パイナップル搾りかすで豚を育て、メタンガスを47%削減する和牛飼育。循環型産業と環境負荷軽減を目指すやえやまファームの科学と農業のコラボレーション【沖縄県石垣市】

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沖縄県は2023年度、たくさんの「お宝=魅力」をもつ離島各所の事業者さんたちが、SNSなどの『デジタルツール』を利用してさらに魅力的な発信をしていけるように「沖縄県主催🌺価値を伝えて売りまくるためのデジバズ講座」という取り組みを行っています。この記事は、参加された事業者さんを対象に、「ローカリティ!」のレポーターがその輝く魅力を取材し執筆したものです。沖縄離島の魅力をご堪能ください。

やえやまファームはロート製薬の子会社として「薬に頼らない製薬会社」という思いのもと、ロート製薬の食事業の一つの取り組みとして2002年に設立しました。日本唯一の有機パイナップル栽培に挑戦したり、パイナップルジュースの搾りかすを飼料として与えたブランド豚(南ぬ豚/ぱいぬぶた)や泡盛粕発酵飼料を与えてメタンガス排出が少ない石垣牛を育てています。

本来捨てられるはずだった地域産の廃棄物を利用することで、地域全体の循環型産業を促進し、環境への影響を最小限に抑えることにも注力し、より健全で持続可能な未来への道を切り開いています。

やえやまファームの代表取締役の中家勝則(なかいえ・かつのり)さん、宮崎大輔(みやざき・だいすけ)さん、町田農人 (まちだ・たみと)さんにお話を伺いました。

サステナブルな事業運営のための問いかけ「ちゃんと儲かるのか?」

中家さんは、商品企画・営業企画・経営施策などの経験を経て、アグリファーム事業部へ異動し、石垣島に赴任しました。「沖縄県外からやってきた内地の大きな企業が石垣島の人たちから信頼を得られるまでに10年以上かかりました。島に突然よそ者が入ってきて、地元で農業を一緒にやっていくというのはなかなか大変な試みでした」と当時の様子を教えてくださいました。

多くの大企業が農業を手がける場合、収益性を度外視したボランティア的な要素が多くなってしまいます。やえやまファームでは真のサステナブルな事業を行うためには収益性を確保しないといけない、持続可能な事業モデルを構築することを常に意識しています。これは、地域社会への貢献、農業支援、雇用創出といった社会性を追求しつつ、ひとつの会社としてちゃんと収益を上げて自走できることを目的としています。

「夢もいっぱいある。アイデアも無尽蔵にあるのだけど、儲かるか儲からないかというふるいにかけると実現がいかに難しいかがわかる。特に農業は収益を生み出すのが難しい分野。そこをアイデアでいかに収益が出せるようにするかをこだわりを持ってやっている」と中家さん。実際、収益性が未確立の多くの事業アイデアは保留状態にあるとのこと。「ちゃんと儲かるの?」という問いを常にチームメンバーは意識しながら、地域に価値を提供する方法を模索し続けています。

「育てて送り返す」総合力の高い人材育成

ロート製薬の人材育成の一環として、やえやまファームに一定期間出向し、再び元のポジションに戻るというサイクルを通じて、ロート製薬の社員の総合力を高める取り組みが行われています。大企業では、特定の業務、例えば5年間ドラッグストアの営業を担当するというように、業務が限定されることが一般的です。業務が細分化され限定的になってしまうと、幅広いスキルや深いスキルを身につける機会が失われ、発想が小さくなってしまう傾向があります。

社員を子会社に送り込んで経営に近い視点でビジネスを回すという経験を提供することで、総合力を発揮できるような人材育成につながっていると考えられているようです。
やえやまファームに送り込まれた社員は、営業、商品企画、さらには経営まで、幅広い分野の仕事を経験する機会が与えられています。3年から5年の期間で「育てて送り返す」というイメージで、また新しい人がやってくる。

やえやまファームでの取り組みは、社員が経営者に近い視点を持ち、より総合的な能力を身につけることができるため、ロート製薬にとって、コストパフォーマンスの高い人材育成手法と考えられています。やえやまファームでの就業経験は、ロート製薬の人材育成戦略の中核を担っているともいえるでしょう。

有機パイナップルを作り続ける理由

やえやまファームでは石垣島の崎枝(さきえだ)農場にて、日本唯一のJAS認定を受けた有機パイナップルを生産しています。土壌づくりに5年以上、育て上げるのに2年の歳月をかけ、パイナップルを知る人からは絶対不可能と言われた有機パイナップル栽培を成功させました。しかし、有機パイナップルに関しては赤字が続いており、現状ではやればやるほどお金が出ていくという状態であるとのこと。

「ロート製薬は健康をコアテーマに掲げ、その一環としてやえやまファームを経営しています。その中に化学肥料や化学農薬に頼らないという選択肢があってもいいんじゃないかと思うんです。そういった意味ではロート製薬の子会社であるからこそ、有機パイナップルにチャレンジしているというのが一つの理由です」と中家さん。

ただし、将来的には収益化ができなければ持続可能な農業にはなりません。そのため、積極的なブランディング、コスト削減、栽培方法の見直しを通じて、事業の収益性を高めるための努力を重ねています。これにより、健康志向の農産物が収益を上げ、同時に農家さんたちに有機パイナップルの栽培を水平展開できるようになる可能性が広がることが期待されています。

パイナップルで美味しくなる「南ぬ豚/ぱいぬぶた」

やえやまファームは、「南ぬ豚/ぱいぬぶた」という独自のブランド豚を育てています。この南ぬ豚に、パイナップルのジュース生産時に余る搾りかすの発酵飼料を与えることで、腸内の菌を整え肉質がよく甘味が強くて脂がしつこくない健康な豚が育ちます。

