初夏の郷土料理「笹巻」とは? 次世代につなぐ庄内の食文化継承【山形県鶴岡市】

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笹の葉を手に、参加者が講師と一緒に笹巻作りへ挑戦した

山形県鶴岡市で行われた「つるおかふうどマルシェ」で、郷土料理「笹巻」作りの体験会が開かれた。
笹の葉でもち米を包み、ひもで結ぶ素朴な作業の中に、家庭で受け継がれてきた食文化と、地域の味を次世代へ伝えようとする人々の思いがあった。

会場となったFOODEVERはJR鶴岡駅から徒歩1分

食文化発信拠点「FOODEVER」での取り組み

山形県鶴岡市のJR鶴岡駅前にある食文化発信拠点「FOODEVER」で、「つるおかふうどマルシェ Vol.1」が開かれた。今回のテーマは鶴岡の郷土食のひとつ「笹巻」作り体験。参加者が講師の解説を見聞きしながら笹巻作りに挑戦した。

笹巻は、笹の葉でもち米を包み、い草などのひもで結んでゆでる庄内地方の伝統食である。端午の節句などの行事と結びつき、初夏を代表する郷土料理のひとつとしてかつては多くの家庭で作られてきた。しかし近年は、担い手の減少や生活様式の変化により、家庭で作る機会が少なくなっているという。

笹の葉の重ね方や米の量を確かめながら、丁寧に形を整える

「包む」「結ぶ」作業に込める個々の思い

私が驚いたのは、一見単純に見える「包む」「結ぶ」という作業が見ている以上に難しいことだ。笹の葉をどう重ねるか、米をどのくらい入れるか、ひもをどの向きに回すか。参加者の手元を見ていると、同じ笹巻を作りつつも、一つ一つの形に個性が表れていた。

笹の葉を折り、もち米を入れ、形を整え、ひもで結ぶ。慣れた人の手つきは迷いがなく、葉が自然に器のようになっていく。一方、初めて参加した人たちは、講師に確認しながら何度も手を動かしていた。難しそうにしながらも、うまく形になった瞬間には笑顔がこぼれる。郷土料理は、食べるだけではなく、手を動かして初めて分かる文化なのだと感じた。

講師の手元を見守り、笹巻の包み方を学ぶ参加者たち。ときおり笑顔も

体験の広がりと「つるおかふうどマルシェ」の歩み

今回の体験会には鶴岡市内外から13人が参加。笹巻を食べたことはあっても作ったことがない人や、改めて作り方を学びたい人もいたという。地域によって笹巻の形や結び方にも違いがあり、参加者はそれぞれの手で庄内の食文化に触れていた。

「つるおかふうどマルシェ」は、鶴岡の食文化を体験と販売の両面から伝える取り組みとして、昨年度から始まった。昨年度は年6回開催され、笹巻のほか、さくらんぼの食べ比べ、在来作物の食べ比べ、米おこし作りなど、季節ごとのテーマで実施された。今年度の第1回として選ばれたのが、笹巻だった。

ひもで結んだ笹巻を鍋でゆで上げ、初夏の味が仕上がっていく

「やってよかった事業」体験から生まれる人のつながり

鶴岡市の担当者である齋藤 光(さいとう・ひかる) さんは、「笹巻はこの時期の食文化として、取り上げたいテーマでした」と話す。運営には、鶴岡食文化創造都市推進協議会や食文化を伝える「鶴岡ふうどガイド」が関わっている。鶴岡ふうどガイドは市が事務局を務める同協議会のもとで認定・育成され、現在は任意団体として活動している。「事業を始めた当初は、参加者が集まるか不安もありました」と語る齋藤さん。しかし実際には、各回で定員を上回る申し込みがあり、「こういう体験を求めている人が多くいるのだと分かりました。やってよかった事業だったと感じています」と振り返った。

会場には地元の生産者が作った笹巻も並び、庄内の味を持ち帰れる販売コーナーも設けられた

食文化を学び、受け継ぐ場として

印象的だったのは、この取り組みが単なる料理教室ではないことだ。笹巻の作り方を学ぶ場であると同時に、なぜその料理が地域に残ってきたのか、どの季節に食べられてきたのか、家庭や行事とどう結びついてきたのかを知る場でもある。参加者同士が教え合い、地元の人と言葉を交わす時間もあり、体験を通じて人のつながりが生まれていた。

齋藤さんは、庄内の食の魅力について「派手さはないかもしれませんが、素材が一番だと思います。春夏秋冬、それぞれの季節に味わえるものがあるのが魅力です」と話した。笹巻もその一つであり、旬や行事とともに受け継がれてきた食文化である。

笹巻がデザインされた小物も並び、親しみやすく食文化を紹介

一方で、課題もある。笹巻を家庭で作る機会が減り、作り方を知る人も少なくなっている。だからこそ、こうした体験型の催しが持つ意味は大きい。参加者が実際に手を動かすことで、「知っている料理」から「自分も作れる文化」へと距離が縮まる。観光客にとっては地域を深く知る入口になり、地元の人にとっては暮らしの中にあった食を見直す機会になる。

今後の「つるおかふうどマルシェ」では、夏には民田(みんでん)ナスや外内島(とのじま)キュウリなど鶴岡ならではの在来作物、秋には地魚を使った練り物、冬には酒に合うさかなや酒の飲み比べなども検討しているという。齋藤さんは「毎年まったく同じ内容ではなく、少しずつ変えながら続けていきたい」と話す。

ユネスコ食文化創造都市・鶴岡の歩みを伝える

次世代へつなぐ庄内の食文化

鶴岡は、日本で初めてユネスコ食文化創造都市に認定された地域である。その価値は、有名な料理や特別な食材だけにあるのではない。笹の葉を折る手元、ひもを結ぶ迷い、完成したときの小さな達成感の中にも、地域の食文化は確かに息づいていた。

多彩な食材と食文化が描かれた「食の理想郷」紹介マップ

笹巻作り体験を通じて、私は郷土料理の継承とは、単にレシピを残すことではないと感じた。作る人の手、教える人の言葉、食べる季節、集まる場所があって初めて、文化は次へ渡っていく。私が驚いたのは、笹巻が「食べる郷土料理」ではなく、「手で覚える郷土料理」だったことだ。笹の葉を折り、もち米を包み、ひもで結ぶ。その一つ一つの動作に、家庭で受け継がれてきた時間が残っているように感じた。完成した形の美しさよりも、迷いながら手を動かす過程そのものに、食文化を次へ渡す力があると気づいた。

鶴岡駅前を拠点にしたこの取り組みが、地域の食を楽しみながら学ぶ場として広がり、地元の人にも訪れる人にも、庄内の食文化を身近に感じる入口になっていくことを期待したい。

※写真は全て2026年4月25日筆者撮影
取材協力:鶴岡市食文化創造都市推進課

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。2025年には写真を通じた地域情報発信の一環として、郡山市(福島県)の市民カメラマンも務めた。

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