
アルザス地方を旅していると、「ここは本当に現実の街なのだろうか」と思う瞬間がある。その代表が、フランス北東部の街コルマールだ。
コルマールはよく「おとぎ話の街」と紹介される。おとぎ話の世界が生まれそうな場所なのである。
映画『美女と野獣』や、スタジオジブリ作品『ハウルの動く城』のモデルになったという説は有名だ。実際に歩いて検証してみることにした。

目次
ベルが歩いていそうな街並み
ディズニー映画『美女と野獣』については、コルマールを公式にモデルと認めているわけではない。しかし、旧市街を歩くと、ベルが暮らしていた村を思わせる景色が次々と現れる。
道ゆく人々に「ボンジュール」とあいさつを交わしていくと、映画冒頭シーンの曲が頭の中で流れてしまう。映画同様に、気さくな村人が多い印象だった。
観光客向けに再現された街ではなく、本物の歴史の上に成り立っていることが、この街の魅力だと感じた。旧市街中心部の市場周辺には中世から続く建物が残り、現在も人々の暮らしの中で使われている。

ハウルとソフィーが眺めた風景
一方『ハウルの動く城』についても、制作陣がコルマールを取材したという公式記録は確認されていない。しかし、実際に街を歩くと、作品との共通点をあまりにも数多く感じる。
石畳の路地を抜けると突然現れる広場、曲線を描く屋根、色彩豊かな木組み建築。まるで映画の背景美術を現実世界に再現したような風景が広がっている。
むしろ「コルマールがハウルのモデルだった」というより、「ジブリ作品の再現度が驚くほど高い」と表現した方が正確かもしれない。
宮崎駿作品が描くヨーロッパの街並みには、多くの実在する都市の要素が取り入れられていると言われる。コルマールを歩いていると、その世界観の源流のひとつを見ているような気持ちになる。

戦争を生き延びた街
コルマールの美しさは偶然残ったものではない。
アルザス地方は歴史的にフランスとドイツの間で何度も領有権が入れ替わった地域であり、住民たちはそのたびに国籍の変更を経験してきた。
第二次世界大戦中には激しい戦闘も起きたが、旧市街の多くは大規模な破壊を免れた。そのため16世紀から18世紀にかけて建てられた木組み建築が今も数多く残されている。
ヨーロッパの歴史ある街の中には戦後に再建された場所も少なくないが、コルマールでは何百年も前の街並みを現在も歩くことができる。

フランスであり、どこかドイツでもある
コルマールを訪れて面白いのは、国境地帯だからこそ育まれた文化である。
行政上はもちろんフランスだが、街を歩いているとドイツ文化の影響を色濃く感じる。建築様式だけでなく、伝統料理にもその特徴が表れている。
アルザス地方を訪れたら、ぜひ味わいたい郷土料理がある。
ひとつは「ベックオフ(Baeckeoffe)」。豚肉、牛肉、羊肉をじゃがいもや玉ねぎとともに白ワインでじっくり煮込んだ料理で、寒い冬を乗り越えるために生まれた家庭料理として知られている。
もうひとつが「クグロフ(Kouglof)」である。王冠のような形をした発酵菓子で、レーズンやアーモンドが入ったほんのり甘い味わいが特徴だ。どちらもフランス料理というより、ドイツ文化の影響を色濃く残すアルザスならではの味覚である。
街歩きに疲れて立ち寄ったレストランでは、まるで絵本やアニメの世界に登場しそうな料理が待っていた。


※写真は全て筆者が撮影(2026.05.26)





