し、現在は宮城県気仙沼市にキャンドル工房を立ち上げ、運営をしている。2011年から13年もの間欠かさずキャンドルを灯し続けてきた杉浦さんは今なにを思うのか。

「ともしびプロジェクト」代表 杉浦恵一さん

13年間毎月11日に全国で明かりを灯しつづける

杉浦さんがともしびプロジェクトを始めたのは、震災ボランティアの経験がきっかけだった。震災直後にボランティアで気仙沼を訪れて、徐々にまちが復興していく中で、地域の人たちの「震災を忘れないでほしい」という声を多く耳にした。その思いを受け、杉浦さんは「忘れないをカタチに」を合言葉に、2011年11月11日から、月命日となる毎月11日にキャンドルを灯す活動を始めた。Facebookで参加者を募り、各地でろうそくに灯して自分のSNSに投稿。プロジェクトに参加する人は、全国や海外に広がった。

「震災から10年が経った時、まだこのプロジェクトはやり続けたほうがいいなと感じました。なぜかという理由が明確にあるわけじゃないけど、また次の10年へ自分が繋いだ方がいいという気がした。戦争の記憶や思いを未来に伝える手段としてはドキュメンタリー映画のような映像作品などもあります。ただ非常にデリケートな話なので、体験した人が語れるようになるまで時間がかかってしまったり、語る前にいなくなる可能性もあるんです。他に未来につなぐ方法はないのか。それが灯すという活動です」

ともしびプロジェクトの発足から10年、次の10年を見据えた形で、2021年3月11日に全国で青いキャンドルを灯すイベント「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」が立ち上がった。2023年のイベントでは全国47都道府県5カ国で5827本ものキャンドルが灯った。

2023年「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」キャンドル工房。ここでキャンドルの製造を行っている。

灯すという行為は世代、時間、空間、宗教をも超える

「なぜキャンドルに火を灯すのか。例えば、石碑などのモノで震災の記憶や当時の様子を伝えることもできるが、時代が変わるにつれてモノの見え方、感じ方も変わってしまうんですよね。壊れたり、失くしたりもするから、モノが伝えられる時間軸はそれほど長くない。一方で、灯すという動きそのものはいつの時代も一緒。2024年(令和6年)ここ気仙沼でキャンドルに火を点けること、これって832年(天長9年)に空海が高野山で始めた万灯会(まんどうえ)※でろうそくを灯したこととやっていることは同じ。誰がいつどこで行ってもキャンドルに火を灯すという行為は変わらない。空海もキャンドルナイトをしていたんです」

※多くの灯明をともして仏・菩薩を供養する法会。空海が高野山で行った万灯会をきっかけに、京都の諸寺でも盛んに行われるに至った。

「面白いのが、仏教だけじゃなくて神道でもキリスト教でもろうそくに火を灯すということ。ほとんどの宗教でろうそくのもと儀式を執り行うので、灯すという活動そのものを軸に置けば、宗教を超えることができる。あと、灯すという活動の大事なポイントで、灯は火でないといけない。この灯りがLEDだと意味がないかなと思います。感覚的な話なんだけど、人はなにか火に魅せられるものがある。最近のキャンプブームで焚き火が流行っているのも同じ理由じゃないかな」

2022年「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」僧侶と神父が手を取り合う。

思いが外から集まり、中から生まれ、上から下に伝わっていく

ともしびプロジェクトはこの13年間で全国の人たちの思いを被災地に届ける役割を果たしてきたと思います。被災地の外にいる方々が中の人と関わりを持とうとして、プロジェクトを大きく育ててくれた。今後は市内から動きを作っていきたいです。少しずつ外からの思いが気仙沼に集まり、プロジェクトを通して気仙沼の若者に伝播している。現に3.11 BLUE CANDLE NIGHTのプロジェクトメンバーで地元出身の若者も出てきた。地元の人がもっと関わっている状態ができるといいなと思います」

「また、以前地元の青年から聞いた話で、震災のときに小学生だった彼は当時のことを覚えていたが、まだ幼かった弟には記憶がなかった。僕たちが弟のような子供たちに当時の記憶を伝えていかないといけないと震災から時間が経つにつれてだんだんと思うようになったと言っていました。震災後に生まれた子供たちにも、この土地のアイデンティティとして受け継がれていくものがあるはず。体験していない人にその経験を伝える手段としてともしびプロジェクトがあればいいなと思います」

2023年「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」杉浦恵一さん

新たな祭りの誕生

「今後のともしびプロジェクトとして明確に目指すゴールはないですが、祭りのようになると面白いなとは思います。疫病退散の祭礼が大きくなり祇園祭になったように、鎮魂や追悼の想いが集まり結果的に祭りに昇華していくようなイメージ。とはいえ別に活動を続けた先で具体的にはなにかが見えているわけではないけれど、繋いでいくこと自体には価値がある。何百年も前と同じことをずっとやり続けていくことって凄いことだと思います。震災というテーマだけに扱いの難しさはあって、積極的に活動を宣伝したり、一緒に伝えようよ!と呼びかけるようなものではないなかで、伝えるために行動したい人が現れた時にとれる手段として存在している、そんなあり方がいいですね」

2023年「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」にてキャンドルに火を灯す様子
tate

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宮城県気仙沼市

編集部記者

宮城県気仙沼市在住。大阪、京都、川崎、、、
その地域ならではの美味しい食べ物と美味しいお酒が好きです!特に東北の魅力を伝えていきます!

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