パイナップルのジュースの搾りかすを餌に活用できることは、ウクライナの関係で価格が上昇している輸入飼料を買わずに済み、搾りかすを廃棄するための産廃費用や運搬による環境負荷がかからないために経済的にも環境的にもコスト削減につながっています。

また、畜産で大量に発生する牛や豚の糞尿を発酵させ、堆肥を農場に使うことで、栄養たっぷりなパイナップルを育てています。やえやまファームは、この「ファームの外から何も持ち込まない、何も捨てない」という循環型農業を目指しています。

メタンガス47%減少!和牛の飼育方法に革命を

やえやまファームでは良質な牧草と発酵飼料を与えることで、腸内の細菌を整えて健康的な石垣島産黒毛和牛を育てています。最近の研究では、石垣島内の泡盛メーカーから提供された泡盛の搾りかすを石垣牛に食べさせることで、環境に悪いとされる原因のひとつである牛のげっぷの回数が減り、メタンガス排出量が減少することを発見しました。

ロート製薬の子会社であることの強みを生かし、飼料としての搾りかすの有効成分や腸内細菌に及ぼす影響を科学的に検証しています。実際にメタンガスを47%削減するなどのデータを取得し、これを更なる研究に活かしています。

石垣島の泡盛メーカーでは製造過程で蒸留粕が副産物として発生し、この搾りかすの保管や廃棄に長年悩まされてきました。この研究は本来捨てるはずだった泡盛の搾りかすを有効活用でき、環境への影響を減らす大きな一歩であり、和牛の飼育方法に革命をもたらす可能性があります。

やえやまファームでは石垣島で大量に発生する泡盛の搾りかすの他にも廃棄塩、サトウキビの搾りかすなど、自社内循環だけではなく、島内で発生する廃棄残さをうまく活用し、地域全体での循環型農業を実践しています。

やえやまファームだからこそできることを

「もしかしたら泡盛だけではなく、日本酒の搾りかす、ビールの搾りかす、焼酎の搾りかすなども、和牛に食べさせることで、メタンガスが減少して環境負荷が少ない和牛ができるかもしれない」と追って研究を進めているそうです。

全国各地の酒造り工場や醸造所から出る搾りかすがメタンガス減少に有効だと認められ、和牛に餌として提供する取り組みが広まれば、メタンガスの排出量が大幅に削減され、環境負荷が大幅に軽減されることになるでしょう。

「この研究成果によって、環境に優しい畜産が全国に広まってほしい」と中家さんは願っています。将来的に「環境負荷が少ない和牛の普及活動」の実現に向け、研究をさらに進展させる予定です。

「他の農家の方と全く同じことをしているだけでは、私たちの存在意義が薄れてしまいます。一農家でありながら、科学的な知見を駆使して日本の農業をよりよくする、というのがやえやまファームの存在意義だと考えています」

やえやまファームだからこそできる、科学と農業のコラボレーションを通じて、環境にも人にもやさしい食の未来を創造することを目指しています。石垣島から日本全体に広がり、和牛を育てる人にとっても食べる人々にとっても地球環境にとっても良い、三方よしの影響をもたらすでしょう。

「美味しい」を通して知ってもらう

やえやまファームの商品で、特におすすめの商品は「南ぬ豚」100%の網脂(あみあぶら)ハンバーグです。網脂(腸の膜)でラッピングしているため、焼いて切るまで肉汁を中に閉じ込めておくことができます。食べる時にも肉汁が溢れ出て南ぬ豚の美味しさが存分に味わえる逸品です。

「やえやまファームの(おいしい)を通して、循環型農業の取り組みや、日本の農業が今危機的状況であることなどの背景を知ってもらい、思いを馳せていただけたら大変嬉しく、生産者冥利に尽きます」と中家さん。

早速筆者は通販で南ぬ豚網脂ハンバーグ3種食べ比べセットを購入し、ノーマル、島とうがらし入り、島こしょう入りを堪能しました。口に入れた瞬間、甘味と旨みが絶妙で弾け飛ぶ肉汁、舌の上で南ぬ豚がゆっくりと浸透していくような幸せな時間が訪れましたが、あっという間になくなってしまい「永遠に食べ続けられたらいいのに」と名残惜しくなるほど。


やえやまファームでは直接農場見学することはできませんが、高松市に本社のある琴平バス株式会社と組んで、オンラインファームツアーを不定期で開催しています。家にいながら旅行気分を味わえるように、ツアー参加者に事前にやえやまファーム産のパイナップルジュースまたは南ぬ豚ハンバーグ&無添加ソーセージを送り、オンラインでパイナップル畑と幸福牧場の両方を見学をしながら生産者と交流ができます。全国どこからでも参加できるので、是非ツアーに参加して、やえやまファームの取り組みや石垣島の魅力を体験していただければと思います。

やえやまファーム

やえやまファーム公式オンラインショップ
https://yaeyamafarm.com/

やえやまファーム公式サイト
https://yaeyamafarm.net/

坂本友実

坂本友実

静岡県富士宮市

編集部記者

「生き物の精密模型」という非常に限定的な市場で、ニッチな商品を届け方を追求した経験から、いいものなのにマイナーすぎて売れない、伝えるべき人に伝えられなくて歯痒い、という問題を解決したく、媒体にぴったりなアプローチによって「伝えたい想い」を「届けるべき人」に届け、機会損失をなくしていきたいです。

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