詩と音楽で言葉を超えた祈りを紡ぐ。嵐山でシター演奏と詩朗読の共演【京都府京都市】

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2024年12月7日、詩朗読とシター演奏の共演イベント「祈りの楽器 シタ―と紡ぐ音楽と文学と~澄み切った共感のひとときへ~」が開催されました。会場は京都・嵐山のローズカフェ「ラビアンローズ」。詩と音楽に込めた祈りのひとときの様子と、当日に合わせて満開に咲いたバラの秘密を朗読作品とともにご紹介します。

満開のバラが歓迎するカフェ「ラビアンローズ」

旧約聖書にも登場。祈りの楽器「シター」

「シター」という楽器を初めて耳にする方も多いかもしれません。ところが、歴史は古く旧約聖書にも名前が登場しています。120本あまりの弦を張り、右手で旋律、左手で和音を指で弾いて演奏する楽器です。神を賛美する歌や感謝の祈りの伴奏楽器として伝えられてきました。

120本あまりの弦。演奏前にはすべてを調律します

平和の祈りを音に乗せ活動を展開。シター奏者・白井朝香さん

白井朝香(しらい・あさか)さんは広島在住のバイオリン、シター奏者です。1988~94年まで新広島フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者を務めていました。現在は広島を拠点に、ドイツ、イタリア、韓国、フランスなど全国各地で公演を重ね、平和への祈りを音楽とともに届けています。

白井朝香さん。指先から生まれる音色に心が洗われます

大阪文学学校の松本衆司チューターと学生による詩朗読

大阪文学学校のチューター松本衆司(まつもと・しゅうじ)さんと学生8名が自作詩を朗読しました。バラに寄せた詩、平和への願い、暮らしの風景、葛藤や喪失…。さまざまな思いが詩に込められていました。そして、詩の言葉に共鳴して奏でられるシターの音色。そのひとつひとつに会場中が心を寄せていました。朗読作品から月川奈緒(つきかわ・なお)さんの「薔薇家族」を一部抜粋してご紹介します。

詩「薔薇家族」/月川 奈緒

長女が生まれたとき
一株のバラがやってきた
バラは増えて
庭を埋め尽くし
バラの小径ができた
乳母車から三女を抱き上げ
家族で笑うセピア色の写真
バラを植えるときは
お風呂みたいに深く土を掘る
庭に積み上げられた藁はふかふかベッド
飛び跳ねる子どもたち
その中に次女のわたしもいた
冬を越すバラの畝に藁をたっぷり
明日の朝には咲きそうだ
待ちきれない父は
バラの傍らで バラの寝息をききながら
夜露に濡れて眠る
朝日とともに 肉厚の花びらが開き
かぐわしい薫りを放つ
~中略~
家族は
いつもどんなときも
薔薇とともにいた
ここにだけ咲く薔薇の花
未来に向けて希望の花びらをつなぐ
ありったけの手間と愛情を注がれて
たくましく育った幹や枝に
花の精が戯れ
棘は誇らしげに伸びている
冬空のもと

「薔薇家族」の正体は

バラ園の中にあるカフェ「ラビアンローズ」。ご当主の亀山寧(かめやま・やすし)さんは世界有数のバラ栽培家で、月川奈緒さんのお父様でもあります。詩に登場する「父」は亀山寧さん、「次女」が月川さんです。父・寧さんは、元々は国語教師でした。月川さんが文学に惹(ひ)かれることも自然な流れだったかもしれません。しかし、親に対する反発で素直に文学を志すことが出来ない葛藤がありました。父親、家族、そして自分自身の生い立ちについて、正面から向き合い詩作することを避けていたという月川さん。この朗読会がきっかけとなり、詩「薔薇家族」が生まれました。「親孝行ができました。」と話す月川さん。いつもそばにあるバラも家族の一員だと詩から伝わってきました。

月川さんの朗読。30名を超えるお客様で会場は満席です

「この日のために満開に咲くバラ」の秘密とは。

イベントの開催は12月7日。この日に合わせてバラが満開になるように、亀山さんが約半年前から丹念に育ててきました。そもそも秋バラの旬は10月~11月。旬を過ぎているうえに、ねらった1日に満開となるように開花を調整するのは奇跡の技です。「どんな手入れが必要かはバラを見ていたらわかる。どのような剪定をどの時期にするかで命が決まる。もちろんそれは品種ごとで違います。バラの成育を見ればどんな手入れをしてきたか、栽培者の性格まで見抜けますよ。」と話す亀山さん。生半可な努力ではまねできない卓越した観察力と技術、そして惜しみなく注ぐバラへの愛情がうかがえました。

亀山寧さん。世界的権威のある英国・国際バラ品評会で優勝した時の記事とともに

当日、会場には亀山さんご夫妻の姿がありました。娘・月川奈緒さんの詩朗読、重なるシターの音色、耳を傾けるお客様…会場中がひとつになる瞬間でした。「この日のために育ててきた。無事に満開になってよかった」と誇らしげな笑顔でお話ししてくださいました。

会場で挨拶をする亀山さん(右端)

詩と音楽とバラで紡ぐ共感のひととき

後半は平和への祈りを込めたシター演奏と詩朗読が続き、締めくくりは松本衆司さんによる朗読でした。「悩める人の多い現代社会で、詩が果たす役割は必ずあると信じます。癒しとなり、再生の力となることを願っています。」と語る松本さん。ご自身の半生を刻んだ詩の朗読とともに、詩の持つ可能性を示されました。

松本衆司さん。朗読により言葉が一段と心に迫ります

詩と音楽で紡がれた共感のひととき。それぞれの祈りが世界の片隅にまで届くようにと、満開のバラが会場を見守ってくれていました。

「祈りの楽器 シターと紡ぐ音楽と文学と~澄み切った共感のひとときへ~」プログラム

≪シター演奏≫

白井朝香 「野ばら/ヴェルナー」「庭の千草」「彼方の光」「聖歌 鳥の歌」「聖母の御子」など

≪朗読≫

「花守人の庭」なかもり あつこ
「薔薇家族」月川 奈緒
「男も女も」紺 こはる
「ゆすらんめ」なかたに なつこ
「憧れて」四宮 メイ
「思い切って」あおき むつこ
「棘」中本 祐子
「水をちょうだい」浅井 歌音
「ひとときの詩」「新しい伝記のために」「ロスト」「嵐山プロセス」松本 衆司

≪合唱≫ きよしこの夜

≪お茶菓子≫ バラのお菓子3種(浅井歌音さんの手作り)、ローズティー

主催/ラビアンローズ、音を楽しむ会

バラづくしのスイーツを堪能しました

ラビアンローズInstagram @lavieenrose_kyoto
白井朝香Instagram @asaka72
大阪文学学校HP https://www.osaka-bungaku.or.jp/

大野佳子

大野佳子

生まれは福井、育ちは大阪。公務員、栄養士、農業、食品加工の遍歴あり。「農と食」のフィールドでセルフ人事異動(転職)を行ってきました。
現在は農業と福祉を連携させた商品づくりに取り組んでいます。「暮らし」に感動し、「科学」に挑戦し、「芸術」を愛して生きています。趣味はカフェ巡りと数学です!

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